A君、Bさん、ご結婚おめでとうございます。
僭越ながら皆様のお時間をお借りして、私の方より祝辞を述べさせていただきたいと思います。
どんな話にしようかと悩んだのですが、ここは直球で「人はなぜ結婚するのか」という話をしたいと思います。
結婚式でするにしては、これ、直球どころか魔球かもしれないですけれど。
もう結婚しちゃいますし、ココだけの話、言っちゃいます。
実は、二人ともちょっと前までは「結婚なんてしたら自由がなくなっちゃうじゃん。もっと遊びたい!」なんて言ってた筋金入りの独身貴族だったんですよね。
だから、まさか二人がこうして結婚するなんて思ってもみませんでした。
結婚ってしちゃうと、御存知の通り色々な義務や制約が生まれます。
一緒に住まなきゃいけないし、財産も共有になるし、浮気もしちゃいけないし、相手の世話をしたり、養ったりしなきゃいけない。家と家の関係でもあるから苗字も一緒にしないとだし、お互いの実家に挨拶も欠かせない。
もう聞くだけでお腹いっぱいですよね。
一方、結婚することでできるようになることって何かあるでしょうか。
一緒にいたいだけなら恋人同士でいいですし、子どもだって何だかんだで結婚しなくても産んで育てることは可能です。
そう、結婚って制度は純粋に機能面だけみたら、できることは増えないのにできないことばっかり増えるんですよね。
これを「束縛がキツイ」「重い」「自由が欲しい」って思っちゃうのは仕方がないじゃないですか。
・・・と、そう思ってたのですけれど、今回私は特等席で、二人が出会って惹かれ合って、付き合いだして、こうしてついに結婚するにまで至った一連の流れを拝見しまして。
「人はなぜ結婚するのか」
ようやく分かったんですよ。
私は小さい頃、空を飛ぶのが夢で。
あの綺麗な青空の中をフワフワって好きな様に飛び回ってみたかったんです。
でも、人はやっぱり飛べないじゃないですか。
重力がとっても強くて飛ぶことはおろか走ることさえしんどいじゃないですか。
だから、何で地球の重力はこんなに重いんだろうって、自由にならない身体なんて、私を束縛する重力なんて要らないって、ほんといまいましく思ってたんです。
でも、それは間違ってたんですよ。
だって、鳥が自由に空を飛べるのも重力があってこそだから。
地球の重力のおかげで空気が地表に集まってきてるから、鳥は羽ばたくことで空気を押しのけて空に浮かぶことができるんです。
無重力の宇宙だったら空気が無いので羽ばたいても姿勢さえ変えることができません。そのまま真っすぐにどっかに飛んでってしまうだけです。
そこには何の自由もありません。
魚が自由に海を泳げるのだって、重力で水が地表に張り付いてくれてるから。
チーターが自由に大地を駆けるのだって、重力の支えで地面を蹴り上げることができるから。
どれも重力があってこそなんです。
さらに言えば、人が飛行機を作って空を飛んだり、ロケットを作って宇宙に出たり月に行くことができるのだって、重力のおかげです。
重力のおかげで、宇宙の塵が集まって地球という星ができて、そこに空気が集まって、水が集まって、生物が生まれて、人類に進化して、文明が発達したんです。
重力がなければ、自由に飛ぶどころか、そもそも人類が生まれることもなかったんです。
重い重力は見方によっては確かに束縛です。
でも本質はそうじゃないんです。
これは足場なんですよ。
更なる高みにジャンプするための、無限に広がる大空に飛び上がるための。
柔らかい豆腐の上では上手くジャンプはできないように、高く飛び上がるには、まずしっかりとした大地が必要なんです。
結婚もそういうことなんです。
確かに結婚しなくても一緒に居ることはできます。
でも、あえてお互いの関係を公的に定めることによって、フワフワ浮かんでいた二人が同じ大地に立つことができるようになります。
そこには重力があって、もう簡単に宇宙に抜け出ることはできないですが、でもそれは二人の、二人だけの、かけがえのない母なる大地になるんです。
そして、重力があるからこそ、地球に生まれた人類が地面を蹴り出し宇宙に飛び出していったように、いつしか重力を超えるほどの力を養う足場になるのです。
飛行機はエンジンや機体や対の翼などいくつかのパーツをつなぐことで自由に空を飛べることができますが、エンジン単体や、翼だけでは飛ぶことはできないですよね。
鳥の羽だって、羽根1枚じゃフワフワ浮いているだけで飛ぶことはできません。集まって翼になることで初めて飛ぶ力が生まれます。
必ずしも「つなぐ=束縛、自由にならない」ではなくて「つながることで自由が生まれる」ことだってあるのです。
結婚はあえてお互いを繋ぎ重力を生みだすことで、一対の翼として安定的に社会を駆けるためにあるんです。良い翼があれば一片の羽根では難しかった世界に行くことだってできるんです。
自由を制限することで、より高度な自由が実現可能なんです。
ただもちろん、対の翼のバランスが悪かったり重力が強すぎたりすれば、それはそれでやっぱり飛べなくなります。実際、そんな悲劇も世の中にはあるようです。
だから、結婚を束縛する枷や鎖ではなく、空をも飛べる絆として活かせるかどうかが、二人の腕の見せ所なのです。
さて、A君、Bさん、このお二人はどうでしょう。
特等席から見てた私が言うんですから、間違いありません。
二人は大丈夫です。
だって、二人で色んな所行ってるし、ノロケ話ばっかり聞かされるし、しょうもない可愛らしいことでケンカしてるし――二人ともよっぽど独りの時より自由に楽しそうにしてる。輝いてる。
アツアツのお二人はもう既に地面を離れ天にも昇る心地のご様子で。
ああ、ほんともう羨ましい限り。
末永くお幸せに!
P.S.
ええと、何となく思いついたので書いただけで、ほんとのスピーチじゃないですよ!
こんなん、危険球にも程がありますからね・・・。
A君、Bさんのモデルもいません。多分、架空のお話です(/ω\)
(2496字)
(2014年1月15日「雪見、月見、花見。」より転載)