日本のインターネットのメディア空間には、「集約」の場所がないという問題がある。これは非常に重要な課題だ。
(1)ネット議論が知られていない
そもそも、ネット上でどんなに面白く重要な議論がされていても、その議論を知る手立てがあまりないという問題。TogetterとNAVERまとめだけじゃ、そもそもネットを見ないような人には伝わりようがない。
政治や経済、社会に関する議論が誰にでも見える場所に露出しているのが、テレビのワイドショーや討論番組だけというのは、実に残念な話だ。
ブログが普及して政治や経済、社会などについての議論が活発になってきた2006年ごろ、私は昔の上司の元新聞記者から「佐々木君、ここを見れば全部わかるっていうブログはないんか?」と訊かれて絶句したことがある。「いや、ブログってのは横断的に読むものだから、集約なんかされてませんよ」と答えたのだが、今こそそういうポータル的なメディアが必要だ。
「ここを見ればネットの議論が分かる」というような集約のポータルサイトみたいなのがあれば、「ネット外」の人にも伝わりやすい。良質なネット議論を表出させることができ、それがネットを見ない高齢者や政治家、企業人といった層にも伝わることができれば、世論形成のあり方も変わってくる。
(2)ブロガー単位ではなく、ニュース単位に
BLOGOSやヤフーニュース(個人)のような、ブログのアグリゲーションメディアはすでにある。しかしこれらのメディアは、単にさまざまなブログ記事が並列しているだけで、ニュースに紐付けされていない。
だからそれらのブログを横断して読んでも、それは「議論を読むこと」にはならない。もし議論を読もうとすると、読者の側が何が議論になっているのかを考えて、自分でブログ記事を抽出していかなければならない。これは面倒だ。
いま必要なのは、単なる「ブログの集まり」ではなく、さまざまなニュースごとに「その問題について、誰がどんなことを考え、そこでどんな議論が行われているか」を知ることのできるメディアである。
たとえば今だったら、憲法改正について。憲法改正について法学者や政治家やジャーナリストがどんな論考を発信し、彼らの間でどんな議論になっているのか。それをきちんと知ることができて、さらにそういう議論に自分も参加することができるようになれば、ネットでの世論形成の可能性は非常に大きくなってくる。
せっかくさまざまな専門家や論者が重要なことを書き、意味のある発信をしているのにもかかわらず、現状の日本のネットはそれらの論考がただ発散していって、消えてなくなっているだけだ。これは実にもったいない。この発散状態を逆回転させ、集約へと転じさせるメディアの登場が待たれている。
そしてそれを今のところやろうとしているのは、このハフィントンポストと、おそらく間もなくバージョンアップされるであろうヤフーニュース(個人)の二つのメディアだろう。
集客力においては、ヤフーニュースは圧倒的だ。私が少し前に書いた『生きづらい時代に 結婚式はこう変わった』という記事は、ページビューが100万近くもあった。ヤフトピに紹介されることによる効果だと思うが、中には500万ぐらいのページビューに達する記事もあるという。通常のブログメディアではあり得ない数字である。
一方ハフィントンポストは新規参入で集客力は未知数ながら、コメントのフィルタリングなどの技術はきわめて精緻だ。これまでBLOGOSにしろ、ヤフーニュースにしろ、日本のメディアはコメント欄が荒れても放置されているケースが多く、読むに耐えないものも少なくなかった。外資系では、Amazon.co.jpの書籍のレビューも。しかしハフィントンポストは月間1000万に上るという膨大なコメントを解析し、自動的に不適切なコメントをふるいにかけたり、人気のコメントを見つけて強調するような技術を進化させている。
この技術に対してヤフーがどう出てくるかも気になる。いずれにしてもヤフーか、ハフィントンか。この真っ向勝負は非常に面白い。もしハフィントンが市場シェアを拡大していくことになれば、SNSや電子書籍ストアなどに続いて、またも外資系メディアに日本市場が蹂躙されるのか......ということにもなり、メディア空間もアメリカ企業のプラットフォームに侵蝕されてしまう事態になっていくだろう。
だからハフィントンの上陸は、日本のメディア空間の将来を考える上でも重要な岐路になってくるのだ。