数ヶ月前に友人とランチをしていた時に「じつは裁判員をやった」と聞き、これは他の人達にも知ってもらうとよい内容だなと感じたのでインタビューしてきた内容を掲載する。
話を聞いてから数ヶ月経ってしまっているけれど、最近こういったニュースがあり、裁判員制度に注目が集まっている。
内容としては強盗殺人事件の凄惨な証拠の数々を見て急性ストレス障害になったというもの。
判決結果では請求は棄却された。
今回聞いた内容だと、断るタイミングはいくつかあるようだったし、報道の中で語られている「通知の段階で辞退項目はなかった」というのも違っているようだ。ここ最近で進め方が変わった可能性もあるけど報道に関しては「自分は凄惨な証拠を見た時に心を保てるか」と事前に察知するのも難しいな、という感想がある。
というわけで、裁判員制度について聞いていくうちに他にも色々と感じるところはあったので少し長いけど読んでいただければ幸い。
※ざっと概要は聞いたけど、ブログ記事として公開するにあたり最初から聞き直している
裁判員を終えるともらえるバッヂ
裁判員制度に参加したとのことでお疲れ様、そもそも「裁判員やった」っていうのは喋っていいの?
いいらしい。裁判員として参加すると「評議の秘密」というのがあって、誰が何を言ったか、判決がなぜそうなったかといった細かな経緯や、関係者のプライバシーに関わることはNGだけど、裁判結果である判決結果自体は公開されているし裁判は傍聴している人もいるのでどんな結果だったかは公開してもOK、あとは裁判員制度が実際どうだったかを公開してもらうのはむしろ歓迎とのこと。裁判長に「ブログに書いていいか」と聞いたら「むしろ書いてもらった方が嬉しい」と言われたしね。
なるほどね。じゃあ遠慮なく。そもそも裁判員になってくださいってのいうはどうやってお知らせがくるの?
実際に裁判を経験をしたのは今年の初めで、期間は1週間。通知は2013年の秋くらいに来たんだけど、一番最初は『2014年に行われる裁判員裁判の中で裁判員制度の対象となりました』という通知がA4くらいの書類で届く。これ自体は結構選ばれる人も多いらしいというのは知っていたから「へー、選ばれたんだ」くらいの感覚だったね。そこから実際に裁判員として参加する確率はかなり低いのでそこで終わりと思ってた。ちなみにその書類は通知だけなので返事をする必要とかは無いよ。
次に、年末くらいに『何月何日から行われる裁判員裁判の裁判員候補に選ばれました』というお知らせがくるのね。裁判の内容は書いてなくて、『最終候補選択をするのでこの日に裁判所に来てください』と日程が書いてあって、大体30~40人くらい集められる。よほどの理由がない限りは「参加する」で返す必要がある。
義務という側面もあると思うけど、裁判員になるのを拒否することは出来る?
絶対に抜けられない必要がある場合は、期限までに欠席事由を延べて返信すれば拒否することも出来るらしい。欠席事由が大事なんだけど「仕事が忙しい」とかは駄目で、よほどの理由がない限りは参加を求められる。例えば、自分ひとりで自営業をしていてその仕事をその期間はずれると生活が成り立たないという場合は認められることもあるみたい。
働いてる身で「仕事忙しい」は普通にありそうだけどそういうもんなんだね。会社にはなんて言った?OKだった?
自分の場合は補助を含めて8人が選ばれたんだけど、その選ばれる日は朝から裁判所行かないといけないので午前半休をとったのね。昼くらいに会社に戻って人事に説明をして、上司にも言ったんだけど「こんな機会は滅多にないから絶対に行ったほうがいい」と言ってもらえたよ。実は他にも社員で裁判員をやったことがある人がいたみたいで、前例があったのもあってすごく協力的だった。有給つかって参加しないと駄目かなと思ってたら特別有給を発行してくれて自分の有給は減らずに行けたしね。俺の会社はいい会社だよ(笑)
裁判所からのお知らせ
なるほどね。で、参加と返答してからはじめて裁判所に行くんだよね。最初に行った時は何をするの?
