中国における初の住民医療皆保険制度の実施

上海市政府は2016年1月1日より、「上海市出身者と農村出身者のための新しい基本医療保険制度」(新保険制度)を実施する。

上海市政府は2016年1月1日より、「上海市出身者と農村出身者のための新しい基本医療保険制度」(新保険制度)を実施する。これは、統一的な医療保険制度を導入することにより、都市出身者と農村出身者の保険制度の一体化を促進し、上海市在住の市民に高い医療サービスを提供することを目的としている。

中国国内の各省、自治区、直轄市より、上海市で一早く住民医療皆保険制度を実施できることは、非常に有意義なことと言えるだろう。

中国国民にとって、基本的な医療を受けるための仕組みは、日常生活に深く関わる重要な問題である。2009年以来、中国では医療保険制度を含む、医療衛生制度の改革(新医改)を進めてきた。現在、中国では都市従業者基本医療保険制度、都市住民基本医療保険制度、そして新型農村合作医療保険制度の3種類の医療保険制度がある。

都市従業者医療保険制度は、従業員と企業が国の規定に従って基本医療保険料を負担する。医療機関で治療を受ける場合には、被保険者が医療保険機構に申請し医療費の助成を受け、自己負担費の一部を減額することができる。都市住民基本医療保険制度は、政府の指導のもとで主に国民個人が保険料を負担し、政府が一部給付するという制度で、保険料負担額は各家庭の経済状況に応じ決められる。

保険加入対象は、都市従業者基本医療保険に加入できない小中学生(職業高等学校、専門学校の生徒を含む)、児童及び非就業の都市出身者である。新型農村合作医療保険制度は、政府の指導のもとで農民が任意加入し、個人と集団経済団体と政府が費用を出し合う相互扶助を目的とした医療共済制度である。保険の資金は、個人の負担と経済団体の支援及び政府の助成で、加入対象は主に農民である。

現在の中国の基本医療保険制度は、経済改革や国民医療保障、医療費のコントロールに大きな役割を果たしてきたが、様々な問題も存在している。例えば、北京、天津、上海以外の地方は、主に戸籍所在地の自治体が地方従業者の医療保険を運営しており、経済的にゆとりのある大都市と比べ格差がある。

また、被保険者が他の地域で治療を受けることが制限されており、保険に加入していても医療費負担上のリスク回避能力は高くはない。現在の保険制度のままでの加入対象者の増加にも問題がある。全国民の医療保険基金への加入は理想だが、まだまだ改善の余地がある。

現状では都市従業者医療保険、都市住民医療保険及び新型農村合作医療保険の連携、人的資源、他地域での医療、定年退職後の治療、医療保険の管理、高齢者、慢性疾病外来診療の医療費等に関して、解決を必要とする問題が多く残っている。

2016年1月1日より、上海市が新たな保険制度を実施し、医療保険対象の範囲、保険資金調達方法、給付レベル、サービスの取扱い等の4つを統一する。この保険制度は加入条件を緩和し、上海従業者医療保険に参加してない上海の市民も含め、戸籍と関係なく全都市住民が医療保険に加入することができる。

加入対象は上海戸籍の18歳以上の者、上海戸籍の小中学生、幼児、上海市の各大学、研究所で教育を受けている全日制大学生、専門学校の生徒、非在職研究生及び他に条件を満たした者、となっている。政府はさらに注力し、特に農村出身者に高いサービスを提供することを考えている。

新保険制度を実施した後、保険資金の調達方法を統一し、農村出身者と都市出身者が同じサービスを受けられるようにすることが計画されている。都市出身者と農村出身者の全体の医療保険の資金調達力を高めることに政府はさらに注力しており、特に、農村出身者への給付を改善し、現在の2000人民元未満から3000人民元に上昇させ、都市出身者と統一する。同時に、都市出身者と農村出身者の個人負担保険料を統一する。

2016年の医療保険において、毎年一人当たりの給付水準と個人自己負担額をみると、70歳以上は3800人民元及び340人民元、60歳~69歳は3800人民元及び500人民元、19歳~59歳は2500人民元及び680人民元、小中学生・幼児は900人民元及び100人民元、となっている。上海の各大学に在学の大学生、専門学校の生徒、非在職の研究生の個人負担額は小中学生と同額である。

農村出身者も保険に加入しやすいように、上海市の各区、県及び集団経済団体から農村出身者に一定額の保険料が補助される。経済的に困難な者には引き続き保険料が助成される。低収入の家庭、障害者及び高齢者にも個人負担額の一部が助成される。さらに、救急外来、入院手続きの際に、低収入の家庭や重度障害者は政府の助成が受けられるようになる。

住民医療保険補助も手厚くされ、特に農村出身者の受益が考慮される。新保険制度では農村出身者の入院費用の給付制限がなくなる。いままでは新型農村合作保険の被保険者の場合、入院費用が12万人民元を超えると医療費の助成を受けられなかった。新保険制度では入院費用が12万人民元を超えても、医療費が一定の割合で助成を受けられるようになる。

また、各等級の病院で、農村出身者の入院における給付が上昇する。特に三級病院の給付金は以前より10%~20%上昇し、農村出身者が都市の病院で治療を受ける際に、経済負担がさらに軽減される。重症尿毒症による人工透析、腎臓移植には基金からさらに50%の給付が受けられる。以上の改訂により、今までの保険に比べ、新保険制度の利用によって入院費用は75%の補助を受けることができるようになる。

今までの保険制度と比べ、都市出身者と農村出身者の双方で外来診療費用の負担が軽減される。農村出身者の外来診療費用助成の上限(5000人民元)、入院費用の上限(12万人民元)が無くなり、入院費用において給付が10%~20%上昇する。一、二級病院でも治療費などの給付が5%上昇する。19歳~59歳の住民の外来基本診察料は1000人民元から500人民元に下がる。

新保険制度の実施により、統一された医療サービスを受けることが可能となる。都市出身者や農村出身者も治療を受けやすくなる。2016年より、農村住居者は保険証を持って、病院で治療を受け、その場で精算する。農村住居者は紹介状により二、三級病院で治療を受ける場合、医療費を立替える必要がなくなる。

農村住居者の習慣を尊重して、上海市1300カ所の診療所はすべて医療保険で精算し、農村住居者は遠く行かなくても治療を受けることができる。同時に、村の診療所の紹介状により、高度医療機関への転院の手続きが円滑になる。

以上のように、上海が一早く住民医療皆保険制度を導入できることは、上海の経済発展の成果であり、他の地域における住民医療皆保険制度の導入を促進する上でも重要な意味がある。

(2016年1月29日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)

注目記事