2014年6月12日に発表された最新版の「レッドリスト」に、減少が心配されているニホンウナギが、絶滅危惧種(EN)として掲載されました。ウナギ類は他の種についても危機が指摘されており、世界的にもその現状が危ぶまれ始めています。消費量の半分を輸入に頼っている日本をはじめ、ウナギ類を漁獲・消費している東アジア諸国で、早急な資源管理の強化を実施することが必要とされています。
ニホンウナギが絶滅危惧種に
絶滅の危機にある世界の野生生物をまとめた、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト。
2014年6月12日に発表されたその最新のリストに、ニホンウナギが「絶滅危惧種(EN:絶滅危惧1B類)」として新たに掲載されました。
ニホンウナギが減少した要因として、レッドリストでまず指摘されているのは、食用のための過剰な漁獲。その他、海洋環境の変化(エルニーニョ、台風、地球温暖化など)や、河川の自然環境の破壊、水質の汚染などです。
世界におよそ19の種・亜種が知られるウナギ類は、生態に不明な点もまだ多くありますが、すでにヨーロッパウナギが、絶滅危機の最も高い「近接絶滅種(CR:絶滅危惧1A類)として、レッドリストに掲載されています。
さらに近年、東アジアで養殖が盛んな「ビカーラ種(Anguilla bicolor)」と呼ばれるウナギも、今回のレッドリストの中で「低危険種(LC)」から「近危急種(NT)」にランクアップ。絶滅リスクが高まったと判断されました。
また漁獲対象となる種自体も増えており、最近はニホンウナギ、ヨーロッパウナギなどのほか、上記のビカーラ種やオオウナギも食用に漁獲されるようになっています。
「養殖」も問題に
現在、食用に利用されている世界のウナギの総生産量の約95%は、養殖によるものです(FAO 2012年)。
養殖は、自然の海や川から採捕した稚魚のシラスウナギを種苗として行なわれており、この種苗の過剰な漁獲が、ウナギ類を危機に追いやる大きな原因の一つとなってきました。
すでに著しい減少が認められているヨーロッパウナギは、1980年から2005年までの間に、養殖用シラスウナギの採捕量が、平均95%から99%も激減してほとんど獲れなくなり、資源の枯渇が明らかとなりました。
この時、ヨーロッパウナギの種苗は、50%以上がアジアに輸出されていましたが、その取引には透明性が無く、価格が高騰している事などが、同時に問題として強く指摘されました。
ニホンウナギもまた、種苗の稚魚の減少を受けて、各国がその確保に躍起になっており、資源の減少と取引価格の高騰など、ヨーロッパウナギにも共通した問題が、多く認められます。
とりわけ日本は、国内用の養殖用の稚魚の半分を輸入に頼っており、その影響と責任は、小さくありません。
密漁と密輸 横行する不正行為
密漁や密輸、また報告の不備といった行為もまた、大きな問題となっています。
その一例が、2013年度に日本で採捕されたニホンウナギの稚魚の総量です。
各県に報告された採捕量の合計と、実際に国内の養殖場に入れられたシラスウナギ量を比較したところ、各県の報告量が、実際の養殖に使われた量を、大きく下回ったのです。
国際取引においても、同様の問題が見受けられます。
ビカーラ種をはじめ、数種のウナギが生息するフィリピンは、シラスウナギの減少を受けて、2012年にその輸出を禁止しました。ところが、2013年の日本の貿易統計では、2トンを超えるシラスウナギをフィリピンから輸入したことになっています。
こうした不正な報告や行為は、実際の資源管理の効果を無にするのみならず、市場や一般の消費者に対して、持続可能とはいえない、無責任なウナギを供給する、大きな要因となるものです。
フィリピンの例が示すように、生息国が保全を理由にシラスウナギの輸出を禁じている場合には、輸入する側の国々も、国内での養殖の規制を検討するなど、過剰な漁獲を抑える施策を採るべきでしょう。
また、こうした問題について改善が認められない場合は、ウナギ類としては初めて「ワシントン条約(CITES)」に掲載されたヨーロッパウナギと同様に、国際取引の規制という側面から、対策を取る必要が出てくる可能性もあります。
日本そして生息国の国々に求められること
ニホンウナギは、日本をはじめ、中国、台湾、韓国で漁獲され、国際的な取引が行なわれている、経済的にも重要な魚の一種です。
そして同時に、この東アジア地域の生物多様性を形作る、野生生物の一種でもあります。
ニホンウナギは、マリアナ海域で産卵・孵化し、海流に乗って、日本などの川や沿岸で数年をかけて成長。再び産卵場に向けて旅立ちます。
これを保全するためには、生息域に該当する国々が確実に連携しながら、資源の管理強化と、違法な行為の取り締まりを、厳しく、緊急に実行してゆかねばなりません。
特に、資源管理を実効的なものとしていくためには、養殖業者はもとより、小売や外食産業との協力・連携が不可欠です。
そして、なによりもウナギを食べる消費者自身が、ウナギの養殖や取引の実態について理解を深め、適切な消費を心がけることが重要です。まず出来ることとして、食べるウナギの原産地や種名を確かめてみることから始めるのも良いでしょう。
こうした取り組みを支援するために、野生生物の国際取引をモニタリングする「トラフィック」では現在、フィリピンにおけるウナギの国際取引についての調査を実施しているほか、WWFジャパンも「持続可能」なニホンウナギの利用のあり方について、流通関係者と意見交換を行なっていくことにしています。
養殖用の種苗(稚魚)のみならず、海外で養殖された活ウナギやウナギ加工品の輸入が、国内消費の半分以上をまかなっている、ウナギの消費大国、日本。
ウナギをめぐる問題は、その日本にとって、果たすべき責任のある大きな課題です。
関連情報
WWFジャパンのサイト