AV出演強要、ユーチューバーの過去 「音楽デビュー信じた自分」

「グラビアをできる人を探しているんだけど」大学4年生だった2012年夏、スカウトから声を掛けられた。「あなたはきれいだから、すぐにデビューできるんじゃないかな」

AV出演強要の過去を告白した、くるみんアロマさん。ユーチューブとの出会いが傷ついた心を救った

若い女性がアダルトビデオ(AV)に無理に出演させられる経緯には、夢をかなえたい気持ちを巧みに利用される場合も少なくない。動画投稿サイト「ユーチューブ」を活動の主舞台とするユーチューバーのくるみんアロマさん(26)は、所属した事務所の「音楽デビューさせるよ」という言葉を信じた。雑誌でのヌード撮影からAV出演に至るまで、「だまされた」と過去を振り返った。(朝日新聞経済部記者・高野真吾、林美子)

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「人生は1度きり。夢をかなえたい」

「グラビアをできる人を探しているんだけど」

大学4年生だった2012年夏、東京・新宿を歩いている時に、スカウトの男性から声を掛けられた。「あなたはきれいだから、すぐにデビューできるんじゃないかな」

最初は警戒していたが、男がしつこかったこともあり、喫茶店で話だけは聞くことにした。グラビアに興味はなかったが、高校時代にバンドサークルに所属しており、音楽活動を本格的にやりたいという夢は大学生になっても持っていた。専門はドラムだが、高校の文化祭ではボーカルを担当したこともあった。

男性は40代で、グラビアの勧誘だけでなく、音楽の話にも興味を示してくれた。就職活動を終えて、すでに一般企業からの内定を得ていた。それでも「人生は1度きり。夢をかなえたい」と考えて、都心の芸能事務所を紹介してもらうことにした。

「まずは名前を広げよう。音楽はそれから」

1週間ほどして、そのスカウトと共に事務所に足を運び、「社長」を名乗る中年男性と会った。笑顔で出迎えた男性の第一印象は、「いい人そうだな」。

「グラビアから入って、まずは名前を広げよう。音楽はそれから本格的にやればいいよ」。自分で歌詞を書いていることを伝えると、「どんどん持ってきて見せて」。話しやすくて、前向きに自分を押してくれる雰囲気があった。事務所に所属する契約書にサインをした。

秋ごろに、雑誌のグラビアの仕事が回ってきた。水着での撮影だと聞いた。「社長」と一緒に出版社に面接に向かった。売り込みの時、「社長」が放った一言に耳を疑った。「この子は、ヌードもやります」。全く聞いていなかったが、「雑誌の担当者に気に入られたい」という思いが先に立った。

「社長」は「時代は変わった。先に脱ぐのが売れる方法なんだ」と繰り返し説明した。ヌードなどの動画を含むイメージDVDの企画も進んだ。同時に撮影した写真と動画は、それぞれ3月と6月に世に出た。

「ヌードで終わったら格好悪いよ」

意を決してヌードの仕事をしたが、事務所は音楽活動への後押しはしてくれなかった。それどころか「AVに出ないと、今後の仕事はない」と切り出してきた。

「芸能界でグラビアアイドルの地位は低いけど、AV女優はすごくレベルが高いんだ」

「『脱ぎ損』という言葉は知っている? ヌードで終わったら格好悪いよ」

「AVに出て格好良くやったら、次の仕事も保証するよ」

事務所に行くと、「社長」とマネジャー役の男性ら5、6人に囲まれ説得された。AVへの出演は無理だというと、「あなたワガママだから」と怒鳴られることもあった。自分の意見は聴いてもらえず、いつも泣きながら帰った。

「社長」からは、「うちとは2年契約だから、2年が経たないと契約が切れないよ」とも言われた。契約書の控えはもらっておらず、内容もよく確認していなかった。「契約を解除したら、罰金を取られるのかな」との心配も募った。

「1%でも信じてみよう」

たびたび電話がかかり、事務所での説得も数カ月間、10回以上に及んだ。さらにスカウトから、AV女優が出演するテレビ番組を例に出し、「似たような番組をやるから、君を中心にしたい」と言われた。

