もっと、自転車を愛する人が増える世の中へ。 - 佐々木俊尚氏が描く、都市と自転車が調和する世界[特別編] -

作家であり、"自転車愛好家"でもある佐々木俊尚氏を直撃。自転車と都市のあるべき関係とは。

作家であり、"自転車愛好家"でもある佐々木俊尚氏を直撃。自転車と都市のあるべき関係とは。

今、「弱虫ペダル」のような自転車マンガが流行っている。一昔前であれば、これは考えられなかったことだろう。つまり、自転車というスポーツがより身近なモノに、よりメジャーなモノになったという証といえる。実際、クロスバイクに乗っているユーザーを見かける機会も増えてきている。

しかし、近年は自転車と歩行者の事故のケースも目立ちはじめている。徐々に法律は改正されはじめたものの、まだ一般には浸透しておらず、守られていない。そこで今回は、世界の都市文化について精通しており、「電子書籍の衝撃」や「レイヤー化する世界」などの著書で有名な、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏に自転車と都市の関係性について意見をうかがった。

「なぜ、佐々木さん?」と思う人も多いかもしれないが、佐々木氏は日常的に自転車を利用している愛好家である。ひとりの自転車ユーザーとして、そしてひとりのジャーナリストとして、今の日本と自転車の関係について、どのように考えているのだろうか。

多忙な新聞記者時代の息抜きとして、クロスバイクを愛用していた。

- 佐々木さんのTwitterなどを拝見すると、自転車に関連する投稿をリツイートしたり、またご自身も自転車に関わる投稿をしているようですが、いわゆる自転車ユーザーなのですか?

佐々木 ええ、そうですね。毎日新聞の記者時代からママチャリではない、いわゆる趣味としての自転車、クロスバイクをはじめました。

学生時代はずっと山登りばかりで、ロッククライミングや冬山の登攀(とうはん)をやっていたんですけど、日数がいるんです。その結果、大学を何度かダブったりして、結局、中退したんですが、それぐらい山登りにハマっていました。

- 自転車を趣味にしたのは、何歳ぐらいの時でしたか。

佐々木 大体30歳を過ぎたぐらいですかね。僕は26歳で新聞記者になったのですが、新聞記者は最初は地方に赴任します。そこで約5年を過ごし、東京に戻ってきたタイミングではじめましたね。

ちょうどその年齢の頃って、運動不足の影響が仕事に出始めますから。当時、住んでいた家から比較的多摩川が近かったので、じゃあ自転車でも始めようかなと。

それでトレック(アメリカNo.1の自転車ブランド)のクロスバイクを買って、二子玉川から立川までの間を往復していましたね。往復、約2、3時間ってところでしょうか。

- 新聞記者時代はやはり休みが少なかったんですか?

佐々木 部署にもよりますけど、警視庁の担当だった時は忙しかったですね。ちょうどオウム真理教の事件もあったので、深夜3時に帰宅して5時に会社に出勤するみたいな生活が続いていました。

寝るのは車の中か、警視庁の記者クラブのソファという感じで。2ヶ月ぐらい休みがないという時もありましたし、たまの休みの日もポケベルが鳴らされたりと。

まぁ、そんな生活でしたから日焼けすることはほとんどありません。太陽の光を浴びるため、健康のために、肌を露出してクロスバイクに乗って日焼けを楽しんでいたワケです。これがとても気持ち良くて。

学業よりもクライミング、そしてパソコン通信に熱中した学生時代。

- それ以前に、佐々木さんが早稲田大学時代、学業ではなく山登りに夢中になっていたというのが、驚きでした。

佐々木 学生時代の前半は、ひたすらロッククライミングに熱中していましたね。後半はちょうどPCが普及しはじめていたので、パソコン通信を使ったオータナティブな市民運動ネットワークの実験に参加していました。

今はさすがにクライミングはやっていませんが、代わりにロングトレイルへと趣味が移りました。昔は自転車で往復していましたが、先日、二度にわけて二子玉川から立川まで歩いていたりしています。

