サイボウズ式が、PVより重視する成果とは何か?

何をもって「認知拡大(or ブランディング)できた」、「効果があった」と考えるべきでしょうか。

認知拡大を目的にオウンドメディアを運営する皆様は、ターゲットとなるペルソナを設定し、彼らに深く刺さるコンテンツを届け、狙った成果を獲得すべく日々がんばっています。ですが、その効果計測としてPVやUUといった単純な数値指標が適切ではない場合、何をもって「認知拡大(or ブランディング)できた」、「効果があった」と考えるべきでしょうか。

ブランディング目的のオウンドメディアのロールモデルとしてよく名前が挙がる「サイボウズ式」さんのストーリーに、そのヒントを見つけたのでご紹介します。

この記事は、2015年11月28日に開催されたMovable Type のユーザコミュニティMT東京によるカンファレンス、「MTDDC Meetup TOKYO 2015」に登壇された、サイボウズ式の藤村さんのセッション「もうPVにはこだわらない――自社メディアを3年半続けて分かった本当の成果」のレポートです。

サイボウズ式はどんな目的ではじまったのか?

2012年に始まったサイボウズ式。メディア当初の思いは「サイボウズが自社メディアを始める理由」の記事に、以下のように書かれています。

これまで色々なIT関連の情報を見てきましたが、どちらかというと「個人向け」あるいは「コンシューマー向け」の「ツール」を中心とした情報が多かったのではないか、と感じています。あるいは「オフィス」という箱物についての情報。「チーム」による「ビジネス」「コラボレーション」という軸での情報は少なかったのではないか、と思いました。そこで、このサイトのコンセプトは「新しい価値を生み出すチームのための、コラボレーションとITの情報サイト」としました

当初からブレず、今も変わらぬコンセプトですね。

その後、3年半かけて現在までに発表した記事は約500本。そして、月間PVは最大40万(平均20万)ほど、10万UUのメディアになっているそうです。

20万PVとだけ聞くと、「ちょっとした個人ブロガーもそのくらいの規模だよね?」とお思いでしょうか?この後の話を聞いていくと、藤村さんのプレゼンのタイトル通り、PVはサイト規模を表すものでも、サイトのビジネス価値や社外への影響力を表すものでも無いなあと、実感できます。

読者に認知され、共感されるためのメディア

サイボウズ式は、ソーシャルで共有される、つまり共感されるものを意識して運営されています。これまでに最もヒットした記事は「「自分でやったほうが早い」でチームは滅ぶ」。

記事を見ての通り、約1万のFacebook Like、約1500はてブを獲得しています。これらの反響は一切のソーシャル広告を使わず、自然なルートで記事に出会い、共感してくれた人のシェアだけの数字だそうです。

メディアのコンセプトは、「チームワーク」、「新しい働き方(ワークスタイル)」、「多様性」の3つ。実際にサイボウズ式の最近の記事タイトルを眺めてみるだけでも、すべての記事がこれらの軸につながっているのが伝わりますよね。

なぜ、その3つなのか。それはサイボウズという会社のビジョンにつながります。サイボウズの会社のビジョンは「世界中のチームワークを良くすること」。同社のすべての活動はそのビジョンに沿っており、サイボウズ式ももちろん同じです。

いろんなバックグラウンドを持つ多様性がある人材が、それぞれの働き方でチームに属している。多様性があればあるほど働きやすくなる、ということを心底信じていらっしゃることが記事を読むと伝わります。

そして、サイボウズ式の記事は会社のビジョンとは密接につながっているが、製品そのものを売り込むことはしていません。ビジョンを軸としつつも徹底的な読者視点で記事を作っているため、場合によっては競合他社を紹介する情報もありですし、会社に批判的なことも書くこともあるそうです。

「サイボウズを知ってもらうこと」が目的

メディアの目的は「サイボウズを知らない人に、サイボウズを知ってもらう」こと。未知 >> 認知 >> (共感度高まる) >> 成約につながる、というファネルの中で、サイボウズ式は認知と共感度を高めるというところに注力しているそうです。成約などのコンバージョンを目的にしていないところがポイントです。

記事の企画に関して、他社のオウンドメディアとサイボウズが一番大きく違う、と、ことぶきが思ったポイントは、サイボウズ式が"問題解決のためではなく、問題提起のための記事を作っている"という点です。問題解決のための記事とは、読者がすでに頭のなかにある質問を検索してたどり着き、答えが見つかったら帰ってしまうような記事。いわば、そのために検索キーワードを入れ込んだタイトルにはされていないそう。

一方、問題提起型とは頭のなかのモヤモヤとした何かを代わりに言語化したものです。問題提起型の記事を読むと、これまで光が当たっていなかった問題をサイボウズが率先して机上にあげている姿を、社会に対して解決していこうという文脈とともに知ってもらえるわけです。

メディア運営チームも多様性重視、会議は思いつき歓迎!

