自然の豊かさは58%消失『生きている地球レポート2016』を発表

私たち日本人の暮らしは、海外の自然資源に大きく依存しており、世界の自然環境の維持回復なくして、続けることはできません。

2016年10月27日、WWFは最新版となる『Living Planet Report:生きている地球レポート2016』を発表しました。2年に一度発表しているこの報告書は、失われ続ける世界の生物多様性の現状と、人間の消費による地球環境への負荷の増大を明らかにするものです。1970年以降、陸、海、淡水の自然の豊かさは58%減少。一方で、その原因である人間の消費は拡大の一途をたどり、今や年間で地球1.6個分に相当する資源が利用されています。WWFはこの報告書の中で、現状に対して警告を発すると共に、この問題の解決をどのように目指すべきなのか、その考え方を示しています。

明らかになる「地球の危機」

各国、各地域のデータをふまえ、地球全体で起きている環境破壊の規模と、そのポイントを示した『生きている地球レポート(Living Planet Report)』。

WWFはが2年に一度、グローバル・フットプリント・ネットワーク、ロンドン動物学協会と共に発表しているこの報告書は、2つの大きな指標を設定しています。

■生きている地球指数:

地球上の生物多様性の豊かさを示す指数(Living Planet Index:LPI)

■エコロジカル・フットプリント :

人類が環境や資源を消費することによる、自然界への圧力を示す指数

「生きている地球指数(LPI)」とは、陸、淡水、海、さまざまな自然の中で生きる、脊椎動物の個体数の変動率から計算した指数で、生物多様性の豊かさを計るものです。

今回発表された2016年のレポートでは、1970~2012年の間に、その数値が58%減少していることが明らかになりました。

指数の基になっているのは、世界の3,700種を超える哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の合計1万以上の個体群のデータです。

大幅な指数の低下は、多くの野生生物の個体数が減少を続けていること、そしてその命の営みを支える地球の自然の豊かさが失われていることを示しています。

さらにレポートでは、世界の野生生物の個体数が、1970年から2020年までの約50年間に、67%減少すると予想しています。

人間の消費が環境への「圧力」に

生物多様性を脅かしている最大の要因は、生息地の消失と劣化。また資源としての過剰な利用や気候変動(地球温暖化)、外来生物、汚染など、いくつもの影響が指摘されています。

その背景にあるのは、かつてない規模に拡大している人間の活動です。

レポートの2つ目の大きな指標である「エコロジカル・フットプリント」は、さまざまな自然資源の消費をはじめとする人間活動が、地球環境に与えている圧力の大きさを示す指標です。

この数値は、過去40年間に上昇し、地球が供給できる本来の「生物生産力(バイオキャパシティ)」を超過し続けてきました。

「生物生産力(バイオキャパシティ)」とは、自然が持つ木材や水産物(シーフード)、安全に利用できる水などをもたらす生産力や、森林が大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する機能といった、「生態系サービス」の供給力を意味します。

「生物生産力(バイオキャパシティ)」には当然、地球1個分という「限界」がありますが、2012年の時点で人間が一年間に消費した自然資源は、実に地球1.6個分に相当。

自然の持つ回復力と、その母体の環境そのものを犠牲にする形で、大規模な消費が続いています。

このままではいずれ、多くの野生生物が絶滅に追い込まれ、自然資源は枯渇し、結果として人類も健康で文化的な生活を送ることができなくなります。

人間が石油や石炭などの化石燃料などのエネルギーを使用して、CO2を排出する結果、深刻な気候変動が起きている。自然界にはもはや、この排出されたCO2を吸収できる土地が存在しない。

日本の暮らしは?

