「系」で考える起業家Elon Musk:TeslaによるSolarCity買収提案

SolarCityは、2006年にシリコンバレーで創業され、現在19の州の27.5万世帯に太陽光発電システムを提供している「全米最大の太陽光発電サービス企業」です。

昨日、ある大手金融機関の幹部の方との打ち合わせの中で「ブロックチェーンや仮想通貨の未来についてどう思うか?」という質問をいただきました。

私は、近い将来いずれも非常に大きな存在になると考えており、その一つのシナリオとして「自動車メーカーであるTeslaがその普及の一翼を担う」という仮説を持っています。

少し遠回りにはなるのですが、一見FinTechとは関係のなさそうなTeslaとブロックチェーンがどう関係するのか、先週のTeslaのニュースと絡めて説明したいと思います。

Teslaが買収提案をした「SolarCity」とは

先週、Teslaが太陽光発電サービス企業であるSolarCityを$2.8Bで買収するという提案を発表しました。

SolarCityは、2006年にシリコンバレーで創業され、現在19の州の27.5万世帯に太陽光発電システムを提供している「全米最大の太陽光発電サービス企業」です。本社が私の自宅の近くにあるので、このような緑色の営業車を毎日のように見かけます。

私の日本にある実家でも太陽光発電を導入していますが、SolarCityの「ビジネスモデル」はユニークです。

通常日本で一戸建ての家に太陽光発電システムを導入しようとすると、初期費用で200万円程度の費用がかかるようですが、SolarCityは「初期費用タダ」というモデルを提供しています。

大手銀行とのパートナーシップと、Googleからの投資($280M)により、初期費用が普及の足かせとなっていた太陽光発電システムを、「初期費用無料で月額利用料を支払う」モデルに切り替え、急成長しています。ただ、2012年のIPO後も赤字体質となっており、価格設定を頻繁に変更するなど黒字化には苦労しているようです。

Tesla + SolarCity = ひとりスマートグリッド

昨日SolarCity側で買収提案の検討のための特別コミッティーが組織され、これから提案の詳細を検討するということでまだ実現するかどうか分かりませんが、仮にこの買収が実現するとどのようになるのでしょうか。

Tesla社の主力製品はもちろんModelSや先日約40万台も予約が入り大きな話題となったModel3などの「電気自動車」です。

それに加えて、昨年Tesla Energyという個人向け(Powerwall)、法人向け(Powerpack)の「バッテリー」事業を立ち上げています。個人宅で$500のPowerwallを導入すると、太陽光発電もしくは深夜の電気料金が安価な時間帯に電気を充電することができ、光熱費を削減できるとするものです(実際のコストなどに関しては多くの批判もあります)。

今年からはネバダの山奥にある巨大工場 Gigafactoryも稼働を始め、Tesla Energy製品の本格的な製造が開始されると言われています。

今回のSolarCityの買収は、このTeslaとTesla Energyに加え、SolarCityの太陽光パネルのビジネスを統合することで、

「太陽光発電(SolarCity)→蓄電(Tesla Energy)→利用(Tesla)」

という太陽光をベースにしたエンドトゥーエンドの「クリーンエネルギーの垂直統合サービス」を一社で実現することになります。電気自動車Teslaという川下からスタートし、Tesla Energy、そして太陽光発電のSolar Cityと、一社でクリーンエネルギーのエコシステムを作り上げることになります。

そして驚くのは、ご存知の方も多いと思いますが、このSolarCityという会社はもともとTeslaの創業者であるElon Muskのアイディアであり、そのアイディアをベースにElon Muskのいとこ兄弟が立ち上げた会社なのです。

今となれば、TeslaとSolarCityを統合してクリーンエネルギーエコシステムを作り上げるというのは非常にリーズナブルな話に聞こえますが、電気自動車が全く一般的でなかった2003年にTeslaを創業し、太陽光発電が全く一般的でなかった2006年にSolar Cityのアイディアを思いつくのがElon Muskということです。

テクノロジーの動きがものすごく早く、水平分業が進んだ今の時代において、個別の製品はプラットフォームの変化によって一瞬にして価値がなくなってしまうこともあります。

その中で、10年、20年のスパンで、将来の「系=エコシステム」のあり方を想像し、それを実現していくElon Muskの構想力と実行力には感心するほかありません。

彼のもう一つのメガスタートアップ SpaceXも今は全く他の事業と関連性がないように見えますが、10年、20年というスパンでさらに地球の環境破壊が進み、火星移住の必要性高まったタイミングで、Teslaと統合なんていう絵も、彼には見えているのかもしれません。

これはTesla Energyを発表した際のElon Muskのプレゼンです。Elon Muskが、一つ一つのプロダクトではなく、世の中にある課題を「系」として解決しようとする起業家だということがよくわかると思います。

「M2Mシェアリング」がリードするBlockchainの普及

前置きが長くなりましたが、冒頭のブロックチェーンと仮想通貨の話に戻ります。

自宅に太陽光発電パネルを設置し、Powerwallのバッチリーがあり、そこから充電したTeslaSで仕事に向かう。「個人利用」としても十分に価値のあるプラットフォームとなると思うのですが、多くのTeslaユーザが連携して「スマートグリッド的」に活用するという世界がすぐに来るだろうと考えています。

今でもTesla自身が設置した充電ステーションを利用することにより全米横断も可能ですが、PowerwallがIoT化し、ブロックチェーン対応すれば、TeslaSの充電が必要というときに、近くにあるPowerwallとTeslaSがスマートコントラクトを結び、代金を支払い、充電を行うということが可能となります。Teslaユーザ全体がIoTでネットワーク化され、需要と供給に応じて電力を融通するイメージです。

こうしたM2M取引に不可欠となるのが「ブロックチェーン」であり、それをいち早く手がけるのがTeslaなのではないかというのが私の仮説です。また、こうした電力などのマイクロシェアリングにおいては、通常の決済手段ではコストが高すぎるため「仮想通貨」が活用され、その普及を後押しすると考えています。

M2M / スマートコントラクトのイメージとして、VISAが昨年DocuSignと発表したスマートコントラクトのデモ動画を御覧ください。

このデモでは、自動車がブロックチェーンに対応しており、クレジットカード情報が自動車に格納されており、 自動車保険の申し込みと決済が車の中で完了するというシナリオが描かれています。

保険の購入はそれほど頻繁に行われる取引ではありませんが、ガソリンスタンド、パーキングメーター、ファストフードのドライブスルーなど、様々なデバイスがIoT化していくことで、自動車を核としたM2M取引が拡大していくのはほぼ間違いありません。そのプラットフォームとして、スマートコントラクト / ブロックチェーンは急速に普及していくと考えています。

まだ結論がどうなるかはわかりませんが、電気自動車メーカーから、統合クリーンエネルギー企業へと変貌を遂げようとしているTesla。元はPayPalの創業者でもあるElon Muskは、その先にFinTechもまき混んで、どのような新しい「系」を構築するのでしょうか。

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