STAP細胞の捏造疑惑で渦中にある小保方晴子さんが、本日4月9日13時から記者会見を行った。
数々の指摘を受けて、4月1日に理化学研究所の調査委員会は、最終報告書で小保方晴子さんがSTAP細胞の研究報告で捏造や改ざんを行っていたと公表した。それに納得出来なかった小保方さんは4月8日に不服申立てを行い、本日の会見に至る。
■マスコミの騒動について。
4月8日には朝日新聞デジタルがなんと号外扱いで「STAP論文問題で小保方晴子氏が8日に理研に不服申し立て。本人も会見へ」と報じた。
STAP細胞発見の記者会見を派手にやった以上、多少の騒ぎになってしまうのは仕方ないが、これはいくらなんでもはしゃぎ過ぎではないのか。現状ではSTAP細胞の存在はかなり疑わしくなっていると報じられている。この点については専門家に任せたいと思うが、報道の仕方については大きな違和感がある。ウェブメディアの編集長として、このたびの報道内容を改めて検討してみたい。
■怒り心頭な方に贈るQ&A。
佐村河内守氏を上回る騒ぎとなっている状況には何とも呆れるほかないが、この話題で一体誰が小保方さんに怒っているのが検討もつかない。会見でも一部の記者が突然説教を始めて司会者に遮られるという場面があったが、文句を言うべき相手を間違えているのではないか。こんな事を書くと以下のような反論が来るかもしれないが、いずれも記者会見をやらないといけない理由には到底ならない。
*彼女は税金で研究をして捏造したのだから叩かれて当然だ!
→捏造が事実ならそうですね。でも税金を投入したのは誰ですか。その税金が原資の研究費を小保方さんに使わせたのは誰ですか。理化学研究所が組織として問題を明らかにして、捏造が認定されたなら組織として小保方さんを処分して、トップが責任を取ればいいだけじゃないですか。
*不服申立てなんて何様だ!おとなしく処分されろ!
→問題があったことは一部認めているようですね。でも万引きで死刑になったら誰も納得しないでしょう。事実関係は今のところ部外者には分かりませんが、小保方さんがそのように考えている以上、反論する権利も裁判で戦う権利もあります。日本は法治国家です。
*これだけ世間を騒がせたんだから記者会見をやるなんて当たり前だ!
→世間を騒がせるってどういう状況を言うんでしょうか。一部のマスコミが「自主的に」騒いでるだけです。悪い事をして会見をする必要がある人は政治家くらいです。
*当事者がマスコミの前に出てきて説明するのは税金を使っているなら当然の義務だ。
→その論法だと公務員の不祥事は全部記者会見が必要ですね。本人がやりたいなら別ですが、今回はやらざるをえなくなっただけでしょう。小保方さんは「上司」や「幹部」に説明責任はあります。理化学研究所は税金を受け取っているので組織として外部に対して説明責任はあります。小保方さんの立場は企業で言えば良くて課長か部長程度、5年の任期を考慮すれば場合によっては業務委託か非正規雇用です。なんでそんな人が矢面に立って、組織が負うべき責任を抱え込まないといけないんでしょうか。あくまで「外部」に対して責任を取るのはトップの仕事です。
*当初あれだけ華々しく発表して騙したのだから記者会見も当然やるべきだ!
→ヴィヴィアンの指輪や割烹着が話題になっていましたね。あれが上司による演出なのか本人が目立ちたかっただけなのかはよく分かりません。いずれにせよ外部への露出方法も含めて組織の責任でしょう。部下が大きな指輪や割烹着を着てカメラの前や公式な場に出ようとしたら、まともな上司ならば普通は止めます。それをやらなかった以上、責任は組織にあります。
■小保方さんの問題は当事者間で解決すれば良い。
社労士の榊氏が指摘するように、処分や懲戒解雇云々の話は理研と小保方さんの間の問題でしか無い。そして税金を使って捏造をしたのが事実ならばそれを止められなかった、あるいは放置した組織の問題だろう。
社員が問題を起こした時、経営者が株主に向かって「我々は悪くないんです!」と訴えた所で笑われるだけだ。例えば社員による横領が発覚した時にはどのような手順で解決するか。社員へ会社に与えた損害を民事・刑事で企業として追求する、トップが責任を取って辞める(場合によってはトップにも民事・刑事の責任が発生する)、事実関係を明らかにする、再発防止策を作る、株主に対してしっかり説明する、これが正しいな流れだ。金融機関等であればトップの記者会見も必要かもしれないが、当事者の社員が表に出てくるなどあり得ない。
ノートの取り方から個人所有のパソコンを研究に使っていた話など、様々な問題が報じられているが、最終的にはそういう人を雇って適切な指導をしてこなかった監督者の責任という事になる。
1日の理研記者会見では、悪いのは小保方さんだけという印象を与えるような内容に終始したが、トップは責任を取るためにいる。部下が無能であろうと有能であろうと、「社員は悪くないんです!」と泣いていた山一証券の社長は正しいということだ。
■記者会見を行う必要は無かった。
これだけメディアで騒ぎになっている大きな理由は小保方さんを取り上げれば雑誌や新聞が売れるからだ。マスゴミなどと散々報道姿勢にケチを付ける人が多い割には、視聴者の行動はマスコミの思う通りだ。これは「小保方さんと羽生結弦さんと佐村河内守氏の共通点に気がつかない人がヤバイ件について」で書いた通りだ。
自分が小保方さんの友人なら全部弁護士に任せて海外旅行にでも行ってしまえとアドバイスするだろう。今となっては佐村河内守氏に誰も興味を持っていないように、2~3ヶ月もすれば別の話題にかき消される事は間違いない。タレントの矢口真里さんの不倫・離婚騒動でも記者会見をして責任を果たすべき、など奇妙な意見が散見されたが、今回のケースも似たようなものだ。小保方さんが相手にすべきは理研の上司や幹部だけであって1億人の「国民」ではない。
どんなトラブルであれ、問題の解決や処分は当事者間で行うものだ。多数の顧客を相手にして、なおかつネットワークでつながっている金融機関や、選挙で選ばれている政治家など、トラブル発生時に「世間」に向かって説明責任がある人や団体はごくわずかだ。記者会見を行うべきケースというのは更に限られる。
メディアに関する記事は以下も参考にされたい。
■フィギュアスケートの羽生結弦さんも理系女子の小保方さんも「現代のベートーベン」も、みんな同じだ。
■小保方さんと羽生結弦さんと佐村河内守氏の共通点に気がつかない人がヤバイ件について。
■入社式で新入社員をずぶ濡れにする企業と、それをほのぼのエピソードとして放送するNHKについて。 ~ブラック企業は永久に不滅です~
■ウクライナで米露衝突?と言われる中、佐村河内守氏の記者会見で大騒ぎしてる日本が平和過ぎて頭痛が痛い。
■就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。
佐村河内守氏の記者会見は一ヶ月前の3月7日だった。また一ヶ月後はだれが吊るしあげられているのかを考えると、頭痛が痛い。
※記者会見でも誤解に基づいたような質問があったが、悪意・善意とは法律用語で通常は知っている・知らないという意味になる。悪気がある・無いという意味ではない。これは一般常識の範疇だろう。したがって、悪意がなくても故意はあった、などという話はトンチンカンな指摘という事になる。