こうした地球環境を破壊に追い込む「エコロジカル・フットプリント」の大小は、国や地域によって異なります。

特に、先進国といわれるすでに経済発展を遂げた国の国民消費は、一人当たりでみると、大きな「エコロジカル・フットプリント」を産みだしています。

日本も例外ではありません。

2012年時点の、日本国民一人当たりの「エコロジカル・フットプリント」を計算すると、世界中の人が日本人と同じ暮らしをした場合、一年間に必要とされる資源の量は、地球2.9個分。

持続可能な暮らしをしているとは、到底言えない水準にあることが判ります。

「食」は日本のフットプリント全体の26%を占め、そのうち20%は食品廃棄物によるものです。

これを「地球1個分」に抑えるためには、日本の「エコロジカル・フットプリント」の中で、特に高い割合を占める「交通」「食」「住居・光熱費」についてのフットプリントを下げる必要があります。

「交通」「住居・光熱費」で課題となるのは、CO2の発生を伴う石油や石炭に由来したエネルギー、ガソリンなどの利用を、いかに早期に再生可能エネルギーに換えていくか、という点です。

実際、世界的に見ても、CO2の排出によるカーボン(炭素)・フットプリントの割合が非常に高く、それが地球環境を圧迫している要因になっていることがよくわかります。

一方、食料生産の母体となる土地や海の利用に支えられている「食」の問題は、地球上で広く自然が失われている現状に影響を及ぼしています。

また「食」においては、食料が大量に廃棄される問題も指摘されています。

たとえ1個のリンゴでも、それを廃棄した場合、その生産に必要とされた土地、水、輸送や販売にかかる燃料などを廃棄することにもなります。

この食料廃棄の量を減らし、食のムダをなくすだけでも、農業や漁業などによる地球環境への負荷を抑えることができるのです。

増加する世界人口の「食の需要」を手早く満たすため、森林破壊や魚の乱獲が進む恐れがある。先進国が過去に犯した、自然破壊型の開発の過ちを、これから豊かになる国々が繰り返さないよう、支援が必要とされている。

農業部門では、地球の土地の約三分の一、世界で利用される淡水の70%を使用している。森林やサバンナなど、多くの多様な景観が、無計画な農業の拡大方針により、失われている。

世界の未来の姿を問う

こうした先進国の現状がある一方で、所得の低い開発途上国などでは、今も一人あたり「地球1個分」に満たない消費で、人々が毎日の暮らしを送っています。

国や地域の間での格差も大きい中、現状、世界全体で1.6個分の資源を使っている現状を、どう「地球1個分」に収めるのか。

『生きている地球レポート』では、そのためのさまざまな「変革」の必要性を訴えています。

カギとなるのは、特に環境への負荷として大きな課題、たとえば「エネルギー」や「食」といった取り組みのポイントを見定めること。そして、その解決のため、国際社会が協力しながら、努力することです。

すでに、いくつかの兆しは見え始めています。

2015年に採択された、2030年の「持続可能な開発目標(SDGs)」、そして、2015年12月のパリでの国連気候変動会議(COP21)で合意された、地球温暖化防止に向けた世界の新しい約束「パリ協定」は、国際社会が見せたその具体的な姿勢の実例といえます。

また、個人やビジネス、各国政府といった、それぞれの立場でも「地球1個分」という考え方を基礎に据えて、生産と消費、自然資源の測り方と価値について考え直していく必要があるでしょう。

それらは、単に何かを我慢するのではなく、より効率の高い生産や、賢い消費とサービスの広がりを促す、新たなビジネスチャンスにも扉を開くものです。

今回のレポートの発表にあたり、WWFジャパンのエコロジカル・フットプリント担当である清野比咲子は、次のように述べています。

「私たち日本人の暮らしは、海外の自然資源に大きく依存しており、世界の自然環境の維持回復なくして、続けることはできません。

危機的な自然環境を維持回復させるためには、私たちが持続可能な社会を創ることです。今すぐ、無駄や過剰な消費を減らし、環境に配慮した製品・エネルギーを選び、環境への負荷が少ない技術を進めることです。

2020年は、東京オリンピック・パラリンピック開催だけでなく、持続可能な社会構築にとっても重要な年となるでしょう」

環境の保全につながる、新たな経済や社会の発展のあり方。

それは絶滅の危機から多くの野生生物を救うだけでなく、世界の貧困問題を解決し、人々の健康で文化的な生活を築くものです。

WWFは今回の報告書の中で、回復力のある地球を未来に引き継いでいくために、今すぐ行動を起こすことの必要性を訴えています。

2015年12月のパリでの国連気候変動会議(COP21)

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