第一次世界大戦中のフランス軍とワインの微妙な関係

第一次世界大戦中にフランス軍は、毎日兵士1人につき4分の3リットルのワインを無料で支給していたのだ。

去年は第一次世界大戦が始まってから、100年目にあたった。このためフランス語の資料を読んでいたら、完全武装のフランス軍の兵士が水筒から赤ワインを飲んでいる様子を描いたポスターが目に留まった。

さらに読み進むと、驚くべきことがわかった。

第一次世界大戦中にフランス軍は、毎日兵士1人につき4分の3リットルのワインを無料で支給していたのだ。4分の3リットルというのは、通常のワインの瓶1本に相当する。大戦勃発後、1日の配給量は4分の1リットルだったが、徐々に増量されて1918年の1月には4分の3リットルになった。

軍のワイン購入量が急増したため、フランス南部の農場ではワインを増産。この地域のワイン農家は「大戦特需」で潤った。

ドイツでは、これほど大量のアルコールを兵士に飲ませたという記録はない。なぜフランス軍はこのような大盤振る舞いを行ったのか。

その理由は、士気高揚のためである。フランス人の生活にワインは欠かせない。子どもの頃から、水で薄めたワインを食事の時に飲ませて、慣れさせる家庭すらあるほどだ。

第一次世界大戦ではしばしば戦線が膠着し、兵士たちは雨が降れば泥濘の海となる塹壕で、悲惨な生活を強いられた。塹壕の衛生状態は劣悪で、鼠が走り回った。ドイツ軍の砲撃や毒ガス攻撃が始まっても兵士たちは蛸壺の中でじっと耐えるほかなく、恐怖のために発狂する兵士が続出した。

上官の突撃命令で塹壕を飛び出せば、遮蔽物がない戦場で多くのフランス兵たちが、ドイツ軍の機関銃によってなぎ倒されていった。

家族や恋人と離れて惨めな生活を送る兵士たちの唯一の楽しみは、食事とワインだった。彼らは毎日支給されるワインによる酔いで、死の恐怖を瞬時忘れたのである。

ちなみにこの伝統は今日も残っている。第二次世界大戦後、西ドイツとフランスは友好関係を深めるために、両国のエリート兵士から成る「独仏混成旅団」を創設した。

この部隊に配属された私の知人のドイツ人によると、フランス兵の食事には必ずワインの小瓶が付いていた。(ドイツ兵の食事にはアルコール飲 料は付いていなかった)

フランス語のスラングで、質の悪いワインのことをピナールということがあるが、これは第一次世界大戦中に配られたワインから来ている。フラ ンス軍が余り戦争に強くなかったのは、安物ワインのせいもあるのだろうか。

(文・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載

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