「ハーフは劣化が早い」発言は何が問題だったのか?

正月に放送されたバラエティ番組のワイドナショーが話題になっている。番組内で、社会学者の古市憲寿氏が差別的な発言をしたと批判を受けているようだ。

正月に放送されたバラエティ番組のワイドナショー(フジテレビ)が話題になっている。番組内で、社会学者の古市憲寿氏が差別的な発言をしたと批判を受けているようだ。

人気タレントのウエンツ瑛士さんに対して、古市氏が「ハーフってなんで劣化すんのが早いんでしょうね」と発言している。

偶然自分も番組を見ていて、危ないことを言うなあと思っていたら案の定ちょっとした炎上騒ぎになっている。これは問題のある表現や差別表現を考える際に非常に良い材料になるので、なぜこの発言に問題があると指摘されたのか考えてみたい。

■使ってはいけない言葉は放送禁止用語だけではない。

自分はシェアーズカフェ・オンラインという専門家が情報発信をするウェブメディアを編集長として運営しており、日々書き手に執筆指導をしている。中には問題のある表現を注意する事もたまにある。

一番分かりやすいのは放送禁止用語だ。テレビでは自主的に使ってはいけない言葉を決めており、生放送でそういった言葉が使われると一旦CMに入ってアナウンサーが謝罪をする、という場面をたまに目にする。

放送禁止用語を使うこと自体は、何か法律で禁止されているわけではない。あくまでメディアによる自主規制だが、ウェブの記事でも放送禁止用語を平気で使っていたら書き手もその媒体も非常識な存在として認知されてしまうだろう。ただ、これはさほど難しい問題ではない。使ってはいけない言葉は事前に分かっているからだ(なので過去にこういった指摘を書き手にした事は1回あった程度)。

よりやっかいな問題が話題になっている、事前に使ってはいけないと分かりにくい表現だ。

■劣化もハーフも悪い言葉ではない。

大前提としてハーフも劣化も問題のある単語ではない。日常的に使われる言葉として誰もが口にするだろう。ハーフはダブルと表現したほうが良いという意見もあるようだが、ハーフタレントという表現は現時点では一般的に使われている。問題は「言葉の組み合わせ」だ。

劣化はネット上のスラングで加齢による衰えを表現する際に使われる事がある。最近ではテレビでもたまに耳にすることもあるように思う。番組内でHKT48の指原さんが「劣化はモノに使う言葉」と指摘したように、人に対して劣化と言うことはとても上品な、まともな使い方ではないと思うが、意味としては理解できる。

しかし、これがハーフという言葉と組み合わさることによって、人種差別的な様相を帯びてくる。ハーフは両親がそれぞれ異なる国籍や人種である人を指しており、ハーフとして生まれた人を馬鹿にする表現は人種や国籍をおとしめる事になりかねないからだ。

■ハゲ・デブ・ブサイクはなぜ許されている?

古市氏自身がハーフであれば、ある意味自虐ネタとしてまだ成立していたと思うがそういうわけでもない。また、テレビタレントの中には見た目が悪い事を売りにしている人もいる。具体的にはデブ・ハゲ・ブサイクといった面だ。これらをいじる事も上品とは言えないが自ら売りにしている人ならばさほど問題は無いだろう。バラエティ番組ではいくらでも目にする場面だ。

例えば番組に出演していた指原さんも、可愛くないのにアイドルをやっている、というギャップを利用している人で(と書くとまた問題になりそうだが自分自身でブスであるとたびたび公言している)、お笑い芸人からブサイクと言われる場面をたびたび見かける。今回の発言が指原さん劣化してますよね、とかウエンツさん劣化してますよね、というあくまで「個人」に向けた発言ならば、失礼な発言だとファンは怒ったかもしれないがファン以外に広がるほどの炎上にはならなかっただろう。

■言葉は組み合わせと発言者でいかようにも変わる。

このように考えていくと、今回の発言が問題とされている理由は、注目されている「劣化」という言葉が単体で問題があるわけではなく、言葉の組み合わせが問題を誘発しており、なおかつハーフという言葉がごく一般的な単語に見えて、人種や国籍にかかわる極めてセンシティブな言葉であることが原因だ。

これはすでに説明したように、発言者自身がハーフタレントだったら差別的な発言ではなく自虐ネタとして誰も気にしていなかっただろうことを考えても分かってもらえるのではないか。

過去に、自分が運営するサイトでも「日本民族が劣化する」という表現を使おうとした書き手がいた。教育に関わる法律改正に反対意見を書いた記事だ。これも今回の発言と同じで単語自体には問題ないが、極めて不快な表現であることは間違いない。

しかし、なぜ不快なのか当初は分からなかった。最初は劣化という言葉を人に対して使っていることに問題があると思っていたのだが、良く考えると民族という言葉が悪いと気づいた。民族が過剰に人種を意識させるような言葉だからだ。

こういった良く考えると危なっかしい表現を本人が気づかないうちにしてしまう事はあるということだ。

■問題発言による炎上は他人事ではない。

表現をする際に難しいのは、面白い記事や番組を作る事ではなく、こういった問題のある表現を排除することだ。放送禁止用語や差別表現ならば分かりやすいが、組み合わせによって不快な表現になるケースは事前に全て確認する事は出来ない。

今回は指原さんがとっさに劣化はモノに使う言葉、と止めに入ったことが評価されているようだ。過去にも文化人枠のコメンテーターが人種に関わる問題発言をした際に、とっさに今の発言は良くない、すぐに訂正したほうが良い、と芸歴の長いタレントが指摘したこともあった。

バラエティ番組はテレビの質の低下を象徴するかのように扱われることもあるが、出演者には高度な能力が求められている事が分かる。古市氏は文化人としてテレビ出演はかなり多い方だと思うが、人気タレントの指原さんと比べれば経験値は大人と子どもくらいの差があるだろう。

何を言ったらマズイか瞬時の判断では単純に頭の良さではなく経験値の差が出たと思われる(したがって、今回の発言は彼の社会学者としての能力はあまり関係ないと思われる。収録後にアレはさすがにまずかったのでカットしてもらえないかと交渉くらいはしても良かったと思うが)。

今回の発言でハーフという気軽に使われている単語が人種に関わるセンシティブな言葉であることが再認識されたと思うが、大きな視点で考えれば表現は言葉の組み合わせと発言者により意味が全く変わってしまう、というより根本的な問題が浮き彫りになったように思う。

現在は個人も企業も、ブログやSNS、オウンドメディア(企業が運営する宣伝等を目的に運営するメディア)など、公に情報発信をする機会が以前と比べて激増しているが、運営時に注意すべき点はテレビと同じだ。特に企業の情報発信は会社の看板を背負う一方で情報発信やメディアの公的な責任、著作権などについて全くトレーニングを受けていない人が行っているケースも多々あり、極めて危険な状況にある。

ある日突然炎上騒ぎに巻き込まれたくなかったら、今回書いたような話は最低限のリテラシーとして理解しておきたい。

【参考記事】

■最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。

■最低賃金1500円デモの批判記事を書いたら主催者から反論が来たので回答してみた。

■就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。

■「資生堂ショック」という勘違い。

■ステマ騒動でメディア・広告業界で揺れる中、ヤフーニュースとハフィントンポストに配信をしている編集長が考えていること。

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