昨年、連載いたしました「新国立競技場をめぐる議論について」なのですが、
この問題が広く世間で建築工学や建築文化をめぐる問題の共有につながれば本望です。
思いのほか多くの方々に読んでいただいたみたいで、
いろいろとご質問などもいただきまして、ありがとうございました。
この新国立競技場案について、3000億から様々に検討をした結果、
規模を減らした、1700億円に減らした、とかいうことのようですが、
それでも当初の予算1300億円を大幅にオーバーしており、
サブトラック問題が未解決にもかかわらず、なぜ建設コストが下がらないのか
について、オリンピック景気での人材不足や、
またぞろゼネコン悪論を提唱する方々もいらっしゃいます。
この建設費用増大の原因はどこにあるのか、なぜ施工面積を減らしても予定工事金額が減らないのか、についても、今回のコンペ審査員からも文部科学省からもなんの解説もありません。
そのため、多くの方々が疑問をもち、建設業への不信感といったものが沸き起こるのも当然だと思います。
しかしながら、土木・建築業者が不当に費用UPを狙っているわけではないと考えられるのです。コストUPの要因のひとつにザハの曲面デザインの多用が考えられることは以前に解説しました。
また、現在はまだ設計図も出来ておらず、工事予定のゼネコンも未定です。
その段階で建設コストが大幅に増えると見込まれ、なおかつ減らせないのには、
実は根本的な理由があります。
それは、この提案の根底にある構造的な問題点なんです。
このザハ案による新国立競技場、これって建築っていうよりも実は土木。
土木的スケール。
その土木界の中でも花形工事の巨大な橋梁といってもいいでしょう。
これがザハ事務所が準備したプレゼンテーションにおける構造モデルです。
柱があって壁があって屋根がある、という建築的構造物ではないことが、
上図からも一目瞭然だと思うんですが、、、
審査員の方々は分からなかったんでしょうかねえ。
文部科学省やJSCや東京都から工事費用の概算を出せ!
と言われた設計コンサルやゼネコンはちょっと震えたと思いますよ。
「これ、ちょっと、、やべえ!」と
「あ・・・ありのまま 今 起こったことを話すぜ」と
「うかつなことは言えねえ」と
「な・・・何を言ってるのか わからねーと思うが」
「スタジアムだとか競技場だとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ」と
「3000億でイケるのかどうかさへ読めねー」と
というのがですね、
橋梁というのは構造方式においていくつかの種類があるんですが、
下記の資料解説において上から下に向かって技術進化しています。
桁橋【けたばし】(ガーターブリッジ)というのが一番原始的な橋で、橋桁自身が曲げモーメントに耐える形式です。スパン(橋の支える距離)に材料特性による限界があり、いわゆる丸太橋がそうです、自重ですら下向きにたわむ可能性があります。
ラーメン橋というのは、上記桁橋のスパンを小さくするよう補助したものです。
技術的な工夫は以下のシステムから始まります。
トラス橋というのは、桁部分を三角形のトラス構成にし自重を軽くし梁せいを上げて強くしてあります。
アーチ橋は御茶ノ水の聖橋などでも見られますね、アーチが力を軸力として逃がす方式です。
吊り橋や斜張橋は橋桁にかかる荷重をテンションで支えますから、橋そのものも軽くなり、スパンを広げることが可能になりました。
で、問題の新国立競技場の構造はといいますと、、、、
archとかtrussと記述してありますが、、
規模に比較してarchのライズ(曲がり)も薄いし梁せいも小さいため、、
現実的には桁橋(ガーター橋)タイプです。
このガータータイプでは、物理的に限界があるんです。
素材特性ごとにスパンが大きくなると自重でもたわむ。
単純桁橋の世界最長スパンが310mのブラジルにあるリオ・ネテロイ橋です。
全体をトラス状に組んであるものとしての桁橋(ガーター橋)の限界は500m前後であり、大阪にある港大橋がそうです。
ここらあたりまでが、土木のジャンルで考えてみてもリミットなんです。
桁橋(ガーター橋)は。
それをやろうとしている。
新国立競技場で、、、、橋でもないのに、、、、、
通常、スタジアムとかの屋根構造というのは、
周囲の垂直壁面から突き出すか、周囲のポールからつりさげるか、
軽い膜構造で膨らませるか、もしくは球形ドーム型の固い構造体で覆う。
いずれかなんですね、合理的に考えれば
それを、2本の竜骨をガーター橋にして飛ばしてしまっている。
だから、ものすごいオーバースペックになってしまって
周辺面積をいくら削っても削っても建設コストが下がらないんです。
当然ですね、橋なんだから
元々の提案時には桁橋(ガーター橋)の構造限界である500mを優に超えて600mにまで及んでいた。
陸上にしかもあんな狭いところに港大橋規模のものを掛けようとしている。
同じく大阪の夢舞大橋よりもスパンが飛んでいて頂部が高く
永代橋の2倍近いものなんです。
これ、審査員の人たちはまったく気づいてないんじゃないかと思うんです。
もし、そうだとしたら文部科学省の担当者の人もJSCの担当者の人も、
審査員の建築家の先生を信じてついていってると思うんですが、
知らず知らずのうちにとんでもないことに巻き込まれていることになるんですが、、、本当に心配です。
これは杞憂でしょうか
次に最大の問題点が、竜骨の設置時に起こります。
通常、巨大な橋桁というのはどんなところにあるでしょうか、、、
鉄道や道路では深い峡谷を渡る、そういったところですよね。
まず川ですよね、しかも巾のある大きな川、一級河川とかです。
あとは、港湾とか運河のあたりでしょう。
いずれにしても橋梁の設置は大変なんですが、
海や川では水運が利用できます。
巨大な鋼材や長い梁材なども海や川であれば
船で運ぶことが可能。
この港大橋もジャッキアップ中は湾内
しかし、ザハ案にもどって考えたときに、
この2本の巨大な橋桁はどこからどのように運んでくるつもりなのか、
周辺の道路はかなり狭いんだけど、、
吊り上げはどのようにおこなうつもりなのか、
その間の交通網や周辺への影響はどう考えているのか、
仮設計画はどのようにするつもりなのか、
今回の審査委員長はそのようなことはすべて自分たちの責任範囲外、
デザインとは関係ない、
ゼネコンや実施設計の連中が考えればいい、と高をくくっていると思うんです。
でもね、そこに一番お金がかかるんだよ。
だから、施工サイドは怖くて予算を低めに言えないんだと思うんです。
それとも、そのために東京を大改造して外苑西通りを立ち退きかまして、
3倍巾くらいに拡張するとか言い出すのかね。
しかしながら、外苑西通りだけでは幹線道路にはまだつながらないんで、
本当に首都圏全体の交通網を大改造する必要を言い出すのかもしれません。
(2014年1月6日「建築エコノミスト 森山のブログ」より転載)