在宅で利用できる遺伝子検査が最近、注目されています。新しいサービスはとにかく試すに限るということで先日、実際に遺伝子検査を受けてみました。当初は想像もしていなかったような発見や気付きがあったので、今回はそのことを書いてみようと思います。
遺伝子検査の結果が届くまで
私が利用した遺伝子検査は唾液のサンプルを取り、その中に含まれる染色体から遺伝的な情報を分析するものです。郵送されてくるキットを使って唾液のサンプルを取り返送します。すると後日、分析結果をWebで見ることができるようになります。
キットが届いたらこのような容器にサンプルを取り、返送します。
分析される項目は、ガンなど病気の遺伝的リスクから、髪質や耳垢のタイプなど身体的な特徴まで非常に多岐に渡ります。結果画面をお見せしますと、こんな感じです。(すみません。病名はさすがに隠させてください。)
私が利用したサービスでは、このようにリスクの高い病気が列記されて出てきました。病気によっては平均的なリスクからの差まで分かります。(「あなたは○○という病気になる可能性が、平均より1.25倍高い」と言われても、どう捉えていいか難しいところなのですが。)
幾つか人よりもリスクが高い病気は見つかったものの、そこまで重大なものでもなかったのでひとまず安心です。(まぁ、その中には円形脱毛症とかもあって、これはかなり嬉しくなかったですが。。。)
もちろん、油断は禁物です。遺伝的要因よりも、後天的要因の影響が大きい病気も数多くありますし、そもそも厚生労働省の人口動態統計によると、日本人男性の約3人に1人はガンで亡くなっています。遺伝子的に高いリスクがなかったからといって、不摂生でもいいということでは決してないでしょう。
分かるのは病気リスクだけじゃない
遺伝子検査では病気リスクや身体的特徴だけでなく、自分のルーツを知ることもできます。
例えば、現代人はネアンデルタール人由来の遺伝子をほんの少しだけ受け継いでいるらしいのですが、下の画面が示しているように、私はその比率が東アジアの平均値よりも高いようです。
また、人類はDNA配列の特徴によって幾つかのグループに分けることができ、遺伝子検査では自分がどのグループに属しているかも確かめることができます。私は、父方から縄文系グループの遺伝子を、母方からは弥生系グループの遺伝子を受け継いでいる、という結果が出てきました。
遠い昔のご先祖様の話ではあるものの、リスクの高低に関わらず気をつけなくてはいけない将来の病気のことより、自分のルーツの一端が垣間見れたことの方が、私にとってはとても面白い発見でした。(もちろんこれは、大きな病気リスクが見つからなかったからこそ持てる感想だと思います。)
トレンドになりつつある、"ルーツ探し"
ルーツを見直す、という行為自体も、最近少しずつポピュラーなものになってきています。テレビ番組でも著名人の家系を探る番組や、世界各国に暮らす日本人(あるいは日本に住む外国人)のルーツに焦点を当てたものが増えてきました。サービスでいえば、例えば家系図を作成できるソフトやWebサービスも充実してきています。
生活総研が2012年に実施した調査でも、「タイムマシンがあったら過去と未来どちらに行きたいか」という質問をしています。結果は、過半数が過去を選択。男性10~30代では6割以上となりました。(参照:ページ中間に該当データあり)
もちろん、実際に過去に行くことはできません。ですが、遺伝子技術の進歩によって、自分が受け継いでいる遠い過去の歴史には、もはや手軽にアクセス可能な時代になっているのです。
見知らぬアメリカ人からの"親戚"申請
遺伝子検査のサービスで驚いたことがもう一つあります。私が利用したサービスでは、遺伝情報の開示を許諾すると、なんと利用者内で血縁関係が近い人を教えてくれる仕組みがあるんです。
試しに許諾してみたら、なぜか見知らぬアメリカ人から「よっ兄弟!」という感じでメッセージが届きました。訊いてみると、どうも彼のお祖母さんが日本の方で、彼は私とは共通の高祖父母(ひいひいおじいちゃん、おばあちゃんのこと)を持ついとこ関係に当たるようです。
このような形で見知らぬ親戚の方からメッセージが届きます。
血縁のイノベーションが起ころうとしている
これは考えてみると凄い仕組みで、人によっては自分が今まで知らなかった兄弟がいきなり見つかったりすることも起こりうるわけです。反対に、兄弟そろって遺伝子検査を受けてみたら、実は血縁関係がないことが発覚してしまうかもしれません。遺伝情報を知ることは様々なメリットがある一方で、個々人にとっての"不都合な真実"が明らかにされるリスクもはらんでいる、と肌で感じました。
SNSの普及で、氏名や年齢、出身校や居住地などの個人情報を、生活者が自分自身でマネジメントしなくてはいけない環境が生まれました。遺伝子検査が普及すると、遺伝情報もその一つになっていくのでしょう。
SNSでは、氏名や出身校を公開することで、幼馴染や昔の同級生と再会できる可能性が拡がります。それと同様に、遺伝情報も公開することで、思いもよらない遠い血縁者と巡り合うことができるようになります。もしも世の中のほとんどの人が遺伝情報を登録したら、今まで見たこともないような壮大な家系図ができあがるはずです。
今まで基本的に家族・親族から教えてもらうしか知る術のなかった血縁関係が、自ら主体的に調べることができるのです。これは、もはや"血縁のイノベーション"と言っていい変化です。
イノベーションの先にあるもの
これまで、血縁は自ら動かしがたい関係性でした。しかし、血縁を手軽に調べることができ、数代前に遡って拡張することもできる世の中では、それは決して不可侵なものではなくなります。家族の捉え方や価値観も変容していくことになるでしょう。もし血縁関係が広く公開されるとしたら、新たな差別が生まれる可能性さえ考えられます。
個人が簡単に自分の遺伝情報を取得できる時代の到来は、単に将来の病気リスクが分かるようになった、というだけでは決してなく、個人のアイデンティティや家族観の根底が揺さぶられる時代の到来を意味するのではないでしょうか。