5月7日付で次のような記事
日刊ゲンダイ
VIPエリアだらけ! 「新国立競技場」の過剰なおもてなし
事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)がまとめた基本設計条件案によると、新競技場の貴賓室や併設するラウンジなど「ホスピタリティー施設」に充 てられる面積は2万420平方メートル。その広さは総延べ床面積(22万4950平方メートル)の1割を占め、競技フィールド(2万2000平方メート ル)に匹敵する。・・・
・・・福岡の「ヤフオク!ドーム」の左右両翼には、バルコニーシート付きで国内最大級の貴賓室「スーパーボックス」(136室)がある。その総床面積は約 7500平方メートルで、フィールド面積(約1万3500平方メートル)の半分程度だ。国内最大のサッカー専用競技場で02年の日韓W杯の会場となった 「埼玉スタジアム」。ラウンジ併設のVIP席やレセプションホールなど「ホスピタリティー施設」の総床面積は約2000平方メートルで、こちらはフィール ド面積(1万1230平方メートル)の2割以下である。・・・
・・・広大なVIPエリアは五輪開催国の見えっ張りでしかないのだが、「世界水準のおもてなしを実現するには、この広さが必要」(同)と、JSCに設計を見直す考えはない。・・・
・・・VIP向けの観戦ボックスは「6400席以上は確保する予定」(同)とのこと。残る7万3600人分の一般向け観戦席のスペースは4万4000平方メートル。1人あたり約60平方センチメートルに押し込められる計算だ。
ああああ、また、エライことになってるわ。
というのが感想です。
なんでこんなことになっているかというとですね、
やはりもろもろの決定機関といわれる有識者会議が原因なんですけど、
いつもいつも有識者会議のせいって言うわけにもいかんのですよ。
それはですね、
有識者っていっても、音楽とかスポーツとかの方々と関係諸団体の会長とか、
しょせん建築とか計画では素人集団なんだから、
建築施設の事はわからない。
ある専門性の高い機能目的をもった建築計画において、施設規模や設計の内容について何が適正かはわからなくて当然。
たとえば、ホンダがF1参戦するとして、カー評論家とタレントドライバーとその他諸団体会長が集まって有識者会議で、
投入するレースカーの空力やシャーシ設計やエンジン性能やギアボックス、その他トルク比とかに言及してたら勝てると思いますか?
勝てるわけがない。
口出しされたら現場は大混乱でエントリーすら間に合わないでしょう。
今、きっとそういう状態。
えっ?建築専門家として世界的建築家安藤忠雄さんがいるじゃないか!って?
そうですね、いらっしゃいますけれど、あの方は、
下町の小さな敷地に感動するような中庭入れたり、美術館とかブティックなどの静かで落ち着いた場所にいい感じの光が落ちてきたりする。
そんな建築のプロですが、
大型スポーツ施設や大量の人員をさばかなければいけない大規模都市施設の場合には専門のアドバイザーの言うことをちゃんと聞かなければおそらく適切な判断は無理。
3年前にこの人デザイン案でリニューアルされて、ラッシュ時には地獄の地下帝国と化す新渋谷地下駅の混乱の原因もそこにあると思うのですよ。
現在の渋谷駅のプランは妙なとこに穴開けたり壁作ったり、自分の位置が補足できないくらいぐちゃぐちゃですよね。あれ災害時じゃなくても非常に危険です。
それは、医師の世界や料理人の世界といっしょです。
世界的に著名な脳外科医の先生だからといって、たっとえば経験のない骨肉腫の手術や白血病の治療法について適切な指示が出せると思いますか?
ガチンコラーメン道でも有名で誰をも感動させる究極の一杯のとんでもないラーメンを作る佐野実さんが、例えばホテルでの100人の披露宴の料理に言及するでしょうか?日本の食を俺様が考える!とか言いますかね?