近年、信越トレイルが開通したり、ロングトレイルの人気が熱を帯びはじめていますね。

- 頂上を目指さず、山脈、山間を巡るスタイルが若者を中心にウケているといいますね。

佐々木 僕個人としては、八ヶ岳スーパートレイル100マイルレースが好きです。全長200kmぐらいありますけど、約1/3は歩きました。ピーク(頂上)という目的がないので物足りなさがあるかもしれませんね、特に目的を持って競争原理の社会を生き抜いてきた中高年にとっては。

ロングトレイルは面白いと思いますけどね、あまり人に会わないので、自分の時間を満喫できますし。たまに会うのも、やっぱり若い人が多いです。

まぁ、日常的にロングトレイルに行けるワケではありませんから、新聞記者を辞めたぐらいからスポーツジムに通うようにしています。かれこれ、15年ぐらい継続できています。

専用道路の整備からはじまる、自転車と都市の融和。

- 自転車の話に戻させていただきます。自転車を日常的に利用されているということですが、東京の街は極めて交通量も多く、一度は危険な目にあったことがあると思うのですが。

佐々木 結構、ありますね。僕の主観ですが、東京のドライバーってみんな運転が上手く、自信のある人間しか乗っていない印象です。そのため、結構なスピードでカーブを曲がってきたりします。おまけに東京は道が狭い。

東京という街は、自転車が街の文化に融合することを拒んでいるようにも思えます。要は、自転車がクルマに受け入れられているかどうかだと。残念ながら、クルマのドライバーの中には、車道を走る自転車は間違っていると思っている人も多いようですが。

- しかし、歩道を走れば白い目で見られ、かつ最近は歩行者と自転車の事故も増えています。

佐々木 自転車と言ってもママチャリからロードレーサーまで幅広い種類が存在します。それらを一緒くたに軽車両と扱い、車道を走ることを徹底させたら、きっと各所から異論が噴出するでしょう。

おそらく、戦後から今日まで続いてきたママチャリ文化が日本を自転車後進国にしてしまったのではないかなと思います。あくまで自転車は軽車両ですが、ママチャリの場合、そのユーザー属性により歩道を走ってもいいという風に、ルールが曖昧になっています。

- 時速何十kmというロードレーサーとママチャリを同じ括りにするのは、確かにユーザーの属性を考えると少し酷な気がします。

佐々木 近年、ロードレーサーのようなスピードの出る自転車の人気が高まり、どんどん普及してきています。じゃあ、ママチャリユーザーは減ったかと聞かれれば、高齢化社会が進行しているため、減ってはいないでしょう。

過去の文化と新しい文化、これが上手く融和できていない背景には、都市の文化に自転車が受け入れられていないことがありますね。

- やはりロンドンやパリのように、自転車専用レーンが東京、そして日本でも増設されることが大きな一歩となるような気がします。

佐々木 2020年のオリンピックも開催も決まりましたし、このタイミングで見直すべきですね。特に危険地帯となっている国道などの大きな道路の整備から進めるべきかと。

ただ、現状のような色を変えただけの専用レーンの場合、そこに路上駐車をされたりと全く機能していません。車道に対して段差を一段あげて歩道と同じ高さにし、かつ相互通行にならないよう、両側の車線に設置すべきだと思います。

やはり、自転車は軽車両であるがゆえ、人と混在すると双方にとって危ないと思います。ただ、現状の東京、そして日本は、歩行者と自転車が分離されていなさすぎる。まず第一歩として、自転車専用レーンを設置し、自転車走行のインフラ整備からはじめてほしいと思います。

佐々木俊尚 Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大政経学部政治学科中退の後、毎日新聞社に入社。その後、月刊アスキー編集部を経て2003年に独立し、IT・メディア分野を中心に取材・執筆している。 主な著書に、「レイヤー化する世界」(NHK出版新書)「「当事者」の時代」(光文社新書)「キュレーションの時代」(ちくま新書)「電子書籍の衝撃」(ディスカヴァー21)など多数。総務省情報通信白書編集委員。

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