ヒラリー・クリントンによって対IS戦略はどう変わるのか?

財政赤字のため軍事予算の削減を進めていることから、日本を始めとする他国に介入を求めることになるだろう。

過激な発言が続く共和党候補トランプ、民主党候補で若者からの支持を集める民主社会主義者サンダースが注目を集める米大統領選であるが、現実的に大統領に最も近いのはヒラリー・クリントンで間違いないであろう。予測市場では55%の確率でクリントンが大統領になるとされている(2位はキューバ系共和党候補マルコ・ルビオ、同じく共和党候補ドナルド・トランプで13%)。

しかし、クリントンも私用メールの使用スキャンダルばかりが注目を集め、あまり政策に目が向けられていないが、昨年11月19日に行われたイベントでテロ対策について語っており、その内容を紹介したい。

クリントンは、イラク開戦を支持し、国務長官時代もアフガニスタンへの増派を支持するなどタカ派として知られている。

このイベントは11月13日のパリ同時多発テロ後に行われたもので、約1時間にわたり、スピーチとCNNのザカリア氏との質疑応答を行っている。

それでは今後の米国の外交政策を考える上で重要な部分を見ていきたい。

過去にイラク開戦支持は「明らかに間違いだった」と述べているが、そのタカ派姿勢は今も変わらないことがわかる。

大胆な野望を掲げるISISは、大規模かつ能力を備えた集団だ。我々はこの集団の勢いを食い止め、背骨を折らなければならない。我々の目的をISISの抑止や封じ込めではなく、彼らを打倒し、破壊することに据える必要がある。

具体的戦略としては下記のように考えている。

⑴シリアとイラクを中心とする中東地域でのISISの打倒、⑵テロリストの流入、テロ資金、プロパガンダなどテロインフラの破壊、⑶内外の脅威に対するアメリカと同盟諸国の防衛体制の強化

また、「同盟諸国の爆撃機の数を増やし、空爆の回数、ターゲットの幅を広げるべきだ。」だとも述べている。

一方、地上軍に関しては否定的でこう主張している。

オバマ大統領同様に、私も10万の米軍部隊を中東に派遣すべきだとは考えていないし、そうするのはアメリカにとっても賢明な判断ではないだろう。イラクとアフガニスタンでの15年に及んだ戦争の教訓とは、現地の社会を守るのは現地の人々と国でなければならないということだ。

そして過去の記事で述べた内容と同様に、現地の部族との連携が欠かせないと語る。

より多くのスンニ派部族がISISとの戦いに参加しない限り、イラクでの地上戦は成功しない。「自分たちが国への影響力を持ち、ISISとの対決状況の中で自分たちの治安を守る戦闘能力に自信を持てない限り」スンニ派部族が立ち上がることないだろう。

また、スンニ派部族に関する過去の成功事例、現在の困難さについても触れている。

2007年の「スンニ派の覚醒」の際には、我々はスンニ派部族を安心させる十分な支援を提供し、彼らをアルカイダとの戦いに向かわせることができた。残念なことに、その後、マリキ首相がスンニ派を排除する宗派政治を行ったために、スンニ派部族は裏切られたと感じている。

実際、今は逆にスンニ派部族がISISの最高指導者アブバクル・バグダディに忠誠を誓う事例も起きている。

さらに、アサド政権を止めるべく、「オバマ大統領が承認している米特殊部隊のシリアへの派遣を直ちに実施すべきだ。」と述べ、「アサドがこれ以上民間人や反体制派を空爆で殺戮するのを阻止するために、反ISIS有志連合のパートナーや近隣諸国とともに飛行禁止空域を設定すべきだ。」とした。

テロインフラについては、「外国人テロリストの流入元になっているトルコ・シリアの国境の封鎖」、「シリアに入国した外国人の身元データ共有」、「不正な貿易に対し国連安保理のさらなる制裁強化」、「ソーシャルメディアのアカウント閉鎖」などを主張。

難民に関しては、「シリア難民にドアを閉ざすのは、アメリカのやり方ではない。難民の多くが、我々を脅かしているテロリストから逃れようとしている人々であることを忘れてはならない」と受け入れを支持している。

以上がスピーチの内容だ。個別の政策に対し賛否はあるだろうが、網羅的かつ具体的な話でさすがは知性派といったところだろうか。

また、Q&Aセッションで、アラブ諸国に関して、「私なら、サウジを含む、スンニ派アラブ諸国に対して次のように説得する。『シリアのカオスを放置すれば、テヘランからバグダッドまでが完全にイランの勢力圏になる。しかも、シリアのアサドは実質的にはイランの傀儡政権だ。ロシアもシリア内でモスクワが権益を持つ軍港を維持したいと考えている。イランの影響圏はバグダッドを超えてシリアに及ぶかもしれない」と答えている。

基本的な路線としてはオバマ大統領と同じだが、その拡大、また新しい取り組みも主張している。

しかし、ここで留意すべきはアメリカは財政赤字を拡大させないよう軍事予算の削減を進めている点だ。つまり、他国に強く介入を求めることになるだろう。これはもちろん日本も例外ではない。日本の場合は中東ではなく南シナ海など対中国もしくは対北朝鮮である可能性が高いが、それでも安全保障での協力を求められることに違いはない。

(2016年1月12日「Platnews」より転載)

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