ウォールストリート・ジャーナルが急変するシリコンバレーの景気について長尺記事を書いています。
それによると1年前迄、ベンチャー・キャピタルは先を争うように若い会社に投資し、その過程で、しばしばスタートアップ企業に10億ドル以上のバリュエーションを与えました。
しかし現在は、ごく一握りの有名なスタートアップ企業を除き、ベンチャーの資金が受けにくくなっています。
その一因はテックIPOの悲惨なパフォーマンスにあります。2014年以降にIPOされたテクノロジー企業は全部で48社ありますが、そのうち35社がIPO価格を下回っています。
その関係で、とうとうIPOウインドウが閉じてしまい、シリコンバレーは長い冬を耐えしのぐ、冬籠りモードに入りました。
ベンチャー・キャピタルはポートフォリオ企業を整理し、見込みのないスタートアップに対しては継続支援を止めはじめています。
ウォールストリート・ジャーナルの記事はベンチャー・キャピタリスト、ローリー・オドリスコルのコメントを引用し「これはタイタニック号が氷山にぶつかった直後のような状況だ」としています。つまり「誰もが迷っており、真っ先に救命ボートへ移ろうとはしなかった。でも急いで決心すべきときが、いま来た」というわけです。
特に2月5日にエンタープライズ向けソフトウェア企業が相次いで問題アリの決算を出して以降、シリコンバレーのムードは暗転しています。
一部の企業は延命のためにはバリュエーションの大幅悪化もやむなしという判断から、過去につけられたバリュエーションに比べて大幅なディスカウントで追加出資を仰いでいます。一例としてフォースクエア・ラボは1月に前回に比べ-69%のディスカウントで資金調達しました。またドアダッシュも先週、-16%の評価で追加資金を調達しています。
かつてシリコンバレーのスタートアップは従業員をつなぎとめるため昼食を無料にするなどの従業員サービスをしていましたが、それらの特典も、どんどん消えています。
以上がWSJ記事のあらましですが、僕の考えでは、以前から何度も言っているように、シリコンバレーは不況の入り口に立っていると思います。
先日、アルファベット(ティッカーシンボル:GOOGL)が良い決算を発表し、アフターマーケットで株価がぶっ飛んだ……かに見えたのですが、今回から開示が始まったother bets(アザー・ベッツ)、すなわち長寿ベンチャーとか、自動運転車などのビジネスの数字を見て、投資家は「あっ!」と息を呑みました。なぜなら2015年のアザー・ベッツの売上高4.48億ドル(+37%)をあげるのに35.7億ドルの営業赤字を必要としたからです。この数字を見て、アルファベットには売り物が殺到しました。
つまり新規事業立ち上げの為には、見境のない赤字を出しても良いというメンタリティーは、グーグルのような一流企業の株主でも許さない風潮になっているのです。
(2016年2月20日「Market Hack」より転載)