「グリーフ」は聞きなれない言葉かもしれませんが、この言葉はホスピスにおいては避けて通れないものです。私は終末期医療を専門とする米国認定音楽療法士として、長年患者さんやそのご家族のグリーフと向き合ってきました。今日はこのグリーフというものが何かについて、みなさんからよくあるご質問にお答えします。
グリーフって何?
グリーフとは、直訳すれば「深い悲しみ」や「悲嘆」を意味する言葉で、大切な人を失ったときに起こる身体上・精神上の変化を指します。死別はもちろんのこと、離婚などによって関係がきれるとき、引越しで慣れ親しんだ場所から離れるとき、職を失くしたとき、ペットが死んだときなど、さまざまな状況で私たちはグリーフを経験します。グリーフは喪失に対する自然な反応で、誰にでもいつかは起こることです。
アンティシパトリーグリーフとは?
大抵の死には前兆があります。 アンティシパトリーグリーフ(anticipatory grief)とは、大切な人の死が差し迫ったとき、それを予期して起るグリーフのことを指します。つまり、最愛の人が亡くなる前からグリーフははじまっているのです。また、死に直面した人々もアンティシパトリーグリーフを経験する場合があります。アンティシパトリーグリーフはグリーフの症状とよく似ています。
グリーフの症状とは?
グリーフは、突然予想もしていない時に襲いかかってくるものです。あなたには次のような症状がありますか?また、あなたの周りにこのような症状を持った人がいますか?
- 物忘れがはげしくなる (例:頻繁に鍵をなくす)
- 何か言いかけて、忘れてしまう
- 物事に集中できない
- 沢山の人と一緒にいても寂しくなる
- 溢れ出すような気持ちに圧倒される
- テレビや映画を見ているとき、本や新聞を読んでいるときなどに突然イライラしてしまう
- 理由もなく泣き出す
- お正月、誕生日、結婚記念日、母の日などに大切な人を亡くしたという気持ちでいっぱいになる
- 気持ちが落ち着いた時期が続いたと思うと、突然理由もなくうつになる
- 亡くなった人、家族、または自分自身に対して怒りがある
- 大切な人が亡くなったという事実が信じられない(〇〇〇は死んだとわかっていても、いつか帰ってくるような気がする)
- 夫婦、兄弟、親子などを見ると亡くなった人を思い出し、突然悲しくなる
- 懐かしい場所に行ったり、亡くなった人がつけていた香水のにおいなどをかいだりすると、突然悲しくなる
- 周囲の人が自分の心の苦しみに気づかない、ということに驚いてしまう
- 亡くなった人の写真を思いがけなく見つけると、心が突然揺さぶられてしまう
- 人生が虚しく感じ、意味がないものに思える
- 亡くなった人が頻繁に夢にでてくる
- 体がだるく、疲れやすい
- 食欲がない
- 楽しいことをすると、罪悪感がある(〇〇〇は死んでしまったのに、自分だけ楽しい思いをしては申し訳ない・・・)
- 大切な人が、死によって苦しみから解放されたことにほっとしている。そしてそう思う自分に罪悪感を感じる
- 大切な人の死を防げなかった自分に罪悪感を感じる(例:もっと早く病院に連れて行けば〇〇〇は死ななかったかもしれない)
- 今までやっていたことに興味がなくなった(例:定期的にしていた運動をしなくなる)
- 忙しく予定をたてて悲しみをまぎらわせようとしている
- 亡くなった人が死に至った過程を何回も人に説明してしまう
- 懐かしい曲を聴くと、淋しくなる
このリストからもわかるように、グリーフの症状は人それぞれ違います。最愛の人の死後涙が止まらない人もいれば、しばらくの間ショックで悲しみを感じない人もいます。どちらが正しいというわけではなく、両方ともその人なりの自然なグリーフの症状なのです。
グリーフを乗り越える近道はありません。自分なりに一日一日を乗り越えていくことだけです。そのためにはまずグリーフというものの本質を理解し、受けとめることが大切です。また、時には専門家の助けを借りることも重要です。
アメリカでよく使われる言葉で、このようなフレーズがあります。
"There is always a light at the end of the tunnel."
トンネルの先には必ず明かりが見える、という意味です。グリーフはつらく長い道のりですが、その先には必ずあかるい光があるはずです。 (「グリーフ Q&A」より転載)
『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)参照
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