65歳以上の就業者が激増中!アベノミクス100万人雇用拡大の実情(後藤百合子 経営者)

日本では過労死、長時間労働などが長い間問題になってきましたが、ここまで高齢の労働者が増えるとこれまでのような日本的な働き方は企業がどんなに望んでも継続は難しいと思います。シニア世代の現役期間が延びるにつれ、否応なくワーク・ライフ・バランスの実践が定着してくるのではないかと期待しています。
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18日に安倍首相が解散総選挙を宣言しましたが、記者会見の内容に少しひっかかった一言がありました。安倍首相は政権発足以来、雇用が100万人以上増えたと述べたのです。(もう一つ賃金が平均2%上がったというコメントもありましたが、消費税が3%上がっているので実質1%の減じゃないかと思わず突っ込みたくなりましたが、これはおいておきます)

■第2次安倍内閣成立から134万人も増えた雇用

総務省統計局の労働力調査によると、2014年9月現在の日本の雇用者数は5,636万人です。うち男性は3,175万人で56.3%を占め、女性は2,461万人で43.7%となっています。第二次安倍内閣は2012年12月末に発足していますので2013年1月の数字と比べてみましたが、当時の雇用者数は5,502万人ですから100万人どころか134万人も増えていることになります。

■若年層は41万人増だが非正規社員が約半数

安倍首相が「高卒就職者への求人が大幅増」とおっしゃっていたので調べてみました。たしかに2012年3月の高校新卒就職者は17万5千人から2014年3月には18万1千人と3.4%増えています。しかし増加数はたかだか6千人程度で、2013年3月と比べると逆に2千人減っていますので、とても雇用全体に影響があるとは思えません。

いっぽう、2013年1月~2014年9月までで高校新卒を含む15歳~24歳までの年齢層では41万人も雇用が増えています。これは全年齢層の増加人数の約3割にあたり、伸び率も9%と非常に高くなっています。若年層の雇用は順調に拡大しているといっていいでしょう。

しかし問題もあります。雇用が拡大したとはいえ、この年齢層では正社員比率が53%しかなく、残りの47%はアルバイトなどの非正規雇用者なのです。人手不足が叫ばれ、サービス、小売業を中心に若年層の時給がじわじわと上昇していますが、たとえ時間給が上がったとしてもその多くはアルバイトであり、長期的な安定雇用は期待できません。この年齢層のパート・アルバイト社員もまた11万人増と大幅に拡大してしまっているのです。

■45歳~54歳は46万人の増加で女性が躍進

若年層よりさらに雇用の伸びが大きかったのが、45歳~54歳の年齢層です。このうち最も伸びが大きかったのは、女性の非正規雇用で18万人の増。パート・アルバイトが8万人増、契約社員が7万人増となっていますが、正社員も5万人増えており、女性だけで26万人も増加しました。

この年齢層では男性も21万人増加しているのですが、女性とは逆に正社員の伸びが最も大きく13万人も増えています。正規職員/社員の雇用率も91%前後と安定しており、働き盛りの雇用もまだしっかり確保されていることがわかります(ただし正社員比率はほとんど変わっていませんので、非正規雇用の男性もまた増えているのが実情です)。

■雇用拡大の過半数は65歳以上。女性の非正規雇用が28万人も増大

これまで若年層、壮年層をみてきましたが、実はこの期間で最も大きく雇用が拡大したのは、65歳以上の高齢者層です。アベノミクスで拡大した雇用の過半数が65歳以上、というのは非常に示唆に富む結果だと思います。

2013年に1月に350万人だったこの年齢層の雇用者は2014年9月には422万人になっており、72万人の増加。若年層の2倍近くも伸びています。またこの年齢層は、雇用者全体の7.5%を占めるようになり「働く人の13人に1人は65歳以上」という状態になっているのです。

さらに詳しくみていきましょう。65歳以上ですので正社員雇用はぐっと下がって25.8%です。伸びているのは圧倒的に非正規雇用で57万人と、増加分の8割を占めています。男女別でみると女性の非正規雇用が107万人で28万人増、男性の非正規雇用が134万人で29万人増と男女ともに大幅に増加しています。いっぽう男性の65歳以上正社員雇用は5万人増で、女性は変化なし。65歳をすぎてもまだまだ元気な男女がパートタイマーやアルバイトとして働き、貴重な労働力となっているといえます。

■正社員雇用はほぼ変わらず、シニア世代の非正規社員が大幅増のアベノミクス

最後に全体をみたいと思います。2013年1月と2014年9月を比較したとき、全体の正規雇用者数はマイナス9万人となっています。25歳~34歳の女性が12万人の減、55歳~64歳の男性が16万人の減などとなっており、女性の転職・出産による退職や男性の定年後の転職などが主な理由の誤差の範囲内と考えていいと思います。ただ、全体的に年齢にかかわらず正社員の増加傾向があるなど、正社員雇用を企業が控えている、という印象はありません。

逆に非正規雇用者は147万人と大幅増。増加した非正規雇用者のうち55%にあたる81万人が55歳以上で、その約7割の57万人が65歳以上です。また、45歳以上の女性の非正規雇用18万人もいれると、この3つの年齢層だけでほぼ100万人が非正規雇用で増えたことになります。

この数字からみえてくるのは、まだまだ元気な高齢者が、積極的に労働市場に流入して生産・サービス活動に従事している姿です。将来に対する不安から「元気なうちに生活費を稼いで貯蓄しておきたい」という自己防衛本能の表れともいえるかもしれません。また、45歳~54歳の従来は「年齢的に再就職は難しい」と就職をあきらめていた年齢層の女性たちの間でも、できるだけ働いて老後に備えたいという意識が高まっているといえるでしょう。

皮肉なことに「老後の備えに働けるうちはとにかく働きたい」という、アベノミクス効果による将来への不安とリスク回避意識こそが、安倍首相のいう「100万人の雇用拡大」の主要な要因ではないかと考えられるのです。もはや庶民にとって「年金を受給しながら悠々自適の引退生活」は手の届かない高嶺の花になりつつあるのではないでしょうか。

■働く人の4人に1人は55歳以上。変わらざるをえない働き方

役職定年などが多い55歳以上を区切りとして、シニア世代の55歳以上の労働人口を総計してみると1,398万人になり、全雇用者の24.8%を占めていることがわかります。いまや日本の労働者の4人に1人は55歳以上、シニア世代は貴重な労働市場の戦力です。

日本では過労死、長時間労働などが長い間問題になってきましたが、ここまで高齢の労働者が増えるとこれまでのような日本的な働き方は企業がどんなに望んでも継続は難しいと思います。シニア世代の現役期間が延びるにつれ、否応なくワーク・ライフ・バランスの実践が定着してくるのではないかと期待しています。

【参考記事】

後藤百合子 経営者

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