昨年から親交のある美容師の木村さんが、
新年早々にTwitterで熱い想いを述べていらっしゃいました。
前後のtweetも全部熱いので、ぜひ読んでみてください。
様々な分野のプロフェッショナルが経験を積んだ上で、
政治の世界に来るというのはまさに一つのあるべき姿ですし、
ビジネスマン・経営者も含めて多様な背景をもつ政治家が増えるべきだと思います。
二世三世の「職業政治家」ばかりになっている今の日本政界。
世襲議員の存在意義もそれはそれでありますが、大事なのはバランスなのです。
とはいえ、
「美容師が政治...?」
と感じる方もいるかと思いますので、
今日は一つ美容師と政治≒法律の話でもしようと思います。
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「美容院で男性がカットだけするのは違法ですよ、気をつけて!」
以前に木村さんのところにカットに伺った記事をアップした後、
複数の方からご指摘をいただきました。これって一体なんじゃらほい?
意外と知らない、政治家たちの美容院・床屋・散髪事情【雑談】
床屋と美容院が違うことは、みなさんなんとなくご存知かと思います。
それぞれで施術を行う理容師・美容師はどちらも国家資格ですが、
法律でその役割が規定されています。
【理容師】
この法律で理容とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えることをいう。
(理容師法第一条二項)
【美容師】
この法律で「美容」とは、パーマネントウエーブ、
結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう。
(美容師法第二条一項)
つまり、そもそもは理容師=カットする人、美容師=パーマや化粧する人、
というのが業態の区分としてスタートしたわけですね。
とはいえ、どちらにも入っている「等」というのがポイントで、
行為自体は幅広く解釈できるようになっています。また誤解されやすいですが、
法律に男女区別の明記はありません。
では何が「男性へのカット禁止」の根拠になっているかというと、
管轄の省庁(この場合は厚労省)から出されている「通知」です。
厚労省の通知は、両者の行為を以下のように明確に指定しています。
▼
理容師のコールドパーマネントウエーブに関する行為及び
美容師のカッティングに関する行為並びに染毛については、
次により取り扱うものであること。
(1)理容師の行うコールドパーマネントウエーブについて
理容師が、刈込み等の行為に伴う理容行為の一環として男子に対し仕上げを目的とする
コールドパーマネントウエーブを行うことは差し支えないが、
これ以外のコールドパーマネントウエーブは行ってはならないこと。
(2)美容師の行うカッティングについて
美容師が、コールドパーマネントウエーブ等の行為に伴う美容行為の一環として、
カッティングを行うことは、その対象の性別の如何を問わず差し支えないこと。
また、女性に対するカッティングは、コールドパーマネントウエーブ等の
行為との関連の有無にかかわらず行って差し支えないこと。
しかし、これ以外のカッティングは行ってはならないこと。
(昭和53年12月5日 環指第149号/各都道府県知事あて厚生省環境衛生局長通知より)
▲
つまり美容院について言えば、パーマと一緒にカットをするなら男女どっちもOK。
パーマを伴わない場合、女性に対しては「美容」なのでカットしていいけど、
男性がカットだけするのはダメ!理容室でやりなさい!となっています。
この行政からの「通知」というのは法律ではないので、
違反が即逮捕や営業停止になるわけではないのですが、
さりとて当然無視はできないというなかなか悩ましい存在です。
また行政が「通知」という形で法律の中身を事実上規定してしまうことは、
三権分立や立法府との関係から疑義が示されています。
とまあ、「通達」「通知」の問題点については本が一冊かけてしまうので脇に置いておくとして、
世相を反映して行政から出されるこうした「通知」は時に、政治的に利用されることがあります。
昭和53年に出された上記の通知は、
急速に拡大してきた美容室・美容院から床屋・理容師の商売を守るために、
政治的な配慮が働いたという側面も否定できないでしょう。
30年以上前のことなので確たる記録は出てきませんでしたが、
昭和後期には理容師利権・美容師利権が激しくぶつかり合い、
政治家に対してロビー活動を展開していた時期があったようです。
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この通知は正式には撤回されていないものの、美容=女性だけのものと規定した内容は
いかにも「昭和的な価値観」ですし、今やまったく現実から乖離した
時代遅れのものになっていることは誰の目にも明らかです。
実態からかけ離れたこの通知を持って床屋・美容院を取り締まることは
もはや不可能だと思われますが、もし昭和後期にこの通知がきちんと機能していたら、
今のような美容院文化はなかったかもしれません。
何が言いたいかというと、政治や行政というのは放っておくと、
ある日突然ゲームのルールを変えられてしまうかもしれない、ということです。
それがわかっている業界団体の人たちは、
普段から必至にロビー活動を行い、企業団体献金なども熱心に行います。
一方で、政治に無関心層はこうした動きを察知できず、ある日突然に経営が傾くかもしれません。
「政治に無関心でいられても、無関係でいることは誰にもできない」
というのはつまり、こういうことなのです。
そのために普段から政治に関心を持つ、投票に行くというのは勿論のこと、
自分たちの代表者を政界に送り出すというのは、極めて有効な選択肢ではないでしょうか。
利害対立・調整というと言葉は悪いですが、
自分たちの主張や価値観を届ける・伝えるというのは本当に大切なことです。
というわけで木村さん、土下座なんてしなくていいので(笑)、
ぜひともこちらの世界でお待ちしております!
同世代、民間出身の価値観を届けに行きましょう^^
それでは、また明日。
(2015年1月3日「おときた駿公式ブログ」より転載)