その日のスケジュールは通知書が来た時点でだいたい決まっているんだけど
・係員が今日のスケジュールの説明
・裁判長が出てきて事件の概要をざっくり説明
※その裁判長が司会というか説明をする
・加害者の弁護人と、加害者側を起訴している検察官が立って挨拶くらいをする(3人ずつくらい)
※被害者側の弁護人は出てこなかった
という流れなのね。その後に、血とか写ってたりして見た人が具合悪くなったりする場合があるから予め「この後事件現場の写真をお見せしますがOKですか?」と聞かれるのね。最終的に参加可能か否かを紙に書いて出して15分休憩に入る。NGと書いた人だけ呼ばれて「本当に駄目ですか?」と聞かれて、駄目ですと答えた人はそこで帰る。俺が参加した時はこの時点で数名帰ってた。
裁判所に行った時は名前じゃなく番号で呼ばれるんだけど、その説明を受ける部屋にホワイトボードがあって、次の段階に進む人の番号が表示されていくのね。PCでランダムで抽選らしいけど、最終的にはそこで6人のメイン裁判員と2名の補助裁判員の計8人が選ばれる。選ばれなかった人は『お疲れさまでした』で後日になりますが日当が支払わますという説明があって終了。日当が8~9千円くらいで、この時点で帰る人には半額くらい出るらしい。ここまででだいたい1時間くらい。
へー、日当が出るのか。そりゃ国の仕事を手伝うんだから当たり前か。メイン裁判員と補助裁判員って何が違うんだろう?
基本的に役割は変わらないよ。あとで話すけど、評議の最終決定権がないのと、補助裁判員は裁判時に裁判長の並びには座らないってくらいかな。
なるほど。8人が決まったらその後はどういう流れになるの?
残った人は今後のスケジュールや、裁判期間中1週間を過ごすための説明(裁判所に入って何階にエレベーターで上がって、入り口でこのパスを見せて、セキュリティの番号を入れて、この部屋に入って、とか)を受けて、集合時間と解散時間とかについて説明を受ける。
裁判の時の1週間は朝8時半か9時半集合で、だいたい17時半か18時までかかるんだけど、めっちゃ缶詰でいろんな話をするから意外と大変だよ。最初の4日間は裁判してる(自分の事件の場合)からわりと集中して話を聞けるけど、残りの2日間は審議ですごい大変。
ちょっと前後するけど、事件があった地域と裁判員たちが住んでいる地域とかは関係あるの?
沖縄の事件を東京の人がやるってのは無いだろうけど、関東圏は一緒みたいなので多分関係ないよ。遠方から来る人はホテル代も出るみたいだけど、どの程度までかはわからない。俺が参加した時の8人は近辺の人ばかりだったね。
8人はどんな構成?
男性は30代が4人、60代が1人。女性は40代が2人と60代の人が1人だったと思う。
聞いたところによると、全部女性になる時もあるし、全員高齢者になる時もあるんだって。比率とかもまったく関連性が無いし、完全にランダム。
でも裁判の内容によっては3日で終わるときもあるし、税金絡みとかは1ヶ月かかる時もあるから、長期間の裁判になると必然的に主婦ばかりという時もあるらしいよ。
どんな事件だったの?
概要は話していいのでざっと説明すると、数年前に都内でおきた傷害致死事件。被害者は男性で加害者は複数人。お互いに酒を飲んでいる状態で、殺意はないけど喧嘩の延長線上で死んでしまったという事件。暴行がいくつかの段階にわかれていて審議をするという内容。
裁判はどういう流れで進むの?
1日目から4日目までは裁判所で裁判を聞くのがメイン。
・1日目 加害者の弁論
・2日目 目撃者の証言
ここが結構細かい。例えばどのように凶器を使ったというところで「グリグリ」とかは駄目。右と左に何回動かしたとか、ぼんやりした表現がないよう事細かに聞いていく。
・3日目 目撃者の証言
解剖結果が医者からの意見として出てきて、暴行の程度がわかる
・4日目 被害者側の弁論
ってかんじ。
・5日目、6日目
ここで今までの4日間の内容を整理して最終的な判断をするのね。裁判長によって進め方が違うみたいだけど、裁判員たちが審議内容をゼロから整理して資料を作る場合もあるし、裁判長が資料を作って「ここはこうでいいですね」と確認をとる場合もある。
自分が参加した裁判は、裁判員たちで資料を整理するところもやったし判決文も一緒に考えた。なんかこう、プレゼン資料を作成しているかんじだね。とにかく事実だけをまとめて反論の余地がないような作りにした。
加害者にとってデメリットになるポイントはファクトベースで、「足で3回蹴った」とか「2回蹴った」とか目撃者の証言が無いと書いてはいけないので証言内容をベースにする。この蹴った回数とか暴行した内容によって刑期が変わるというわけ。
で、6日目の最後に判決を読み上げて終了。これが10分くらい。あっという間。
この進行にかける時間はすごく正確で、毎日行われているからか拘置所からくるバスが定時だからかわからないけど時間は絶対におさない。すごいもんだよ。
結構な作業量で大変なんだね、他の裁判員の様子はどうだった?
みんな真面目だよ。俺も最初はまわりに任せようと思っていたんだけど意外と入っていくもんでね。被害者は亡くなっているけど被害者の家族とか、加害者とか、その人の人生がかかっていると思うと判決を決めるときはかなり冷静に慎重にやるからさ。
裁判全体の雰囲気というか、どういうかんじなの?