事務所側に、AVに出たら音楽デビューできるのか、後押しをしてもらえるのかを何度も確認した。その度に「大丈夫だよ」「約束するよ」と言われた。次第に、「AVの仕事をやったら芸能界で成功できる」という事務所側の言葉を「1%でも信じてみよう」と考えるようになった。最後には出演を承諾した。

撮影には「切腹する気持ち」で臨んで「死ぬ気で耐えた」。監督、ディレクター、カメラマン、男優と、事務所の人間ら男性10人ほどに囲まれた。

慣れない性行為に「痛い痛い」と叫んだ。「無理です」と叫んで撮影が中断しても、撮影側は「できるまで終わらないよ。こんなに時間がかかるのは、あなたぐらいだよ」と冷淡だった。「ここにいる大人全員、子どももいるし生活もある。あなた1人でみんなの生活を台無しにするのか」とも言われた。

「迷惑がかかるから、ちゃんと対応して」

事前にAVメーカーとの面談があり、できない行為を伝える「NG項目」も提出していた。しかし、撮影当日はほとんど無視された。事務所の人間に過激な行為を強要された。「あなたができないと言うと、うちの他の女の子に仕事が来なくなる。迷惑がかかるから、ちゃんと対応して」

撮影終了後には下半身に強い痛みが残り、少量だが出血もあった。精神的に不安定になり、当日の様子を思い出す嫌な夢を何度も見た。

絶望的な気持ちに、事務所が怖い思いが重なり、恥ずかしさから誰にも相談できなかった。2本目にも出演するしかなかった。その撮影終了後、しばらくして事務所から電話がかかってきた。「『社長』がお金を持ち逃げした。他の女の子からもクレームがきている」

本当かどうか不明だったが、事務所とは徐々に連絡がつきにくくなった。

傷ついた心を救ったユーチューブ

深く傷ついていたとき、ユーチューブが救いとなった。

学生時代から、東日本大震災の被災地にいる犬や猫を保護するボランティア活動をしていた。関係者が撮影した動画がユーチューブにアップされたことがあり、「気軽にできるんだ」と印象に残っていた。

2013年11月末に、試しにアロマの知識を他の人に教えているところと、自分の散髪の様子を投稿してみた。思ったよりも視聴された。「人との出会いの記録をできるし、日記としても楽しめる」。ユーチューブに動画をアップすることが、心の支えとなった。

現在は、東京・原宿などで訪日外国人と一緒に撮った動画をアップすることに力を入れている。外国人でも臆せずに話しかけ、すぐ友だちのようになれる自分の性格を生かしている。動画を見た人から感想も届く。最近は、ネット上で話題となっているニュースを読み上げて、自分なりに解説する動画も始めた。

「あなたの人生が終わったわけではないよ」

事務所に対しては、今でも「音楽への夢につけ込まれた」と強い憤りを感じる。事務所の「社長」は朝日新聞の取材に対し、イメージDVDの作製に関わったことは認めたものの、AV出演には「私は関与していない。別の人たちがやったことだ」と述べた。くるみんさんは現在、AV被害の支援団体に相談し、被害の拡大を防ぐ方策を取り始めている。

今回、取材に応じたのは、芸能界に対するあこがれを抱く、若い女性たちに注意を呼びかけたいと思ったからだ。

さらに思いを伝えたい相手は、同じように望まない形でAV出演をした女性たちだ。

「世の中から隠れて生きていこうとする気持ちは分かる。それでも、『あなたの人生が終わったわけではないよ』と言いたい。私はつらい経験も、今のユーチューバーとしての表現に生かせていると信じている。たくさんの悩んでいる人に少しでも元気を与えられるような存在になりたい」

     ◇

【AV出演強要などについて相談、支援をしている主な団体の連絡先】

・PAPS(パップス:ポルノ被害と性暴力を考える会)https://paps-jp.org

050-3177-5432 paps@paps-jp.org

・NPO法人 人身取引被害者サポートセンター「ライトハウス」http://lhj.jp

0120-879-871(電話相談は月~金の10時~19時) soudan@lhj.jp

・一般社団法人 社会的包摂サポートセンター「よりそいホットライン」 http://279338.jp/yorisoi/

岩手、宮城、福島からは0120-279-226

被災三県以外からは0120-279-338

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