エネレ・ソポアンガ ツバル首相へのインタビュー
ー米国トランプ政権のパリ協定脱退発表を受けてー
私たちは米国を待つ必要はなく、我々がしなければならない仕事を進めればよいのです。
諦めることはできません。一緒に行動しましょう!
1.6月1日に、米国トランプ政権がパリ協定から離脱すると表明しました。ツバル首相としての感想をお聞かせください。
私は今回のトランプ大統領自身が下した決断をとても悲しく感じます。もし世界が温暖化対策に失敗をしたら、ツバルとツバルに住む人々は深刻な問題に直面するでしょう。
しかし、私は、現時点では米国が「パリ協定から離脱していない」という事実が重要だと思います。米国はまだ同協定の締約国です。
そして、他の多くの同国のリーダーたちが発する声に勇気づけられています。
カリフォルニアやハワイを含む20以上の州だけではなく、300近い都市や郡も、パリ協定の支持を表明しています。
ジェネラル・エレクトリック(GE)、エクソン・モービル、ゴールドマン・サックス、グーグルのような大企業も、トランプ大統領を支持せず、パリ協定を支持すると表明しています。
ツバルの首相として、米国がパリ協定の締約国であり続けてほしいと願っています。
そして、米国がパリ協定に残るためにトランプ大統領がパリ協定脱退の決断を再考するよう訴えて行きます。
2. 今回の米国のパリ協定脱退が、パリ協定実施に向けた交渉に何らかの影響を及ぼすと思いますか?
確かに、現在の交渉に何らかの影響を及ぼすと思います。しかし、他の国々のリーダー達はトランプ大統領のパリ協定脱退の決定を支持しないでしょう。
というのも、トランプ大統領の決定を支持することは、世界中でたくさんの災害が起ることを容認することになるからです。米国以外のリーダー達が連帯して、パリ協定のもと気候変動対策を進めることを強く望みます。
ツバル政府や民間で働く多くのツバル人は、米国のパリ協定離脱について、とても心配しています。
さらに、宗教コミュニティー、海外で勉強する学生、ニュージーランド、オーストラリア、英国、米国のツバル人コミュニティーもこの状況を不安視しています。
しかし、私は、彼らを励ましていきたいと思うのです。世界の人たちと一緒に気候変動対策を進めましょうと。
私たちが希望を捨てなければ国際社会から大きな協力が得ることができるでしょう。
これは、私たちがリーダーシップを発揮する大きなチャンスとも言えます。
パリ協定を実施する以外の選択肢はありません。私たちは米国を待つ必要はなく、我々がしなければならない仕事を進めればよいのです。
3.トランプ大統領は、気候変動関連の研究や対策に資金を提供することを止めると発表しています。
これには、国連気候変動枠組条約や緑の気候基金(Green Climate Fund/GEF)への拠出も含まれており、GCFはツバルにおける沿岸部適応事業にも大きな影響を及ぼすと考えられます。
これに対してどのような対策を考えていますか?
ツバルはすでに4,000万米ドル(約5,000〜6,000万豪ドル)近い費用がかかる沿岸部適応事業の合意文書(Funded Activity Agreements/FAAs)に署名をしました。これらの資金はナヌメア島、ナヌマンガ島、そして、フナフチ島に防波堤を作るために使われます。
米国がすでに決定している国連気候変動枠組条約や同条約の下で運用される緑の気候基金への資金の拠出を止める決定をしたことは、とても悲しいことです。
アメリカの行為は国連のもとで形成された多国間協調主義への大きく深刻な脅威です。
この件についてより詳しく理解するために、私は6月頭にニューヨークで国連の事務総長に会いました。
資金の供給を止めることは、食べ物の供給を止めるようなものです。これはとても危険なことです。ツバルは先日署名したFAAsに関しては、条約参加国と一緒に対策を進めることができます。しかし、今後、世界全体での気候変動への適応策実施や排出削減を実行するためには、現時点で条約参加国が拠出を約束している金額でも不足しているのです。この状況で米国が資金拠出を止めることは大きな痛手となします。もし、米国が「アメリカファースト、ワールドラスト」で動けば、米国は国際社会から孤立し取り残されてしまうでしょう。
4. 米国がパリ協定から脱退したとしても、パリ協定の脱退規定を考慮すると正式に脱退するまで4年かかります。それは、トランプ大統領の任期がパリ協定の脱退が正式なものになる前にほぼ終わってしまう可能性があることを意味します。それに関して、トランプ大統領に何かメッセージはありますか?
世界のリーダーとして、私たちは、気候変動問題に対応するために協働しなければなりません。
私たちは同じカヌーに乗っています。我々が乗っているこのカヌーを見捨てたら、カヌーは沈んでしまいます。
そして、米国を含め地球に住んでいる人は溺れてしまうでしょう。そして、米国は経済を発展させることもできなくなってしまうでしょう。私たちは、地球に住む家族として一緒に行動しなければなりません。
また、パリ協定は再交渉することはできません。一体誰と交渉するというのですか?世界のどの国も米国とパリ協定について再交渉することに合意した国はありません。
私はツバル首相として、ツバル政府関係者に米国政府関係者と気候変動についてどのような議論もしないよう指示しています。
5. 日本の市民は、日本政府が米国のパリ協定脱退を言い訳として、さらなる石炭火力発電所増設や、再生可能エネルギーの導入を怠ったりすることを心配しています。日本政府にメッセージをお願いします。
化石燃料の掘削作業ほとんどは機械でおこなわれているため、化石燃料産業において大きな雇用の増大を期待することができないことを私たちはすでに知っています。
地下から石炭を掘り出す機械を動かすのに必要なのはたった一人です。そう考えると化石燃料産業に将来はありません。
一方、再生可能エネルギー産業はより発展的で利益を生み出します。
新しい雇用を創出し、雇用の増大が期待できます。それ故、世界中で再生可能エネルギーへの移行が推進しているのです。
日本の友人たちやパートナー達が言葉だけではなく具体的な対策を実施することを期待しています。
そして、日本が南太平洋のリーダー達と一緒にパリ協定のもと対策を進めて行くことために、リーダーシップを発揮してくれることを望みます。
私たちは諦めることはできません。一緒に行動しましょう!
2017年6月22日 ツバル首相執務室にて
編集:遠藤秀一、監修、翻訳:川阪京子、インタビュー:松浦克彦