マスコミは相撲界の隠ぺい体質を批判する前に、自分たちの取材力の乏しさを恥じるべきだ。1月25日東京新聞の記事を見てみよう。
大相撲の春日野部屋に所属していた力士(23)が弟弟子(22)の顔を殴って傷害罪で起訴され、二〇一六年六月に懲役三年、執行猶予四年の有罪判決が確定していたことが二十四日、関係者への取材で分かった。
元新聞記者の私は、この文章を読んで、思わず吹き出してしまった。裁判は誰にでも公開されているものであり、判決が確定しているということはすでに裁判所が全国民に対して発表しているわけだから、わざわざ「関係者」に取材する必要はないからだ。
じゃあ、なぜ、2016年6月の時点で報道されなかったのか?理由は簡単。マスコミ全社が、この事件を「見落としていた」からだ。
マスコミが事件を認知する方法は様々だが、大部分は警察や検察からの発表に頼っている。都道府県警の広報から流れてくる事案を見て、その事案が報道する価値があるかどうか各社で判断する。例えば、無職の男性がお寺から賽銭を盗んで窃盗容疑で逮捕されたら、大抵の場合、報道する価値なしと判断されるが、その後の取材で、実はこの男性が元芸人だったことがわかれば、大々的に報道されることになる。A社だけがこの事実を知って報道した場合、「特ダネ」となり、他の社の担当記者は「なんで、わからなかったんだ!」と上司から怒られる。つまり、記者の取材力が問われるわけだ。
ただ、今回のケースの様に書類送検の場合、発表されない場合が多く、検察もすべての起訴事案を発表するわけではない。
百歩譲って、今回の件を警察と検察が発表していなかったとしても、裁判は完全に公開されている。司法担当の記者は、各裁判所に頻繁に足を運び、公判の日程を確認するのが仕事だ。そこには被告の名前と罪名が書かれているわけだから、名前をネットで検索すれば、元力士だということはすぐにわかるはずだ。すべてのマスコミがこの単純作業を怠ったことの方が、相撲界の隠ぺい体質よりよっぽど悪質だ。
ぜひ、マスコミ各社には、今回の事案をなぜ見落としたのかの検証記事を掲載してほしい。相撲界の隠ぺい体質よりもマスコミの取材力低下の方が、私にとっては大きな問題だ。