森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を発信しています。10月号では、次のような話題を取り上げて外来昆虫の侵入に警鐘を鳴らしました。
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中国などを原産地とする昆虫のクビアカツヤカミキリ(別名クロジャコウカミキリ、学名 Aromia bungii )が日本国内で広がりを見せている。主にバラ科のサクラ、モモ、ウメなどの幹を幼虫が食害し、ひどい場合には枯死させてしまう。各地の桜並木や果樹園での被害拡大が心配され始めた。
森林総合研究所によると、このカミキリが国内で初めて報告されたのは2012年、愛知県西部のサクラとウメで発生が確認された。成虫の体長は約3cmで、体は光沢のある黒色で胸部が赤い。別名に麝香(じゃこう)とあるように、特徴的な香りも放つ。
夏に成虫が幹へ産卵し、翌春に孵化した幼虫が内部の材を摂食する。被害木の根元には大量のフラス(木くずと幼虫の糞が混ざったもの)がたまる。1本の木を多数の幼虫が加害すれば、枯死に至る。中国ではモモやスモモの重大害虫となっている。
2013年には埼玉県草加市の桜並木などで発生が報告され、この2県の事例から、今春にまとまった環境省の生態系被害防止外来種リストでは、総合対策外来種の一つと位置付けられた。だが今夏に群馬県や大阪府でも見つかり、徳島県ではモモなどの果樹園の多くで発生するなど被害は広がっている。卵や幼虫が入った材が物資の梱包用に使われ、中国や韓国あたりから国内に持ち込まれた可能性が高い。海外ではドイツやイタリア、英国、米国に侵入した事例がある。草加市では、被害木にネットを巻いて羽化してくる成虫を捕獲したり、木を伐採・焼却したりしているが、発生は収まっていない。
被害は壮齢木や老齢木に多く見られており、「各地で親しまれてきたサクラの名木・古木が特に危ない」「ヤマザクラをはじめとする野生のサクラ類に被害が及びかねない」という指摘も聞かれる。各地の調査に関わってきた森林総研の加賀谷悦子企画室長は「ドイツでは一度侵入したものの、集中的な対策で早期に根絶させたと報告されている。日本も今のうちに取り組みを進める必要がある」と話している。掲載写真は、クビアカツヤカミキリの成虫(加賀谷室長提供)。