佐野さんは粋ですから、そんな増長して、かっこ悪いことしませんよね。
それぞれ餅は餅屋だと思うんですよ。
もしくは、そこまで超専門的なことではなく、
医師として料理人として誰もが指摘しなければならないことのいっさいが、
スルーだったら、、、
ということが起きてしまっているんだと思います。
だから、このVIP席の異様な増大というナンセンスな要望。
JSCはいってみれば施主ですが、
素人施主の要望をそのまま設計に反映していたら、そりゃ計画は破綻します。
専門家が、優先順位を決めましょうとか、そこを触ると工事費上がりますよとか、
ただ単に素人希望を積み上げるとおかしくなりますから、
要望を精査して適正なものにこちらで変えますとか、
これ普段みなさんやっていることだと思うんですよね。
ここまでの新国立競技場の様子を見ていると、大型競技施設というくくりで考えてみたときに、素人がコンペ要項作成して、素人が選んで、素人がデザインしたものを、プロの大人が今、辻褄合わせを押し付けられて、必死になってケツ拭いている感じなんですよね。
そのような状況であることをはっきりさせるどころか、大本営発表がありました。
スポニチ アネックス2014年5月7日
新国立競技場基本設計は5月中にも完了 解体は予定通り7月から2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる国立競技場を管理・運営する日本スポーツ振興センター(JSC)は7日、遅れていた新競技場の基本設計が今月中に完了するとの見通しを明らかにした。
現競技場の解体工事は予定通り7月に始める。
あ~あ、取り壊しちゃえばいいと思ってやがる。
基本設計は5月中にも完了する見込み、、それってまだ出来るかどうかわからんってことじゃん。
仮に基本設計ができてても、その出来立てホヤホヤの図面の検証が必要だし、工事の見積もりも必要だし、実施への計画もキチンと立てておかなければならないのになあ。
許認可とか構造設計とか確認申請とかまだまだ数カ月以上かかるのに、
解体工事なんてえのは、その辺見極めてからでいんだよ。
ここで先走って現国立競技場の解体に着手するのは、どうなんだろう?
文科省の外郭団体に出されて、本庁から出向になっちゃって、この機会に逆転をねらってるのがJSC中の人だと思うんですけど、自爆するかもですよ。
だからこそ、現国立競技場が改修してバージョンアップできるものかどうか、
チューンナップして新しい機能や強度を付加できるものかどうかを真面目に検証しておこう、と呼びかけているのに。
4月の23日に槇文彦先生たちが「国立競技場解体、延期を」と呼びかけていらっしゃるのは、来週の5月12日に伊東豊雄先生もその辺を検証してみようと動かれているのは、新国立競技場に反対とかの前に、もっと大きな視野でこの国の事を心配されているからななんですよ。
現国立競技場を壊したはいいが、ザハの新国立競技場が成立しえない可能性があるからなんです。
ただし、現国立競技場を活かそうとした場合、なんたって50年以上前の建物ですから、現時点での建築物の傷み具合、耐震構造強度の状況を診察しておく必要があります。診察によって診断をして治療方法を見極めたうえでなければ、改修案もある意味ナンセンスな議論になってしまう恐れがあります。
そこで、2011年に記されたという、伝説の書。
久米設計による「国立競技場の調査報告及び改修提案書」の発掘が急がれたわけですが、ついに発見されました!
市民団体の有志の方々が「情報公開請求」により入手されたのです。
これです。
2011年3月25日付
東北大震災の2週間後に提出されています。
ということは、あの震災後の計画停電とか電車のダイヤも乱れ、水とか食品なんかも心配されていた混乱の中この作業は続けられ年度末である、3月末までになんとか納品されたものだということです。
久米設計と聞いても、建築関係者以外にはあまりなじみがないでしょう。
久米?と聞いても一般には久米宏くらいですかね。
久米設計は、昭和7年に久米権九郎により設立された日本の大手組織設計事務所の老舗です。
この久米権九郎には次のような言葉があります。
「我々建築家は、
貴重な人命を預かる容器を造る事を念頭に置いて、
まず立派なデザインをする前に、
丈夫な建物を造ると言う観念を忘れてはなりません」
久米設計は「丈夫な建物を造る」を第一義に置いているんです。
というのも創業者の久米権九郎の兄さん、
久米民十郎を、関東大震災で建物の倒壊による圧死により、
亡くしてしまったからです。
だから、建築はまず丈夫であること!なんです。
そのような久米DNAが込められた
「国立競技場の調査報告及び改修提案書」
が今、発掘されたことは、
外苑周辺の景観の破壊を懸念する方々だけでなく、
危険な泥船に乗っかってしまっているJSCの中の人にとっても、
福音の書となるやもしれません。
2章でこの内容を解説します。
(2013年5月9日「建築エコノミスト 森山のブログ」より転載)