ポートランドに学んだ!市民参加の仕組みづくり。

「全米一住みやすい街」「全米一環境に優しい街」とされると同時に、アメリカでも特に市民活動が盛んな都市としても知られています。

先日、6年間の議員生活ではじめて長期の休暇をいただき、ブラジルのリオデジャネイロとアメリカのニューヨーク、そしてポートランドを巡ってきました。

リオではオリンピックにおけるボランティアの活躍ぶり、ニューヨークでは自転車シェアリングやWi-Fiの充実ぶりなどを学んできましたが、ここでは留学以来15年ぶりに訪れたポートランド(大学時代、Portland State University=PSUに交換留学に行っていました)の、特に市民参加の仕組みづくりについて書きたいと思います。

ポートランドはアメリカの西海岸にあり、人口は約60万人、面積は約376平方キロメートルとなっています。「全米一住みやすい街」「全米一環境に優しい街」とされると同時に、アメリカでも特に市民活動が盛んな都市としても知られています。行政へ住民やNPOなどが積極的に参加し、「自分たちの街は自分たちの力でなんとかする」という風土が育っています。住民の合意のもとにつくられた「緑が多く、車の少ない街」「財政、社会、環境の持続性を大切にする街」は多くの人を惹きつけ、今後数年間で人口が2倍の120万人になるという予測もあるほどです。

ポートランドの住民参加のはじまり

ポートランドの住民自治には40年近い歴史がありますが、そのはじまりは、政府による高速道路建設への反対運動にあるとされています。1970年代、政府は市の中心部を流れる大きな川沿いに高速道路の建設を進めようとしましたが、住民の反対運動の盛り上がりにより計画を断念。その後、高速道路の予定地だったところには、川に沿った形で公園が整備されました。

街の中心部は高層の駐車場になるはずが、住民による資金集めの活動などにより、広場になりました。また、道路整備のためにあった国の補助金の一部は路面電車(ライトレール)の整備費用に充てられ、バス路線の充実とその後のストリートカー(路面電車では行けない細い通りなども走れる公共交通機関)の導入と合わせて、車がなくても生活できる環境をつくってきました。

(ライトレール「MAX」:中心部は無料で乗ることができる。)

住民参加を進める制度

ポートランドには政治家が5人しかしません。「コミッション制度」と呼ばれる体制をとり、市長を含め、「コミッショナー」と呼ばれる5人が日本で言うところの市議会の役割と、行政機関のトップの役割の両方を果たしています。コミッショナーはそれぞれ専門の行政分野を担当し、重要なことは5人で議会を開いて決めています。コミッショナー一人一人の役割がはっきりしているので、住民からしてみれば意見を伝えやすく、また行政の機動力がある一方、「多様性がなく、住民にとって政治家が身近でない」という意見(今回、案内してくれたPSUの職員談)もあります。

「政治家が身近でない」代わりに機能しているのが、日本の町会・自治会に近い「ネイバーフットアソーシエーション」という組織です。中学校区程度の範囲に一つ存在し、100近くある組織を7つの地区連合が束ね、さらに市役所の中にはそれを統括する組織があります。市の条例で、政策決定や予算策定のプロセスに関わる機関としての役割が明確に規定されているところが、日本の町会・自治会との大きな違いです。市は、市が抱える問題をこのネイバーフットアソーシエーションに提示し、アソーシエーション内で何度も議論が交わされます。そして時には市の予算でなく、自分たちやボランティアの力で解決してしまう道を選ぶのです。

「建築のデザインのあり方やまちのルールもアソーシエーション内で決める。周りの植栽を手入れしないと怒られるし、ここに所属しないなんてことは考えられない」(ポートランドに住む友人談)とのことで、人手不足に悩む日本の町会・自治会との差を感じました。

(ネイバーフットアソーシエーションによって塗装された道路)

まちづくりを支える社会起業家たち

ここまで、「行政でできないことはネイバーフットアソーシエーションに」という姿勢を明確にした自治のあり方を見てきましたが、さらにこれを周辺から支えるのが社会起業家たちの存在です。

今回、私たちは持続的な開発と自転車コミュニティの発展を促進する「Go Lloyd」、舗装された駐車場を芝生の庭に変えていく「Depave」、そして若者の政治参加を促す「The Bus Project」を訪れ、CEOと議論しました。それぞれの団体が定期的に開催している市民を巻き込むためのパーティやイベントなど、学ぶところは多かったのですが、共通していたのは、クリエイティブなアイディアとデザインに加えて、「とにかく楽しもう」「世の中をカッコよく変えていこう」という気持ちをみんなが持っていたところでした。

「自分たちの生活をよりよくするためのアイディアを思いついちゃったんだから、やるしかないでしょ。僕たちがやることで世の中がもっと楽しくなるならこんなに嬉しいことはないし、これを社会にもっと伝えていきたい。」と語る「Depave」のEricさんの言葉はすごく響いたのと同時に、私がNPOの代表として大切にしたかったコンセプトがここにあると感じました。

ビジネスをきちんと学んだ人がCEOを務めていること、また寄付の文化があり資金繰りにさほど困らないこともあり(行政も資金を拠出し、自分たちができない部分を彼らに任せている)、団体を安定的に運営する基盤が整っているのは大きいですが、みんな表情にとにかく余裕があり、楽しんでいる感じがとてもいいなあと思いました。

(Depaveが駐車場を子どもたちが遊べる庭に。写真は筆者と、一緒に行ったNPO法人僕らの一歩が日本を変える。代表の後藤寛勝くん。)

(The Bus Projectは候補者をバスに乗せて若者を訪ね回る。写真は筆者と、一緒に行ったNPO法人僕らの一歩が日本を変える。代表の後藤寛勝くん。)

住民参加は「楽しい!」からはじまる

今回、ポートランドを訪れて改めて感じたのは、「まちづくりは本来、もっと楽しくやれるんだ!」ということでした。行政が住民参加を強く求めていて、かつ自分たちの意見が確実に行政に届くのならやりがいがあるし、NPOの活動が社会的にきちんと位置付けられ、活動が賞賛され、さらにそれで食っていけるのなら充実している。だから住民は、どんどんまちに関わっていく。

自分たちの住むまちについて日常的に議論し、それをすぐにまちづくりに活かしていける場と仕組みがあれば、またそこにエンターテイメントの仕掛けがたくさん用意されていれば、きっともっと街は楽しく、良くできるんだろうなあと感じました。「パーソナルキャパシティからコミュニティキャパシティへ」。さあ、これを港区や日本のまちづくりに活かしていくぞ!

2週間ほど前にローンチしたばかりの自転車シェアリング(ポートランドに本社があるNIKE製!)に乗って美しい街並みを巡っては、なんだかウキウキしたポートランド視察でした。

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