2004年に、世界のバックパッカーが集まる聖地、タイのカオサンロードの名を冠し、世界からの旅人を受け入れるゲストハウスとして、第一号店となるカオサンオリジナル店を浅草にオープンさせた、日本におけるゲストハウスのパイオニア「カオサングループ」。
その後、カオサンアネックス、カオサンスマイル、カオサン忍者、カオサン侍、カオサン歌舞伎、カオサン福岡、カオサン別府、カオサン福岡アネックス、カオサンラボラトリー、カオサンシアター、カオサン浅草 旅館&ホステル、カオサン札幌と規模を拡大。現在、東京・京都・福岡・別府・北海道に展開している。
元々はバックパッカー向けの宿泊施設であったが、近年は訪日観光の盛り上がりもあり様々な国から、旅人だけでなく一般的な個人観光旅行者やビジネスマンも利用する。東京の店舗では、日本人の旅行者や就活生の宿泊者も多数いるという。
そんな「カオサングループ」の東京・浅草にある「カオサン東京歌舞伎」が、世界のホステル・ゲストハウス・バックパッカーズを最も網羅するネット宿泊予約サイトであるHostelworld.comが毎年発表している、世界的に最も権威があるとされる『ホステルアワード』の小規模ホステル部門(50ベッド以下)でアジアナンバーワンの座に輝いた。
そこで今回、 カオサン東京歌舞伎店マネージャー北林ちえこさんに、その秘訣と秘密を聞いた。
(カオサン東京歌舞伎店 マネージャー北林ちえこさん(中央))
ーこの度は受賞おめでとうございます。率直にどのようなご感想ですか?
北林さん(以下、敬称略)「ありがとうございます。本当に驚いています。どうしてウチが?と最初は信じられなくて疑いました。何度も確認して、それでも信じられなくて。(笑)」
ーそれでは早速、一気にハードルを上げて質問します。
どこのホステルやゲストハウスでも、宿泊者の満足度を上げようと、あの手この手で数々の努力をされています。私は見ていて、本当に頭が下がる思いがします。そしてどの宿も、他の宿で好評なものはすぐに取り入れて実践しています。この業界もそう簡単には差別化して優位に立てないと思うのですが、いったい何が宿泊者に評価されたと思いますか?
北林「とても難しい質問ですね。いったい何でしょう?教えて下さい。何も特別なことはしていないんです。」
ーいえいえ、きっと何かあるはずです。どこのゲストハウスも、建物や設備と立地を簡単には変えられませんよね?
北林「それはその通りです。そういった要素とは別にゲストハウスには、この手の宿を選んで宿泊くださる皆さんにとって、他のホテルや旅館などの宿泊業とは何か違う評価基準があると思うんです。だから成立する仕事です。そこだけは大切にしたいし、そこで努力するしかないと思っています。」
ーなるほど、ゲストハウスやホステルならではの特性を生かした接客ということですか?
北林「はい、そうなると思います。ゲストハウスは、スタッフ側とお客様の距離がとっても近いですから。」
ー企業秘密もあるかと思いますが、距離感について具体的に教えていただけませんか?
北林「お客様の地域別、時には国別に対応を心がけることもあります。日本で例えれば、関東の方と関西の方では違いますよね。」
ーそこまで気を配っているのですか?
北林「欧州や北米や中南米、それとカナダ・オセアニア方面からいらっしゃるお客様は、自ら館内のことやレストランや観光スポット、自分が行きたい場所へのアクセスなどをグイグイと尋ねてくれます。なのでフレンドリーに接しながらも相手にとって心地よい適切な距離感を保ちます。逆に国民性や、コミュニケーションを取ることになる英語が十分でないお客様もいらっしゃいますし、アジア方面からのお客様はどうしても遠慮して自己解決しようします。その時こそが我々スタッフが活躍できる瞬間です。」
ーその見極めは、やはり経験からくるものですか?チェックインをしばらく見せていただきましたが、事務的ではなく色々な会話をするのですね?
北林「ご予約を頂いた時から国籍は分っているわけです。何度目の日本なのか?来日して最初の宿泊なのか?すでに他の地域を周って東京にこられたのか。そういったことをチェックイン時に会話の中からヒントとして頂きます。それをスタッフで共有していることが役立つこともあります。」
ーとにかくお客様と会話することが重要だと?
北林「はい、共通の会話できる言語が無くて苦心することもあるんです。それで、スタッフみんなで簡単な挨拶や"ありがとう"だけは各国語で言えるように心がけてます。それだけで心配気だったお客様の顔がパッと晴れやかになることもあります。」
(毎年恒例の酉の市へ お客様とスタッフと共に雷門前で集合写真)
ーフロント前エントランスに、「いってきます」と「ただいま」の説明が英語で書いてありますね?
北林「はい(笑)、すべてのお客様に、日本語で"いってきます"と"ただいま"を覚えていただきます。私たちは、いってらっしゃい、おかえりー、と声をかけることができますし、外国からのお客様は日本語で会話をすることを喜んでくれます。そういった人間関係を作るからこそ、本気の相談もしてもらえますから。」
ーなるほど、信頼を得られることが高い評価につながるわけですね。まだまだ他にも秘密や秘訣がありますよね?
北林「いまお話した程度で、何も特別なことはしていないんです。本当に秘訣はないんですよ、あったら教えて下さい。どちらのホステルやゲストハウスさんもやられている、ごくごく当たり前のことを手抜きすることなく、1年356日安定して提供するようには心がけていますが。」
ーここまでお伺いして、「会話」 「細やかな国や地域や個別対応」 そしてそれを「安定的に年間を通して提供」という3つのキーワードが出てきたように思います。
これだけでも凄いことですが、アジアにゲストハウスやホステルが何軒あると思いますか?私も分りませんが、数千軒あるのは間違いないでしょう。その中でナンバー1ですよ!何かまだまだあるはずです。是非ともあと一つだけでも教えていただけませんか?
北林「う~ん、困りましたね。手前どものスタッフの話で恐縮ですが、マネージャーのわたしから見ても、お客様のために必要に応じてビックリするぐらい自由に動きます。」
ーはい、それです!カオサン歌舞伎店の秘密はそこにあるのでは?
北林「わたしも我がスタッフながら、感心する時があるんです。フロントスタッフそれぞれに目一杯分担された仕事があります。その他に協力してやる仕事、打ち合わせ、館内掲示の作成や交換、突発的なことも起こります。それでも彼女たちは、そこまでしてあげるの?もう、それはお節介じゃないの?というぐらいにお客様の様々な問題を解決していきます。」
ーそのようなスタッフ研修をしているのですか?
北林「そこまでは、まったくしていません。前マネージャー時代からの伝統かもしれません。そこを喜びとしてフロント業務についてくれる彼女たちには本当に感謝しています。それから今回アワードを頂いたのは、お客様のおかげです。とても良いお客様ばかりですから。」
ー素敵なゲストハウスには、素敵なお客様が集まるのですね?
北林「本当にありがたいことです。そして、弊社はグループ内にも切磋琢磨する環境がありますので。ウチよりも大きく設備も良く新しいホステルがグループ内に3軒、4軒、5軒と次々にオープンしました。日々、ウチの環境の中で可能なできることを手抜き無く目一杯、年間通して安定的にやっていく他に方法はないと考えています。」
大変、ご多忙な中を、お時間を頂きインタビューさせていただき、ありがとうございました。
(向井通浩/GuesthouseToday編集長)