私の息子は小学校1年生。海外生活は3年目となり、平日はブリティッシュスクール、土曜日は日本語補習校、と2つの学校に通う生活を送っています。
多くの親が考えているように、私も子どもには、読み、書き、話すといった言語の運用能力や思考力を育んでほしいと思っています。どちらの学校もそういう能力(日本語と英語という言語の違いはありますが、ここで国語力と呼びたいと思います)を伸ばそうと熱心です。
どうやって国語力を伸ばすのか、子どもが2つの学校を体験する中で、1つ共通点を見つけました。どちらの学校も、毎日の音読、が宿題なのです。
それぞれの学校からリーディング・レコード、音読カードが渡されています。
音読は、国語力の基礎と考えているのでしょう。しかし音読のやり方は大きく違い、戸惑いました。
イギリス人教師が説く「本を読む楽しみを知る」ための音読
ブリティッシュスクールで私の息子は、個人のレベルに合わせた内容の本を毎週2冊、課題として持ち帰ります。物語もあればノンフィクションもあり、本人が興味のある本を選べます。イギリスの小学校ではそもそも教科書がないので、皆が同じ教科書を音読するのではありません。息子は、30から40ページくらい、字が大きい絵本のような体裁の本を与えられていますが、クラスメートでもレベルによっては80ページ以上の字が細かい児童向け文庫のような本を読んでいる子もいます。
レベルが上がってくると、音読よりも読書に近いスタイルになってきます。最初から最後まで音読するのを大人が聞くのではなく、一人で本を読むのが中心です。いずれにしても本をただ読むのではなく、内容について思ったことや関連する話を家で話し合うことがよいとされています。目指しているのは、いろいろな本を読んで想像したり知識を吸収したり、読書自体を楽しめるようになることです。先生には、
「音読の宿題は楽しくなくてはなりません。」
と言われました。
なるほど、音読は本を開く楽しみを学ぶものなのです。
日本語の音読って何だろう?
改めて、私は日本語の国語の音読が不思議に思えてきました。子どもが日本語補習校で宿題として持って帰って来る音読カードは、今習っている教科書の単元を毎日読んで、「こえの大きさ」「はやさとくぎり」「きもちをこめましたか」といったポイントについて、大人が評価し、コメントをするというものです。
国語の宿題では、音読カードの他に読書カードもあって、音読は音読、読書は読書、別々です。ブリティッシュスクールでの英語教育と違って、国語の教科書を毎日読むことと読書は別のことと考えられているように感じます。
音読は日本語の音や表現を口から身に付けるために必要、と説明する先生もいました。それだけでなく、脳に良い刺激を与えることや、感受性が高まるといった別の効果も指摘されていると聞きました。
日本人教師の意外な答え
「国語の教科書を毎日音読する目的って何なのでしょうか」
いろいろな説明も腑に落ちなかった私は、日本の小学校の先生に聞いてみました。
「学習指導要領を読んで私なりに解釈した個人的な意見でしかありません。他の先生は違う意見を持っていると思ってください」
と前置きした上で、先生は教えてくれました。
「自分の意見を口頭で表現できるようになるための、手法を習得することだと思いますね。」
全く予想しなかった先生の回答でした。私は驚きましたが、先生の説明は続きます。
「自分の意見を口頭で表現することが苦手な子どもが多いので、自分の意見を考えることと発言することを別のものとして分けて学ぶやり方になったように思うのです。音読の「声は大きく、はっきりと」のように手法化して、発言するための土台を身に付けることが狙いだと考えて指導しています。」
国語力を伸ばすために、「発言する」ことを大切にしたいという先生の意図は意外なものでしたが、納得できる気がしました。日本語の場合は、漢字の学習に多くの時間が費やされることもあり、知識を吸収することに比重が置かれていると思います。そのようなインプット中心の学習とバランスを取って、音読を発言、アウトプットする訓練という位置づけをしたのだと思います。
先生おすすめの音読スタイル
日本語の音読、英語の音読、どちらも音読ですが、目指しているところが全く違いました。そこで、我が家ではこの目的に従って、国語と英語で音読のやり方を変えることにしました。
日本語の音読は、発表会のようです。教科書を持って姿勢は正しく、発表をしているように音読します。確かに、音読カードでよい評価を取ろうとすると、自然とそういうスタイルになります。
英語の音読はもっとリラックスしています。学校では、ベッドタイム前の10分を使うことが勧められています。我が家の場合、眠る前は子どもが好きな本を読んであげる時間になっているので、子どもとソファに座ってのんびりできる時間に宿題の本を開きます。
英語の本を読もうと本人の意欲がある時は、最初から最後まで音読することもありますし、そうでない時は挿絵を見て、これは何をしているところか、次は何が起きるだろう、など会話をして終わりです。無理強いして本が嫌いになったら意味がないということで、先生のアドバイスに従いました。
私が接した先生の指導が学校教育の標準ではないのかもしれませんが、日本とイギリスの教育の違いについて考えさせられました。音読一つとってもそのやり方はだいぶ違いましたが、国語力の基礎として、音読の大切さがよくわかりました。
野口由美子 (ブログ Parenting Tips)
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