2015年の「パリ協定」の合意以降、さらに注目されるようになった、各国政府による地球温暖化対策の取り組み。そのカギとなる、太陽光や風力といった再生可能な自然エネルギー(再エネ)の導入について、日本で新たな可能性が見えてきました。2016年5月、この一カ月間に、九州電力管内で再エネの導入率が20%を超えたのです。これは、従来とは異なる運用を実現し、天気まかせの「あてにならない電力」とされた再エネを、最大限活用した結果でした。ここから見える、日本が目指すべき新しい再エネの導入目標を考えます。
一時的に再エネ「78%」を達成した九州電力
地球温暖化の防止に向けた、新しい世界の約束「パリ協定」。
21世紀後半に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す、この協定の実現に向け、今、各国が取り組む温暖化対策が注目されています。
その中で、日本が現在掲げている、再生可能な自然エネルギー(再エネ)の導入目標は、2030年までに全電力の22~24%(kWh:発電電力量ベース)をまかなうこと。
各先進国の目標と比較しても、決して野心的な目標とはいえない内容となっています。
しかし2016年、この目標に近い再エネの導入が、日本の国内ですでに実現されたことが分かりました。
太陽光発電の申し込みが急増している九州電力管内で、2016年5月のひと月に、再エネが占める割合が平均で20%(kWh)を超えたのです。
さらに、連休で電力需要が少なかった5月4日の午後1時には、太陽光と風力だけで66%(kW:発電出力ベース)の電力供給を達成。
WWFジャパンがさらに九州電力に問い合わせたところ、地熱や水力などその他のエネルギーも入れた再エネによる供給が、一時的に78%(kW)にも達したこともわかりました。
この日の、一日を通じた再エネ比率は38%(kWh)。
これは今の段階は、再エネが占める割合としては日本一の数字であると考えられます。
どのように再エネの出力を上げたのか
特に電力系統に問題が生じることもなく、これほどの高い割合での再エネの利用が実現できたことには、確かな理由がありました。
九州電力の記者発表資料を確認すると、この日、太陽光発電が急増する午前中に、急激に火力発電を絞っていたこと、また夕方に急速に太陽光発電が落ちると、一気に火力発電の出力を上げていたことがわかります。
さらに、今までは主に原発の電力の調整のために使われていた揚水発電(原発の電気が余る夜の時間帯に高地にある池に水をあげ、電気が多く消費され、足りなくなる日中に下の池に水を落として発電していた)も、太陽光が最も発電する日中に水をくみ上げ、太陽光が発電できない早朝と夕方に水を落として発電する、という再エネの調整電源として使っていた様子が伺われました。
これは、従来の日本になかった、新しい電力系統の運用が実現できていたことを物語るものです。
再生可能エネルギーの「固定価格買い取り制度」が導入され、太陽光発電が急増してからわずか4年。
その中で、この電力系統の運用を実現したのは、九州電力の担当者による大きな挑戦と、日本の持つさすがの技術力の賜物です。
また、この実績を生み出した背景には、気象予測を使った先進的な出力予測システムの活用もありました。
気象予測を使えば、出力が変動する太陽光や風力を使った発電が、翌日どのくらいできるのか予めわかるため、火力や揚水発電など他の電源を含めた調整が可能になるのです。
出典:九州電力平成28年7月21日プレスリリース
九州本土における再生可能エネルギーの導入状況と優先給電ルールについて
別紙1再エネの導入状況と至近の需給状況について
再エネはもはや「あてにならない電源」ではない
今から5年前ほどまでは、
「天気まかせの再エネが電力系統に大量に入ると、電力供給が不安定になる」
「日本の電力系統は、大手の電力会社の管轄地域をベースに、地域ごとに分かれているため、欧州のように他国と電力を融通しあうことが難しい」
「不安定な再エネが大量に導入されると、その変動を吸収するための蓄電池などが多く必要となり、高いコストがかかる」
そういった言説が広く信じられていました。
しかし、これらがすでに杞憂に過ぎなくなったことが、九州電力の5月の実績により示されました。
実際、再エネの占める割合が、一時的に78%(kW)に達しても、1カ月間の供給率が20%(kWh)を超え続けても、既存の系統で何の問題もなく運用できていたのです。
これは再エネの導入に慣れていなかった日本の系統運用者にとっても、大きな自信を与える「現実」といえます。
もはや、日本においても、太陽光や風力は、天気任せの「あてにならない電源」ではなくなりました。
すでに世界の常識になっている通り、それは「予測可能な変動電源」なのです。
日本が持つ潜在的な再エネ導入のポテンシャル
もう一つ、この九州電力による再エネ導入の実績は、日本に大事な点を問いかけています。
それは、「2030年に22~24%」という、現在の日本の再エネの目標が、あまりにも低すぎるのではないか、ということです。
すでにWWFジャパンは、これまでに発表してきた、「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ」の中で、この点に言及し、その可能性を科学的に検証してきました。
その第四部「電力系統シナリオ(2013年9月)」では、再エネが大量に導入された場合、全国9エリアにおける地域間連系線の必要容量を検証しました。
その結果、再エネは30%までは、地域間の連系線を利用することなく、地域内だけで導入可能であること(図1参照)が、また50%が導入された場合も、まだ既存の地域間連系線の運用容量を使うだけで、十分に機能すること(図2参照)が示されたのです。
<図1>
<図2>
さらに、WWFジャパンでは2014年11月、九州電力管内に、1260万kWの自然エネルギーが「すべて導入された場合」を想定した、系統システムの定量的分析も実施。
結果、これだけの量が入っても、既存の連系線の容量が使えるならば、大幅な太陽光の出力抑制などを行なう必要もなく、電力が供給できることを示しました(WWFシナリオ参照)。
実は、日本の地域間連系線は欧州にもひけをとらない容量を持つところが多いのです。
重要なことは、まずはこうした既存の地域間連系線などの既存設備を最大限に活用できるようにすることによって、再エネ導入を図っていくこと。
それが、日本において最も早期に実現可能な、経済的なエネルギー対策となり、有効な温暖化対策にもなる、ということです。
2030年の再エネ目標を早期に30~50%へと見直すべき
こうした一連の検証を経て、WWFジャパンでは、少なくとも30%~50%までは、日本の既存の電力系統で、再エネの導入が可能なのではないか、と考え、その実践を求めてきました。
しかし、今までは既存の大手電力会社が既得権として、地域間連系線の大部分を押さえていたため、新規の電力事業者は参入ができず、ほかの地域へ電気を送ることが難しくなっていました。
そうした中、今後に向けてこの実情を大きく変える出来事がありました。
2016年8月、全国規模で送電網を管理する「電力広域的運用推進機関(広域機関)」が、地域間連系線の利用ルールを見直し、事業規模の大小にかかわりなく、発電コストの低い電気を優先的に流す仕組みを目指す方向性を示したのです。
このルールの見直しは、既存の地域間連系線の利用を拡大させ、コストをかけずに大量の再エネの導入を促す第一歩となるものです。
WWFでは、こういった定量分析による検証データを基に、日本政府は早急に「2030年の日本の再エネ目標」を見直し、その比率を30~50%に引き上げるべきだと考えています。
その実現は、夢物語ではありません。
九州電力が示した通り、現場の系統運用者の技術力を高め、気象予測を使った出力予測システムの改良などが進めば、最もコストのかからない方法で、再エネを大量導入することが、十分に可能になるのです。