AV強要問題について答えるIPPAの担当者
アダルトビデオ(AV)に無理やり出演させられる出演強要被害。社会問題としての認知度が高まる中、AVメーカーなどで構成する「知的財産振興協会」(IPPA、本部・東京)が健全化に向けて動き出している。AV女優を派遣していた芸能プロダクションの元社長が逮捕されるなど業界に激震が走る中、どう対応していくのか。同協会の事務局長に話を聞いた。(朝日新聞経済部・高野真吾)
AVメーカー200社などで構成
――初めてIPPAの名前を聞いた人のためにも、まずはどういった団体であるか教えて下さい。
もともとは業界のコピー品問題、海賊版対策を各メーカーの枠を超えて、連携してやっていこうとできたNPO法人です。2009年ごろから始めて、11年にNPOになりました。構成しているのは、AVメーカー200社ほどと、アダルト系のアニメやゲームの会社など約50社です。
14年ごろからイベントの主催もしています。(AVファン感謝祭として業界発展のために開く)「ジャパンアダルトエキスポ」や作品売り上げナンバーワンを決める「AVオープン」をやっています。作品が世の中に出る前の業界団体による審査基準をあわせる旗振り役も担っています。今や業界の窓口的な存在です。
「こんなのあり得るのか」
――AVに関しては、今年3月に国際人権NGOヒューマンライツナウ(HRN)が出した調査報告書が大きな話題を呼びました。タレントやモデルとしてスカウトされた女性が、AVへの出演強要をされている、制作現場でも女性の意思に反した暴力的、屈辱的な撮影が行われていると指摘しました。
こんなのあり得るのかというのが本音です。現場では一番強い、地位が高いのは女優さんです。次に監督、スタッフになります。女優さんをきちんとケアしていかないと、プロダクションから次に女優さんを派遣してもらえなくなってしまいます。
「業界をつぶしに来ているのかも」
――当時、複数の現役AV女優がツイッターなどのSNS上で報告書への反論を展開しました。IPPAは、「こちらの認識と違う」という声明を出すことは考えなかったのでしょうか。
報告書が信じられない内容だったので、社会的に業界をつぶしに来ているのかもしれないという感覚に陥りました。それに対応するためにどうしようかというロジックになり、数カ月が経った。
報告書の内容を検討するうちに、プロダクションと女優との関係については、メーカーでは見えない部分があるかもしれないと考え始めました。メーカーの団体として対処すべきだろうとなった。6月上旬にIPPAとHRN側の第一回顔合わせと意見交換を始めました。
HRN側は、被害者から業界の話を聞いているので、「やくざがやっているんじゃないか」と思っている部分があった。私たちは、報告書を見て「ちゃんと意見交換ができるのか」という状況でした。
顔合わせをして、HRN側から「AV業界をなくしたいのではない。制度的、システム的にきちんとし、出演強要などの人権侵害をなくして欲しい」と伝えられた。HRN側も私たちが「やさぐれた人たちじゃない」と分かってくれた。できることを進めていきましょうと言っていた時に、逮捕が起きたいのです。
「運用マニュアル用意するつもり」
――所属する女性をAV制作会社に派遣し、公衆道徳上の有害業務にあたるAVに出演させた疑いで芸能プロダクションの元社長ら3人を逮捕した事案ですね。6月22日に、IPPAは「大変申し訳なく思っております」「業界としてはこの事態を重く止めております」などとする声明文を出しています。
逮捕者はプロダクションの人でしたが、メーカーの団体としても対岸の火事として見ているわけにはいかないと受け止めました。
――声明文に、「業界の健全化に向け、メーカーとしてもプロダクション側に働きかけていくことを決議、実行することに致しました」とあります。約2カ月経ちますが、どこまで実行できていますか。
プロダクションは逮捕事案の発生後、大手どころが一度集まって、自分たちの団体をつくりたいと話をしました。その人たちと意見交換をしています。
メーカーと女優は出演にあたって「出演同意書」を交わしますが、(メーカーの枠を超えた)統一の共通フォーマットを作成しようとなっています。女優とプロダクションの契約に関しても同様に動いています。運用マニュアルも用意するつもりです。
「スカウトフィー大きなお金に」