ゲームみたいな「異議あり!」みたいなのは無いけど、弁論がとにかくすごい。検察側は裏を全部とってるので加害者のボロが出た瞬間に物凄い勢いで叩きこむし、詰められ方がハンパじゃないよ。
被害者側の代表からなにか一言ありますか、と促されるタイミングがあるんだけど、被害者のお姉さんが「家族を殺された気持ちがお前にわかるのか!」と手紙を読み上げたり、手紙を投げつけたりしてね...。裁判の時は加害者側と被害者側の中央に座るところがあるんだけど「加害者が座っていたところになんて座っていたくない」と言ってずっと立って話していたりね。
裁判を通して、どういう感想?
超いいよ。もし選ばれたら絶対やったほうがいい。物の考え方とかガラッと変わるよ。
こうやって人は裁かれるのかっていうのと、裁かれる時のみじめさを見ると被害者にも加害者にもなりたくないと強く感じたね。被害者側の弁論を聞いてる時は泣いてしまったし、普通の精神状態ではあの場に立っていられないと思うよ。
自分が加害者になる可能性は低いと思うけど、被害者になる可能性はそれなりにあるわけだよね。ちょっとしたイザコザから発展した事件だったから、それ以来なんていうか仏っぽいかんじになったね、マジで(笑)
被害者1人、加害者が3人、それにその家族全員の人生が狂ってしまうのを目の当たりにしたからね。加害者は裁判台に立たされて被害者家族からは「この人殺し!」って顔で見られてさ、加害者のお母さんが「一生償っていきます」って言ったり、加害者はこれから懲役で仕事もなくなるし。本当に人生がガラッと変わってしまうからね。
他の裁判員が言ってた言葉だけど「普段の生活で肩がぶつかったとかそういうちょっとしたことで腹が立つ瞬間はあるけど、この事件を思い出して気持ちを切り替えて穏やかにしていこうと思った」というのは、自分もまったくそう思うよ。ほんの少し気持ちをおさえれば犯罪に巻き込まれるリスクも少しは減るってわかったし、ちょっとしたことで人生が変わることも目のあたりにしたからね。
なるほどね、また裁判員になる可能性はあるのかな?
あるらしいけど今度は拒否する権利がつくみたい。「去年やったんでいいです」って軽く言えるっぽい。でも次きてもまた絶対やると思うよ。
意外だなーとか面白いなーとかそういうところはあった?
裁判長や裁判官が普通に親近感がもてる人だったのは意外だったかな。黒服きてる人とかすごい怖いカンジで無口なカンジがするけど、裁判官同士で一杯飲みに行ったりもするらしいし、新橋でビール飲んでたりするらしいよ(笑)
面白かったのは、裁判長がランチに連れてってくれたこと。趣味を教えてくれたり裁判長になった経緯も教えてくれたな。どういう思いでやってる、とかそういう話も聞けて身近に感じることが出来た気がする。カジュアルに家族構成とか教えてくれるし、奥さんとどこで出会って~とかもね。
裁判員のメンバーはずっと一緒にやるから終盤になるとそれなりに打ち解けてくるけど「1番さん」とか最後まで番号で呼び合ってたな。
裁判員終了後に感謝状とバッヂがもらえる
最後に、これ多分ブログとかに載せると思うんだけど裁判員制度の通知が来た人になんか言いたいこととかあれば
仕事休んでも是非経験して欲しい。普段の生活に対する考え方が変わる。1週間仕事をする以上のものを得ることが出来たし、すごく濃い一週間だった。(最初の日に、家庭裁判所の中をツアーしてくれるて法廷の様子とか見せてくれる。裁判長の椅子に座らせてくれたり法廷を見せてくれたりとか部屋を見せてくれるのも面白い)日本国民全員あれを経験すると多分犯罪率が大分下がる気がする。
あとは同じチーム内、会社のサポートもしてくれて本当によかった。それがあってこそ参加出来たので会社には感謝したい。
以上
スケジュール感をまとめると
・2013年秋 1回目の通知
・2013年年末 2回目の通知(返答)
・2014年1月上旬 説明を聞き、裁判員選定
・2014年1月下旬 裁判、判決
・1か月後くらいに日当振込(1日1万円くらい)
裁判後はアンケート書いておしまい。日当は6日の裁判参加で7万円ほどだったそう。
というわけで、裁判員は大変そうだけどやりがいもありそうなのでもし自分に順番がきたら是非やってみたいと思った。ちなみに、裁判員になることが決まったとか、裁判員をやっている最中とかは口外してはいけないそうなのでご注意を。
厳密に言うと第三者の目にふれるようなところで言ったり書いたりするのがNGだそうで詳細はこちら。
(2014年10月3日「941::blog」より転載)