シュート・アローさんの「昭和・東京・ジャズ喫茶」という本が今、話題になっているのはご存知でしょうか?
この著者は1962年生まれのサラリーマンですが、ジャズ喫茶が大好きで、日本中のジャズ喫茶を回ることを「趣味」としています。
そしてそのジャズ喫茶巡りを文章にしているのですが、この本は「ただのお店紹介本」ではありません。シュート・アローという人の「私小説」になっています。
例えば彼は「DUG」という有名店を表現するときに村上春樹の「ノルウェイの森」の話を延々とします。これ、普通の「お店紹介本」なら「このDUGはノルウェイの森に登場したことでも有名です」の一言で終わるところが、なぜ村上春樹が小説でこの店を登場させたか、登場人物はどんなシチュエーションでモンクを聴いたのかというのを執拗に考察します。
おそらく「DUGの常連の方」が読むと「どうしてDUGの話じゃなくてこの著者はノルウェイの森のことばかり書いているんだろう?」と感じることでしょう。そうこれは、シュート・アローという人が「ジャズ喫茶への愛」を綴った「恋愛小説」なんです。
そしてシュート・アローさんは読者に何度も何度も「是非、行ってみて下さい」と呼びかけます。そうこの日本だけにある「ジャズ喫茶文化」というものを愛して、そしてずっとずっと滅びないで後世まで残っていてほしい文化だと祈っているのです。
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そしてそんなジャズ喫茶に、今、「新しい流れ」があります。
西荻窪のユハと中野のロンパーチッチという二つのお店がそうなのですが、この二つのお店には様々な共通点があります。
二店とも、アナログ・レコードにこだわっていること(ユハではCDもかけています)。
二店とも、冒頭のシュートアローさんが描く60年代の東京の文化を支えた「ジャズ喫茶文化」への敬意をすごく持っていること。
二店ともすごくジャズを愛していて、かつ「自分ならではのジャズの価値観」を持っていて全く揺らがないこと。
二店ともお客様の中に「別にジャズに興味はないけど、居心地の良いカフェだから通っている」という方達が多いこと。
二店とも中央線の少しはずした、絶妙な場所にあること。
そして、これが一番強調したいところなのですが、二店ともご夫婦で経営されていて、もちろん奥様もすごくジャズに詳しくて、そして実はお店の一番大切な「雰囲気」をキープする鍵は「奥様」が握っていることです。
飲食店ってよく言われることですが、「女性のお客様がたくさん入っていて賑わっていると、そこは流行る」という法則があります。
女性のお客様って「あそこは50年前の真空管のアンプを使っているから」とか「あの店はミルクの温め方がイタリア式だから」とかそんな蘊蓄の理由ではなく、「なんだかすごく居心地が良くて、飲み物や食べ物が美味しいから」という総合的な理屈抜きの直感で判断するんですよね。
そして、そんな女性のお客様の「総合的な理屈抜きの直感の判断」が一番正しいしお店側としては怖いんです。
男性だけのアイディアだとどうしても「蘊蓄のマニュアル」でお店を作って運営してしまいがちなのですが、その部分を女性が握るとお店がキラキラ輝きます。
「理由はわかんないけど、あのお店に行くとすごく居心地が良いし、会話もはずむし、デートとかも成功する」というお店が流行るんですよね。
そして、ユハとロンパーチッチはそんな「女性の気持ち」を掴んで放さないお店の雰囲気がすごくあります。
「ジャズ喫茶」という日本にしかない文化、今、もう一度、見つめなおしてみませんか?
ロンパーチッチ http://www.rompercicci.com/