――IPPAはそもそも、なぜ、AV業界に不健全な部分が出てきたと考えていますか。
最初の部分のスカウトです。(女性がプロダクションに登録することなどによって生まれる)スカウトフィーはかなり大きなお金になるので、きちんと話をしないで契約させてしまう。
また、私たちの団体のメーカーは、日本で発売される日本向けの作品をつくるのですが、無修正作品を作っている人がどこかにいます。そこで何かしらかの被害、ひどい事案の撮影が行われているのではないのでしょうか。
「みんなでまじめに悩んでいる」
――私が取材をした複数の元女優は、IPPAに加盟しているメーカーでの撮影に、プロダクションに騙(だま)されて行きました。現場で、泣いて「嫌です。できません」と監督に訴えたけど、撮影が強行されたと証言しています。同様の訴えは被害者支援団体には、さらにたくさん寄せられています。
調査が難しいのですが、もしそういう現場があるとすれば、禁止するシステムは必要です。ガイドラインをつくるなどの整備をしていくことになります。
最近、IPPAの理事から聞いた話ですが、撮影現場では「頑張って撮影しよう」と女優さんに言うのが強要にあたるのかどうかを、みんなでまじめに悩んでいるそうです。どういう風にしたらいいのか、分からなくなってきています。
「アンダーグラウンド化を危惧」
――IPPAはHRNとの話し合いで「本番の性交渉をしない」ことについて「慎重に検討する」と回答したそうです。その理由を教えて下さい。
制作サイドは、SEXの営みを撮っていく中で、本番がないとリアリティーにかけてしまうと言っています。また、本番はやめましょうとなった時に、アンダーグラウンドに走ってしまう人が出てくることを非常に危惧しています。
――8月2日にHRNが出した要請書では「法律に抵触する虞(おそれ)。また性交渉を契約の拘束力によって義務づけることがゆるされるのか」と注釈に記しています。
HRNさんの要請書などを受けて、業界をシステム化していく中で、業界に悪い人がいるならば排除していく。新しく入ってくる女優には、やることに関するリスクを知ってもらって、やる気のある人を撮りたい。リスクが許容できない人は、むしろ業界に入らない方がいいということにしていきたい。
「申し出で消せるなどのシステムも」
――要請書にある、「女優の人格権保護のため」に「流通期間に制限を設け、意に反する二次使用、三次使用ができない体制をつくる」ことはどうでしょうか。
今までは、メーカーが著作権を持って、二次、三次と使ってきましたが、我々の中でも今回、アダルトは特殊なコンテンツだという認識ができました。二次使用する場合は、女優への意思確認をして、新たにお金を払うこともあり得ます。
本来の著作権はメーカーがずっと持つものだけど、権利の契約期間を5年とかで持っておいて、それ以上使いたい場合は女優にお金を支払う。または、5年たったので、女優からの申し出で消せるなどのシステムを整備しようということで契約書のモデルケースを考えています。
「強要をする人がいれば排除する」
――メーカー大手のCAを抱える「DMM.com」の亀山敬司会長は、ツイッターでは「強要など絶対に許されない」などとつぶやくものの、取材依頼には「見守っていただきたい」と回答し、インタビューに応じてくれません。同じく大手のSODは取材企画書を出しても、反応なしでした。
各社色々な考えがあるのかもしれません。IPPAは、業界の窓口役ではあるので、対応はしていますが。
――改めてAV業界健全化に対する意気込みを聞かせて下さい。
今までも業界は健全化してきたと言われて、認知度も上がってきました。一生懸命にやっている女優さんからは、(アイドル活動をしている)「恵比寿マスカッツ」のような団体が生まれた。そういう女優さんが気持ちよく働ける状況を整えたい。
強要をする人がいれば排除する。作品の審査を受けて、ルールを守る人たちで業界を構成する。
無修正、無審査でつくっている人たちとは、線引きをした上で、粛々と業界を整備して、新しいルールをつくるつもりです。
(2016年9月2日withnews「AV強要、戸惑う業界団体「信じられない」「現場で一番強いのは女優」」より転載)
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