認知獲得・ブランディングのための活動と考えると、従来であれば広報やコーポレートマーケの領域と捉えられがちです。ですが、その目的を実現する方法としてメディアを運営するとなると、これまでとは違う方法、やり方、チーム作りが必要になります。

サイボウズ式は、チーム作りのために、社内のイントラサイトに、社内からのあらゆるアイデアを共有する場所を用意しているそうです。「思いつき、どんなアイデアでも歓迎だから言葉として残してね」というのがポイント。一人では良い企画は出てこないし、チーム内のいろんな人のモヤモヤを企画にしないともったいないからこそなんでも書いてね、という場所になっているそうです。チームの多様性を保つサイボウズ式ならではの取り組みですね。

なるほど!と思いますが、実際にチームメンバーから多くのアイデアをを集めるのは難しいもの。参加者の心のなかにはきっと、こんなこと言ったらダメかなとか、実現性薄そうなんだよねとか、言い出しっぺが書けって言われたらどうしようとか、心理的なハードルはたくさん思い浮かびます。

それを解決する方法が編集会議の独特な運用方法。プロジェクトの進捗管理をする場ではなく、アイデアの種を出す環境にしているとのこと。井戸端会議のような雑談の場所として、全員が気軽にアイデアを出し合える場としてファシリテーションしているそうです。参加者も大学生のインターン生を含む多様性あるチーム。編集長は、面白いアイデアを気軽に言える環境づくりに徹することが大事とのこと。

」という本に、"アイデアは A x B の掛けあわせ"とあります。会議や社内イントラサイトから生まれた種は、この掛け算の項になります。その項とトレンドやメディアコンセプト(チームワーク、ワークスタイル、多様性)をかけ合わせると企画が生まれるのだそうです。

企画案ができたら、コンセプトやターゲットをより尖らせていくフェーズ。ここは楽できない手間隙掛かる場所です。ゼロから企画して生み出すことに、相応の時間を捻出する覚悟が必要です。ここがサイボウズ式の他社との差別化ポイントですね。

コンセプトだけを決めて外部に丸投げしても、「その会社のコンテンツ」にはなりえません。「自社の思いが入ったコンテンツを、汗をかいて作っていくのが重要」、というお話は、全ての記事の企画から執筆まで自社でまかなっているSix Apartブログも、深く深くうなづけるところです。

オウンドメディアの4つの「本当の」成果

では、サイボウズ式がメディアとして情報発信することで、どんな結果が出ているのでしょうか。PVの数字だけでは測れない、以下のような効果が出ているそうです。

PVが多いこととブランド認知はイコールではありません。サイボウズ式では、ブランド波及を定量ではなく定性的な部分で見ているそうです。単純に数ではなく、SNSで誰がどんな反応をしているか、例えば、著名な編集者の方々にサイボウズ式の活動を評価するコメントを頂いたりとか、問題提起に共感してくださるようなコメントが大事だそう。

サイボウズという社名+チームワークや働き方に向き合っている会社だよという文脈が伝わっているかは、誰がどんなふうに反応してくれているかから見えてきますよね。単に良い製品を提供しているだけでは伝わらない文脈を、会社のイメージに付加することができているという、メディア運営の大きな効果の一つだそうです。

また、子連れ出勤記事などいろんな働き方を紹介することで、大手メディアから取材依頼にもつながったのも副次的な効果。オウンドメディアを通して、大手メディアにもメッセージを伝える。これは、オウンドメディアの得意な領域ですね。

藤村さんいわく、「社内をもうまく動かして空気感を作らないと、メディアは成功しない」とのこと。サイボウズ式は、社内のモチベーションアップやコミュニケーションのきっかけにもなっており、このネタで記事を書いて欲しいといった意見が社内からも多数集まっているそうです。

オウンドメディアは、社外での影響力を意識した活動です。ですが、会社のメディアを通して、社内にいるメンバーにも自社のビジョンに対しての共感を育むことにも繋がる、というのは納得できる話です。そして、それは次の採用への効果の話にもつながります。

昨年だけでもビジネス職での採用のうち、16人中2人は、サイボウズ式がサイボウズを知るきっかけだったそうです。サイボウズはその製品の特性から理系の人には認知度が高いのですが、文系のビジネスサイドの人からの認知には課題があったそうです。サイボウズ式という形であれば、ビジネスサイドの人にもリーチしやすくなるのはうなづけます。

最初は製品の認知がなかったとしても、サイボウズ式を読んで企業姿勢に共感してもらって入社に至った方であれば、入社後もさまざまな意識共有がスムーズになりそうですよね。

サイボウズ式への反響から製品ニーズを把握し、製品プロモーションにも展開する例もあるそうです。例えば、PTAの記事への反響から、実際にPTAという組織でもサイボウズは有用であることがわかり、ニーズ調査にも繋がるなどのメリットもあったそうです。

まとめ

サイボウズ式は過度に定量的なKPIを追い求めるのではなく、SNSの広がりや一つ一つのコメント等、「定性的なメリット」に着眼した結果、想定以上のブランディングと認知獲得ができていることが、セッションでのお話から伝わりました。サイボウズという会社名のみならず、「チームワーク」、「新しい働き方(ワークスタイル)」、「多様性」の課題に問題提起する姿とともに認知して欲しいがために、今のサイボウズ式のスタイルになっているのですね。

PVやUUから「何人に読まれたか」という量だけを追うのではなく、「そもそも我々のコンテンツは誰に読まれ、どう感じてもらい、結果としてどう行動(or 反応)してもらいたいのか」という考え方、サイボウズ式の成功例を参考に自社ではどう応用できるか考えてみてはいかがでしょうか。

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