数ヶ月前に病院の待合室で読んだ英女性ファッション誌『Harper’s Bazaar』にとても面白い記事がありました。 女性ファッション誌は病院の待合室か美容院で髪を切ってもらってる最中しか読まないのですが、時代を読む視点で読むとあなどれない。面白かったです。
金融危機の前のバブル期に流行ったニューリッチのスタイル(車は黒のレンジローバー、住居はハイドパーク横の高級アパート最上階ペントハウスでインテリアデザイナーが完璧にデザインしたインテリア、休暇はイビザでクラビング、顔はボトックス、ファッションはオートクチュール、子供はいないか、胸が垂れるから完全ミルクでナニー任せ)はもう古い。
新しいタイプのセレブは、田舎に住み(または平日ロンドン、週末田舎暮らし)、古いファームハウスを手入れして親からのお下がりやフリーマーケットで手に入れたインテリア、車はポンコツのランドローバー、子沢山(最低3人)で自家菜園でオーガニック野菜を育て、趣味はホームベイキング、ファッションはオーガニックコットンにHunterの長靴・・・
と続き、新型セレブの例としてジェイミー・オリバー(*1)とサヴァンナ・ミラー(*2)をあげ、今の若い世代(アッパーミドルクラス)が憧れるこのライフスタイルを”Nouveau Peasant”(フランス語で「新しい農民」)と呼んでいました。
*1・・・いわずとしれた有名シェフ(→オフィシャルサイト)。 パブを営む両親のもとで料理に親しみ、23歳の時に出演したテレビ番組”Naked Chef”で大ブレイク。 やんちゃでキュートなキャラクターでお茶の間のアイドル、学校給食の改革などチャリティー活動にも熱心(→『Jamie Oliverの食の革命』)。 エセックス州に妻と4人の子供と住む。
*2・・・女優シエナ・ミラーの姉でファッションデザイナー(ブランド→Twenty8Twelve)。 週3日ロンドン、週4日をグロチェスター州にあるカントリーハウスで夫と3人の子供と過ごす。
The Independent: Fashionable living: Designer Savannah Miller is turning her farmhouse into a eco-chic retreat
ただのFad(一時的に流行り、すぐ廃れるタイプの流行)と言うなかれ、2011年に『ポスト・コンシューマーと「おもてなし」』というエントリーを書いていますが、物なら何でも手に入る時代に売っている”物”には魅力を感じない、ハンドメイド・オーガニック・エコ・ストーリー・物より体験・・・あたりがキーワードなのは先進国共通なのでしょう。 特に英米は2007年にピークを迎えた住宅バブルの記憶がまだ新しく”Bling”(金ぴか・ド派手)な時代を経験しているので、このトレンドが「新しい」のかもしれません。
子どもが産まれる前はさんざん飛び回っていたのに、最近はすっかり根が生えてしまい(→『「世界級」の次にあるもの』)、築120年の家を買ってsalvaged item(廃材)を利用して改装するところ(→『築120年の家を買いました。』)、夏休みはデヴォン州の農家で過ごしてきた私たちのことを言われているようで・・・(苦笑)。 オリジナルな生き方をしているようでも、自分たちは典型的な英アッパーミドルクラスの思考に染まってるんだと思ったり。
自家菜園やHunterの長靴はともかく、私が面白いと思ったのは「子沢山」のところ。 昔は貧乏子沢山でしたが、最近は経済力がないと子供は産めませぬ。 この点についてThe Economistで面白い記事が出ていたので、次回。
(2013年10月14日「世界級ライフスタイルのつくり方」より転載)