熊本市動植物園は、熊本地震から半年以上過ぎた今も休園しています。お客さんがいない動物園で、職員は動物に寄り添って飼育を続けています。
マサイキリンのおす「リキ」とふれあう獣医師の松本充史さん=どれも10月4日、熊本市、猪野元健撮影
10月上旬。全国で10頭ほどしかいないマサイキリンのおす「リキ」が獣医師の松本充史さんに頭をよせました。リキは人の手で育てられたため、人になつきやすいそうです。キリンは9月に赤ちゃんも生まれました。「元気な姿を見てもらいたいですが、園内は被害が大きくまだ再開できません」と松本さんは残念そうに話します。
熊本市動植物園の入り口付近。地震の爪痕が残っています
「動物をお客さんに見てもらえる日が来てほしい」と願う松本さん
熊本市動植物園がある東区は4月14日に震度6弱、16日に震度6強のゆれにみまわれました。ネット上では動物たちが脱走したというデマが流れましたが、職員は地震直後に110種類以上のすべての動物を確認するなど冷静に対応しました。
飼育に必要な水の供給がストップしたため、周りの動物園や水族館から水が入ったポリタンクなどが急いで運ばれました。展示施設が被害を受け、安全面の問題から猛獣を九州各地の動物園へ避難させることが決まりました。アムールトラは到津の森公園(福岡県北九州市)へ、ユキヒョウは大牟田市動物園(同県大牟田市)へと移動しました。
サルやゾウなどは地震におびえて食欲が落ち、体調不良が続きましたが、1か月ほどで落ち着きを取り戻しました。松本さんは「地震前と変わらないように飼育を続けていくことを心がけた」と話します。
動物たちの危機は乗り越えましたが、園内の被害は規模が大きく復旧が進んでいません。地震によって地面が液体のようになる「液状化現象」が発生したため、アスファルトの地面が盛り上がっています。地割れで数十センチの段差もできています。子どもたちを乗せて走る列もこわれたままです。
園内を走る子ども列車は無残な姿になりました
液状化現象などで地面はでこぼこになり、大きな段差ができました
ホッキョクグマを展示する建物は、場所によって地面から浮いています
園内の移動用の車の通行も制限されています
地震で天井部分にすき間ができたユキヒョウの展示施設
お客さんがいない中で通常通りの飼育が行われています
全国でも数少ないアフリカゾウ。地震後、お客さんがいなくなったからか、人の動きによく反応するようになったといいます
動物園としての役割を少しでも果たしたいと、松本さんたちは、被災した子どもたちの心をいやす取り組みを考えました。避難所となった熊本市内の小学校で5月、モルモットやウサギなどとふれあえる「移動動物園」をスタート。子どもたちから好評で、小学校では10校で実施しました。11月以降も予定が入っています。
熊本市動植物園は、今年度中に被害が少なかった施設の一部で営業を再開できる見通しです。全面再開の時期は未定で、避難した猛獣たちが戻ってくるのも先になりそうです。松本さんは「動物園は、子どもたちが野生動物から力強さや環境のことなど多くのことを学べる場所です。一日も早く再開できるように復旧し、動物たちを健康に育てていきます」と話します。
動物園の専門誌も熊本市動植物園のことを報じています。左は東京動物園協会が発行する「どうぶつと動物園」。右は全国の動物園・水族館専門のフリーマガジン「どうぶつのくに」
小学生向けの日刊紙「朝日小学生新聞」10月15日付に掲載した記事を再構成しました。朝日小学生新聞についてはウェブサイト(https://asagaku.com/)へ。