誓約は守られるか APP社による「森林再生と保全支援」に多くの疑問

過去30年間にわたり原料調達のための自然林の伐採が指摘され続けてきた、製紙メーカーAPP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社が、2014年4月28日、スマトラ島とカリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)にて100万ヘクタールの森林再生と保全支援を行なうと発表しました。しかし、その内容に は、いくつかの懸念すべき点が含まれています。WWFは、企業がAPP社からの購入の決断をするには、誓約の実施が信頼できる第三者から確認される必要があり、現時点では時期尚早であると発表しました。

過去30年間にわたり原料調達のための自然林の伐採が指摘され続けてきた、製紙メーカーAPP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社が、2014年4月28日、スマトラ島とカリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)にて100万ヘクタールの森林再生と保全支援を行なうと発表しました。しかし、その内容には、いくつかの懸念すべき点が含まれています。WWFは、企業がAPP社からの購入の決断をするには、誓約の実施が信頼できる第三者から確認される必要があり、現時点では時期尚早であると発表しました。

■過去30年間の森林破壊をどう償うか

2014年4月28日、APP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社は、今後100万ヘクタールの森林再生または保護支援を実現する、という誓約を発表しました。

APP社は、主にインドネシアのスマトラ島で、過去30年にわたり200万ヘクタール以上におよぶ熱帯林を原料調達と植林地確保のために皆伐してきたと指摘される製紙会社です。

現地では、森林破壊やそれにともなう野生生物の危機のみならず、温室効果ガスの大量排出や、地域社会との紛争など多くの問題を引き起こし、地元の市民団体や世界各地のNGO(非政府組織)、企業、そして国際社会からも、その問題が指摘されていました。

2013年2月、APP社は「森林保護方針」を発表し、一切の自然林伐採を停止することを発表しました。

しかし、WWFを含むNGOは、膨大な森林破壊の末に森林破壊停止を宣言するだけではなく、伐採許可地内やその周辺で失われた自然の森や生態系などを再生させ、これまでの森林破壊が及ぼした悪影響を緩和する措置を取るよう、繰り返し求めてきました。

そんななか、2014年1月末には、同じくスマトラで大規模な森林伐採が問題視されてきた、もう一つの製紙メーカーAPRIL社が「自社の所有する植林地と同じ広さの森林を回復する」という誓約を発表したことから、APP社に対しても、同様の誓約を求める動きが、一層強まっていました。

WWFは、今回の100万ヘクタールの森林再生と保全支援の誓約が発表されたことは、一定の評価には値するものの、同時に内容に懸念すべき点も含まれているとして、APP社と関わりのある企業に対して注意を喚起。特に以下の点について、確認が必要であることを指摘しました。

■新たな誓約への懸念

まず、4月28日、APP社は「100万ヘクタール」という目標と共に、このプログラムに取り組む9つの「景観」の名称を発表しました。

しかし、実際には、どの場所で、いつからどのような主体と協力し、森林再生と保全支援に取り組むのかが明らかにされていません。

発表同日にジャカルタで行った会見では、「この宣言を具体的にどう実行に移すのか?」、「伐採許可地の中と外でそれぞれ何ヘクタールの自然林を回復 させるのか?」などの質問がありましたが、プレスリリースに書かれた以上の情報は示さず、「そのような詳細は今後決めることになる」としか回答しませんで した。

さらに、APP社の森林再生と保護支援の誓約で示した地図中には、政府が指定した保護区が含まれます。またこれとは別に、インドネシアの伐採許可地内では、10%を保護することが義務付けられています。

しかし現時点では、APP社の発表内容から、これらのいずれかに指定された保護地域が「100万ヘクタール」に含めて計上されていないかは、定かではありません。

WWFは、こうした法律やなんらかの規制によって既に保護されている地域での森林再生や保全支援については、同社が自らで成し遂げたものとすべきではないと考えます。

■誓約の具体化、そして確実な履行を

どんなに素晴らしい誓約も現場での実行が伴わなければ、意味がありません。そして、APP社には、素晴らしい方針を発表しても、実施には至らなかった歴史があるうえ、2013年2月の「森林保護方針」では、非常に問題のある結果を引き起こしていたことが現地調査により明らかになっています。

約束の期間中、確かにほとんど全ての操業地において、森の伐採は一時的に停止されているようですが、この伐採停止期間が始まる前年、APP社とそのサプライヤーは熱帯林の皆伐を大幅に加速させていたのです。

APP社は、「森林保護方針」発表の前に伐採した木材を自社工場に受け入れる期限を2013年8月末と設定していましたが、それまでに伐採された大量の熱帯林由来の製紙原料は、期限内には運びきれないほどでした。

そして、「森林保護方針」の実施の要ともいえる「保護価値の高さ」と「高炭素蓄積」の調査も、発表から1年以上たった現在も結果が明らかになっていなく、その内容が懸念される状況です。

こうした過去の経緯や現在の状況をも鑑み、WWFでは「森林保護方針」も今回発表した「100万ヘクタールの森林再生と保全支援」の誓約についても、その実施状況が信頼できる第三者によって確認される必要があること考えます。

この点で、APP社が完全に独立した機関であるレインフォレスト・アライアンスに監査依頼することに同意したことは、今後の重要なステップになると考えられ、この監査が確実に行なわれる事を期待します。

WWFは、インドネシアで森林減少・違法伐採を監視するNGOの連合体、アイズ・オン・ザ・フォレストおよびカリマンタンにて同様の活動を行なうRPHKとともに、APP社が現地でどのような操業を行なっているか調査を継続します。

関連リンク(WWFジャパンのサイト)

WWFインドネシア 記者発表資料

関連資料

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