どうだね、君が手に負えないと思う者だけ、採用してみては ── 本田宗一郎

企業は「より良い人材」の採用、そして育成に多大の投資を行うわけだが、その際、どんな人材観を持って採用に臨むのかによって、その企業の将来が左右されると言っても過言ではない。

企業にとって「どんな人を採用するか」はとても大きな意味を持つ。

 「明日のマネジメントにあたるべき人間を、今日用意しなければならない」はピーター・ドラッカーの言葉である。ドラッカーによると、企業にとって人づくりほど大切なことはなく、現在の世代は、明日のために次の世代を育て、次の世代は、その次の世代に向けて新たなものを築き、次代を担う人材を育成していくことになる。

 もしこのサイクルが回らなくなったなら、企業は停滞、そして衰退へと向かうことになるだろう。そうならないためにも企業は「より良い人材」の採用、そして育成に多大の投資を行うわけだが、その際、どんな人材観を持って採用に臨むのかによって、その企業の将来が左右されると言っても過言ではない。

 本田技研工業(以下、ホンダ)の創業者、本田宗一郎はホンダという会社を経営するにあたり、あえて自分と性格の異なる人間、自分にはないものを持つ人間と組むことを考え、実行している。「自分と同じなら2人は必要ない」として、自分が苦手とする経営や販売の得意な藤沢武夫とともにホンダを創業し、生涯の盟友として大切にしている。

 しかし、現実には反対のことを考える人が少なくない。ワンマン経営者はとかく、自分より劣る人間や、従順な人間を置きたがる。上司は自分の力量を上回る部下よりは、使いやすい人間、自分の言うことを何でも聞いてくれる人間を好む傾向があるものだ。

 たしかにその時は楽だろうが、もしそんな人間ばかりだったら、会社は成長どころか縮小均衡へと向かうことになる。ある日、本田は採用担当の試験官にこう提案した。

 「どうだね、君が手に負えないと思う者だけ、採用してみては」

 面接官は限られた時間の中で適性を見抜く必要がある。社風に合うか、会社が期待する成果を上げられるか見抜こうとするが、本田は「できのいい子」ばかりではなく、規格外の子を採ったらどうかと考えていた。

 「試験官が気に入るような学生ばかりだったら、どんなに頑張ったところで伸びるのはせいぜい試験官のレベルまで」

 試験官が手に負えないと思ったなら、試験官以上に伸びる可能性を秘めているということだ。従順な部下は決して上司を超える存在にならない。本田が望んだのは「上司を凌駕する部下」であり、「会社の枠を超えるほどの学生」だったのである。

執筆:桑原 晃弥

本記事は書籍「1分間本田宗一郎」(SBクリエイティブ刊)を再構成したものです。

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