中東の過激派組織「ISIL」による日本人人質事件を受けて、今国会では日本の安全保障政策が大きな焦点のひとつになりました。その議論の中で繰り返し耳にしたのが「積極的平和主義」という言葉。安倍政権が日本の安全保障政策の基本理念として掲げている考え方です。
日本は戦後70年、平和国家として歩み、国際社会に人道支援・後方支援をそれこそ積極的に行ってきた実績があります。これまで日本が役割を果たしてきた「平和」。その前に「積極的」、後に「主義」という言葉がつくことで、いったい何がこれまでと変わるのでしょうか。国会中継を見ながら、そもそも国会議員の皆さんはそれぞれ、「積極的平和主義」をどう解釈して議論しているのだろうかと疑問に思い、「報道ステーションSUNDAY」で、実際に議員の方に聞いてきました。
まず、中谷元防衛大臣。
「積極的平和主義とは、総理が言うのは、もはや脅威というのは、国境を越えてやってくるものと。それに伴って、貧困とか怪我とか差別とか非常に人々が悲惨な思いをしているので、そういった平和を維持していかなければならないということです」
――これまでと何が違うのか。
「従来は非軍事という面で、中東においては活動してまいりました。また国連の活動においても積極的にやってまいりましたので、基本的には安倍政権として従来の方針に従ってやってきたということで、特に変わったところはないと思います。各国ともそういう姿勢を出していますけれども、より目に見えて積極的に行っていこうということではないかと思います」
――より目に見えるという点では、外務省が作っている「積極的平和主義」についてのパンフレットで、「新たな武器輸出管理原則の策定等」という項目で武器輸出緩和に向けての環境整備についてもあるが、平和主義における武器輸出とは。
「軍事=悪とするなら、できないのですけど、すべての国が安全保障という点において、力を均衡させるとか、また力によって安定させるとか、それが現実の世界です。したがって、こういった平和を維持する者としては必要なものではないかと思います。軍事=悪じゃないんですよ」
続いて、自民党の佐藤正久議員。
「2年前と違って過激派が世界各地で台頭している。にも関わらず、多くの日本人が海外にいるわけですよ。だから国際連帯をなくしたら、日本人の安全確保は絶対にできません。そういった意味で、自衛隊とか、NGOとか、ODAというツール、あるいは、主要外国を含めた、まさに一国平和主義のまったく逆の、積極的平和主義に基づいて外交をやらないと国際連帯できないと思います。
今回、限定的とはいえ、集団的自衛権の議論も積極的平和主義のくだりで考える場合もありますよね。色々な面で、日本は一国だけでは守ることができないという国際社会の中にいる。国際連帯の中で自分たちの国益を守るには非常に大事な時代ですから、そういう意味において安倍総理がやられる積極的平和主義の反対は、一国平和主義」
民主党の福山哲郎議員
「僕は日本が今まで決して一国平和主義だったと思いません。
今回の中東での支援も我々がこれまでやってきた人道支援の枠組みですから、中身は一切否定するものではありません。ですから、そういった意味でいうと、積極的平和主義というのは、もう少し軍事的な貢献を閣議決定のようにしていくということが、ひとつの要素としてはとられると思います。
閣議決定で、集団的自衛権の行使を限定容認すると。これも、限定がどこまでかよくわからないので、これも広がっているんですね。だから広がっている部分が積極的なんだと、言われればそうなのかもしれませんが」
社民党の又市征治議員
「積極的平和主義とは、簡単にいえば、軍事力を背景にして平和を求めます、ということですよね。だから、集団的自衛権やっていくわけでしょ。
日本は憲法9条があるわけですから、戦争を放棄して、武力は使わない、交戦権否認します、ということを前提にしているわけですから。積極的に敵は作らない、敵対するところがあったら、味方にする努力をする。友好国にするというね。これは外交の教訓なんだが、安倍さんの場合は、時には武力を使ってでもやるんだと」
――あくまで人道支援、後方支援であり、一国じゃ守れないから他国とも協調して脅威に向き合うのが積極的平和主義と政府は説明していますが。
「今のイスラム国は絶対に許してはならないテロ集団ですが、これが起きた背景はアフガニスタンやイラク戦争で何十万という人々を、アメリカを中心とした国々が殺したわけでしょ。そこからの憎悪や念、憤りみたいなものが過激派に入っていく。だから、そういう根本をなくす努力をしなきゃならないのに、ああいうテロ集団があったときに、もっと勢力を出して叩き潰しましょう、って同じことの繰り返しですよ。暴力と報復の連鎖が拡大していくことを止める努力を日本みたいな平和憲法を持っている国がやらないとダメだ」
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取材をしてみると、「積極的平和主義」という言葉への反論は難しいが、そのフレーズが包み込む具体策や、その歯止めについては国会議員それぞれの解釈が異なっていて、まさにそのポイントをめぐる議論が国会でも見えてこないと感じます。
中東の過激派組織「ISIL」によって、後藤健二さん、湯川遥菜さんが殺害されたという一報に触れたとき、多くの日本人が感じたであろう怒り、慟哭、理不尽、悲しみ......あのやり場のない感情を突きつけられる人々が、世界各地の紛争地で、今この瞬間も増え続けているという現実を、少しでも私たちに知ってほしいと伝えてきたのが後藤健二さんでした。日本の国内外での危機管理の次元が大きく変化している今、日本は国際社会にどう関わっていくべきなのか。そう遠くない将来、憲法改正にともなう国民投票というかたちで、私たち一人一人に判断のボールが投げられようとしています。