謙遜・ショック―『スコットランド人夫の日本不思議発見記』(7)

「謙譲の美徳」ーーこの日本特有の精神でもある行為を、スコットランド人である夫は「全く意味が分からナイ!」と、鼻で笑います。

「謙譲の美徳」――人を立て、自分は出しゃばらない事こそ美しい行為。

この日本特有の精神でもある行為を、スコットランド人である夫は「全く意味が分からナイ!」と、鼻で笑います。

確かに、この欧米社会で自身を卑下する言動ばかりを繰り返していれば「なぜ自分に自信が持てないのか?自分を好きではないのか?精神的に病んでいるのか?」と眉根を寄せられるかも知れません。現に夫は何度となく私に「お前はそんな考えで人生が楽しいノカ?」と聞いて来ました(真顔)。

特に、「自分の子供を謙遜する」と大いに反感を呼びます。

時間を掛け、愛を注いだ我が子を両親が自慢するのは、もはや当たり前なのかも知れません。しかし、「自分の子供を人前で自慢する」または「褒め称える」行為は、慣れていなかった分、少しばかり抵抗がありました。

それから数年――日本育ちの昭和な私も友人・知人に「公開自慢される事」には幾ばくか慣れてきましたが、やはり自分からはガンガン行けないというのが本音です。

そんな中、日本のテレビ局が取材に来た時、事件は起こりました。ディレクターからの「夫に直してもらいたい所は?」と言う質問に、日本人魂、いえこの場合は「大阪人魂」が暴走してしまい、私はうっかり、「電気を消せ!」「洗面所は綺麗に使え!」「ご飯がいらない時は一報入れよ!」「香ばしいまでに自由な独身生活を改めよ!」と、思う存分好き勝手な事をパネルに書いてしまいました。収録中は夫もテレビクルーの方々と一緒にケラケラと笑っていたのですが、次の日の早朝、私は夫に叩き起こされました。

え?今、怒るのか?と不可解に思いつつも、眠たい目をこすりながら彼の主張を聞いてみました。

どうやら、私にとっての「愉快なダメ出し」は、夫にとっては耐え難い「悪口」だったようです。私が「謙遜」すべき対象が、個人でなく家族単位であった事にズレが生じたのかも知れません。ですが、さすがの私も、友人・知人・親戚が観るであろう日本のテレビ相手に「夫は非の打ち所のない最高な男性であり、子供達にとっては良き理解者であり、素晴らしい父親です☆」と(いう嘘)は口が裂けても言えません。

しかし、同じ質問で夫が掲げたパネルには筆圧がほぼない文字で「なし」と書き込まれていました。もしや夫は私に気を使ったのではなかろうかと、しばらくの間、胃が痛かったものです...。

~続く。

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