編集部注:本稿執筆はAidan Cunniffe。氏はDropsourceの共同ファウンダー兼CEOを務めている。
1万年前、職業には3種類しかなかった。すなわち狩猟、採集、そして育児だ。
そこから、職業の種類は大幅に増えていった。種類が増えるだけではなく、どんどん細分化されもした。
人類の進化と、それから引き起こされたイノベーションの結果として現状がもたらされたと言えよう。人類が進化するに連れ、人類が望むもの(ないし必要とするもの)も変化していったのだ(もちろん望みを実現するための手法なども変化していった)。
当初は人類も「生きる」ことを最優先に行動することが必須だった。しかし徐々に「生きる」こと以外にさまざまなニーズに注力できる状況となり(そのような状況を自ら生み出し)、そのような中から仕事についてもさまざまなものが生まれてきたのだった。生きることに直結する行動から離れ、そして繁栄を手に入れたのだった。20世紀になって、人類は空を飛んだり、月に到達したり、あるいはデジタル革命などを引き起こすこととなった。もしも人類が知の最前線を探るような余力をもたなければ、そうしたことも起こりえなかったに違いない。
そして私たちは、また新しい時代を迎える、いわば革命前にあるように思われる。AIの真価により、ロボットがさまざまな仕事を担う時代になって、人間でなければ不可能だろうと思われていた仕事もロボットのものとなりつつある。
ある意味で、「人間の領域」に対する侵犯は既に始まっているのだ。
90年代には「不可能」とされていたAIの進出
未来がいったいどのようなものになるのかについて、実は現在の様子を見ることでうかがい知ることができる。人間にかわり、AIが任される仕事範囲が大いに広がってきているのだ。
キーワードは流行りの「深層学習」で、これによりAIは分析・判断面でも人間を凌駕しつつある。X.aiなどの企業は、組立ラインのみならず管理業務においてもAIを活用しつつある。また、よく例に出されることではあるが、ジャーナリズム業界においても革命がおきつつあり、AIによって記事が執筆されるような事態となっている。
ロジックに基づいて行うことのできる仕事について、AIは既に人間に近いクオリティを示すまでになっている様子だ。さらにAIは利口になってきていて、できる仕事も増やしつつある。担いうる職種はほとんど全分野におよびつつあると言っても過言ではない。たとえば会計業務から運輸系サービスにも進出しており、また情報技術分野でももちろん能力を発揮しつつあり、セキュリティ分野での有効性が証明されつつある。
ただ、AIにもまだ今後の課題として残されている分野もある。すなわち「創造性」が必要となる場面で、これについてはまだまだであるのが現状だ。
人間が行う作業を大きくふたつにわければ、創造性を必要とする分野と、そこで生み出されたものを実現する(実装する)分野にわけることができるだろう。私たちは「創造性」を使ってモノやストラテジーなどさまざまなアイデアを生み出す。そしてそれらを「実現」するわけだ。「実現」という場合、何か物理的なモノを作ることもあれば、プログラムを書いたり、あるいはサプライチェーンを構築したりということがある。いずれにせよ「創造」した物事を「実現」しているわけだ。
その「創造性の実現」のために「テクノロジー」を用いる。かように「テクノロジー」の活用範囲は「実装」面にあり、まだまだ「創造」の面では活用できないケースが多い。
人間の領分
AIの進化は、人間社会における「仕事」の性質も変えることになりそうだ。仕事とはすなわち「創造性」を必要とするものとなるだろう。あるいは「創造性」はさほど必要としないものの「人間性」が求められるものも仕事として存続しそうだ。
「仕事」がそのような変化を被るなかで、「教育」の意味も変わってくるに違いない。たとえば「テスト」も暗記する能力を問うものは減り、創造性を問うものとなっていくことだろう。人間に求められるのは、コンピューターに担えないことであるからだ。
進化するコンピューターないしAIの中で、「人間」が求められるのはどのような分野だろうか。
遠い将来のことはわからないものの、近未来までの範囲では、人間によるクリエイティビティを必要とする分野はまだまだ多いように思える。
エンターテインメント:AIは人類のためにパンを焼くことはできても、サーカス的娯楽を提供するようになるのはまだ当分さきの話だろう。映画やテレビ、ビデオゲームの分野はまさに人間が活躍する分野として存在している。さらにVRという新しい分野も生まれ、これまで以上に人気を集める技術として発展する可能性をもっている。ひとたび体験すれば決してやめたくなくなる没入型の世界を提供する。
サービス業界:実際のサービスはコンピューターが提供することになるにせよ、「人間」の存在が求められる分野もある。いわば人間がAIの「外交大使」的な役割を果たすわけだ。家庭や職場でAIテクノロジーを使うことの利便性や安全性を伝えることが、まず最初の重要任務となる。
コンピューターの教育係:サービス業界の「大使」的役割にも似ている面もあるかもしれないが、こちらは特定の業務に精通し、かつコンピューターが業務を行えるようにするトレーナーの役割をも担う。たとえばコンピューターに壁塗りの作業やエンジンの修理を行わせるような場合、何をどのように行うのかについて教えてやる必要がある。AIを相手に行うとなれば、動物の飼育員のような機微が必要となる。
ビジネス開拓:AIは現在のビジネスの様子を大きく変えることになるだろう。製造管理やマーケティングないしセールスはAIの仕事となり、起業家としての役割が増していくこととなる。ビジネスの運用主体が企業ではなく、個人の手に渡るケースが多くなるだろう。
現在のところ、何かモノを作りたいような場合は3Dプリンターを使って設計から製造までを自分自身で行えるようになった。ただ、販路拡大となると人力に頼る面が大きいのだ。AIが発展することで、製造管理を行いつつ輸送管理も行い、そして適切なマーケットキャンペーンを実施して、それら一切にかかわる財務管理などもAIにて行うことができるようになるだろう。
大企業が(たとえば潤沢な広告宣伝費などを使って)得ていた優位性などは消え失せていくこととなる。AIアシスタントは広告やブランドなどに関係なく、たとえ作り手が12歳の女の子であったとしても、そのプロダクトがニーズに応じたものであればレコメンドしてくるということになるだろう。
新しいエコノミーの誕生
AIの普及により仕事がなくなった人のすべてが、異なる分野における仕事を行うことができるというわけではないだろう。多くの仕事が永遠に失われてしまうという話もある。それにともなって家計収入は大幅に減ってしまうことともなるだろう。
機械による作業はたいていの場合、人間によるものよりも安上がりになるはずだ。労働単価は下がり、収入はこの面からも低下する。ただし生産にかかる費用も低下するわけで、モノやサービスの値段も下がることになる。すなわち職を失っても生活水準がむしろ向上するような社会に繋がっていくだろうという考えも広く見られるようになってきている。
新しい仕組みへの移行は迅速に成し遂げられるものと思われる。産業革命には1世紀を要したが、AI革命はこの15年のうちに世界中に広がっていく可能性がある。AI革命の障害となるのは、コンピューターに自分の存在を脅かされるのではないかと考える人々の気持ちだろう。
AI革命は、技術の進化により必然的にもたらされるというわけでもないかもしれない。政治や文化的にもAIの進出を受け入れるようになって、はじめて実現するのかもしれない。そうした変化を受け入れる気持ちが人々の中に育てば、きっと人間性の本質たる創造性を存分に発揮できる未来が訪れるのではないかと期待している。
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(翻訳:Maeda, H)
(2016年4月24日 Techcrunch Japan「AI革命は人間性回復のための契機となるか?」より転載)
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