2017年7月4日に香港税関は、葵涌(クワイチョン)でコンテナに隠された7.2トンの密輸象牙を押収しました。年に2万頭を超えるアフリカゾウが密猟されている中で起きた今回の摘発は、過去30年で最大級の規模と見られており、象牙の違法取引をめぐる国際的な組織犯罪の深刻さを物語っています。こうした一連の野生生物の違法取引に問題に対し、各国政府は今、強く連携した取り組みを進めようとしています。合法的な象牙の国内市場を持つ日本にも、この流れに参加する積極的な姿勢と取り組みが強く求められています。
押収された7.2トンの密輸象牙
2017年7月4日に、香港税関はマレーシアから到着した貨物船のコンテナから、およそ7.2トンの密輸象牙を押収しました。香港政府の発表によると、密輸品は積荷が冷凍魚介類と記されたコンテナの中から見つかり、時価7,200万香港ドル(約10億円)と推定されています。これまでに3人の関係者が逮捕され、捜査が継続されています。
象牙の全てが密猟によるものだとすると、数百頭のゾウが犠牲になったことを示す今回の押収は、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)のもと、トラフィックが管理するETIS(ゾウ取引情報システム)に記録されている、2002年にシンガポールで起きた過去最大の押収(7.1トン)を上回るものと予想されています。
今回の密輸象牙の出どころや最終目的地はまだ明らかになっていませんが、押収のあった香港と、貨物船の直近の寄港地であるマレーシアは、ともに、違法取引の一大「中継地」であることがETISによる象牙の違法取引動向の分析でわかっています。
香港の場合は特に、違法象牙の最終市場である中国各地へのアクセスの良さと、野生生物犯罪に科される罰則の緩さから、犯罪ネットワークが密輸の中継地として目をつけ、利用していると考えられます。
香港政府は、2017年3月、香港域内の象牙市場を5年以内に閉鎖することを宣言しましたが、中国政府は、2017年末までに市場閉鎖を完了させる、と宣言しており、対応のずれが懸念されています。
こうした法的な対応の不十分さを抱えた中での今回の押収は、国際的な密輸ルートにおける香港の役割の重大さを改めて露呈するものとなりました。
WWFとトラフィックは、香港における市場閉鎖のより早急な実施と、野生生物犯罪への罰則の強化、そして大規模な密輸を組織した犯罪ネットワークを暴くための最大限の捜査の実施を強く求めています。
国際社会が撲滅を誓う「野生生物犯罪」
今回の香港での摘発をはじめとする違法な取引や、生息国での密猟行為を含めた世界の「野生生物犯罪」は今や、薬物、偽造品・偽造貨幣、人身売買に次ぐ国際的な犯罪となり、その取引規模は年間2兆円とも推定されています。
取引や密猟の的となっているのは、アフリカゾウと象牙だけではありません。
サイの角やトラの骨などをはじめ、絶滅のおそれのある野生生物から作られた製品に対しては、今も世界各地で大きな需要があり、こうした希少性が、さらに高値での取引と密猟を呼ぶ原因になっています。
また、犯罪組織がアフリカ各地の貧困に付け込んで、地域の人々に金を渡して密猟をさせたり、得られた利益が武力闘争で使われる銃器の購入に回され、他の国際犯罪と相乗するケースも生じています。
そのため、「自然保護」という問題の域を大きく超え、地域や国家の経済・安全保障を脅かし、貧困や腐敗と深く結びついた「野生生物犯罪」は、近年は各国が団結して解決すべきものと認識されるようになりました。
そうした国際社会の意識を象徴するのが、野生生物の違法取引問題に対する国際連合でのはじめての決議「Tackling illicit trafficking in wildlife(野生生物の違法取引への取り組み)」(A/RES/69/314)です。
これは、2014年9月に開幕した第69回国連総会で採択されたもので、このほかにも、G7や関係国主催のハイレベル会議などの場で、政府首脳たちによる犯罪撲滅に向けた合意と協力の意思が次々と明らかにされています。
2017年7月、ドイツで開催されたG20でも、野生生物の違法取引にかかわる腐敗や汚職の問題への取り組みの一層の強化が声明に出されたばかりです。
こうした国際的な流れを受けて、各国政府や地域による、違法取引に対する防除の取り組みも過去2~3年で大きく前進しました。
とりわけ、象牙の違法取引については、アフリカ諸国や中国などアジアの国々が、密輸の摘発に注力。多くの成果を上げています。
中国やアメリカ、香港などの主要国・地域が明らかにした、各国内の象牙の合法市場の閉鎖に向けた取り組みも、そうした世界の意思を反映した決断の一つといえるでしょう。
日本に問われる責任と、求められる取り組みの強化
こうした国際社会の必死の取り組みが進む一方で、「野生生物犯罪」に対する日本の意識はいまだに低く、問題の解決に積極的に貢献する政府の姿勢もほとんど見られないのが現状です。
象牙に関しては特に、日本が国内に持つ象牙の合法市場が、国際的な違法取引のルートとして利用されないよう、管理を徹底する責任を負っています。
ETISの分析によれば、現在、日本が密猟された象牙の輸出先になっている可能性は低いことが示唆されていますが、国内市場の管理にはまだ多くの問題があり、国内での違法取引や、中国への密輸出も近年相次いで発覚しています。
こうした状態では、各国が市場閉鎖の措置を実施し、取り締りを強化していく中で、今後、日本が海外の闇市場への「中継地」として犯罪組織に目を付けられる可能性も出てきます。
年々増加する海外からの観光客や海外に旅行した日本人による象牙の違法な輸出入が頻発していることも、トラフィックの調査で分かっています。
2020年のオリンピック・パラリンピックを控え、今後、一層海外とのモノや人の往来が増加してゆけば、違法な野生生物やそれらを使った製品の持ち込みや、それらの国内取引も実際に生じるおそれが出てきます。
日本は、「野生生物犯罪」の深刻さを認識し、自国も当事者であるという危機感と責任感を持ち、解決に努めなければなりません。
2017年11月には、ワシントン条約の常設委員会が予定されていますが、ここでも象牙は注目される話題となります。
WWFとトラフィックは、国内象牙市場に関しては、国内市場を厳格に管理された限定的なものにとどめるための、抜本的な管理体制の見直しを強く求めていきます。また、これが早急に実施されなければ、日本でも合法市場の閉鎖を視野に入れた、あらたな厳しい措置が必要になると考えています。
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▼本におけるインターネットでの象牙取引 アップデート(2017年調査) 近日中にリリース予定
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