米国の静かな革命が、今後大きな潮流になると考える3つの理由

ミレニアム世代は、政治闘争やデモのような示威行動はあまり似合わないが、消費やモノづくりのあり方を根本的に変えてしまう『ソフトパワー』には、先行世代にはない、しなやかな強さがあるように見える。米国という国の懐の深さはやはり侮れない。革命は深く静かに進行しているのかもしれない。
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■米国の強力な『複合体』

先週は米国の悲惨ともいえる状況について記事を書いたら、思った以上に大きな反響をいただいた。ただ、『あまりに救いがないのは何とかならないのか』、と言うご意見が結構あって、私自身が多少なりともそう感じていたこともあり、出来るだけ早く何らかのお答えになるような記事を書いておきたいと思っていた。

とはいえ、米国の政治の現状は、客観的に見てもかなり厳しい。いわゆる日本でいう政官財だけではなく、法曹会から、軍事産業に至るまで、非常に緊密な『複合体』となって組み上がっていて、容易なことでは解体できそうにないように見える。

サブプライムローンのような、詐欺商法といっても過言ではないようなウォール街の悪行が世にあきらかになって、言わば改革の一大チャンスだったはずの『リーマンショック』も、結局銀行等の金融機関については『Too big to fail(破綻させるには大きすぎる)』の大原則を再確認するための、世紀のイベントとなってしまった観があるし、『地球温暖化』という全地球的な課題も、『遺伝子操作』のような生命にかかわるような非常に重大な議論でさえ、企業の強力なロビーイングで手玉に取られ、なし崩しにされてしまう。

■効果が見えなかった『オキュパイ・ウォール・ストリート』

一方で、ウォール街の横暴に物申すという主旨で大規模に行われた、『オキュパイ・ウォール・ストリート』のような運動も、結局要求が受け入れられることなく、沈静化してしまった。この活動の中心となったのは、2008年の大統領選でバラク・オバマ候補を支持した層と重なると見られるが、スローガンの『We are the 99%』に見て取れるように、1%の富裕層を批判する99%を構成する大衆の運動であり、ウォール街、すなわち狭義の金融業界への批判というより、もっと広義の、『政治にカネで影響を及ぼす企業全般』が対象であったことがわかる。

デモによる直接の要求も通らなかったが、結局その後も政治に影響を与えたとは考えにくい。要求のどれ一つとっても、『カネの影響力を議員に振るえる1%』富裕層の要求のほうが、ますます強くなっているように見えるからだ。やはり、もうどうにもならないのだろうか。

■静かだが着実な変化/新しい消費文化

ところが、幸いなことに、そんな中でも『希望』は消えていないようだ。静かだが着実に変化は起きているという報告もある。すっかり打つ手がなくなってしまっているかに見える『99%』層の間に新しい変化の波が現れていて、これがさらなる大きな変革の波に成長していく可能性を感じることができると主張する人がいる。在米国のジャーナリスト、佐久間裕美子氏は、著書『ヒップな生活革命』*1で、リーマンショックで一旦は荒廃してしまった米国に、新しい消費文化が息づき、大きな潮流になってきている様子を描いている。  

この新しい文化の潮流は、自分たちが消費するものの本質を強く意識することから始まっています。口に入れたり、身につけたりするものがどこで作られ、どこからやってきたのかを考えよう、社会的責任に重きを置く企業を支持しよう、「より大きいものをよりたくさん」という消費活動と決別しよう、お金さえ払えば誰でも手に入れることのできる高給ブランドのバッグよりも、自分がより強いつながりを感じるものを、たとえば同じコミュニティの一員がデザインし、地元の工場で、自分たちと同じ電車に乗って仕事に通う人が作る商品を使おう、という新しい価値基準の提案です。

『ヒップな生活革命』より

そう言われてみると、確かにこれらは、リーマンショック後に表出してきた多くの潮流の一つだ。だが、オバマ大統領を選出しても、オキュパイ・ウォールストリートのような示威運動をやっても、変わらなかったのに、文化の潮流くらいで、本当に米国の政治の屋台骨を揺すぶることが出来るのだろうか。小さな抵抗運動の一つとして、遠からず泡のように消えていくのではないのかという声もあらためて聞こえて来そうではある。

しかしながら、本書を読むと(多分に私自身の期待感の色目もあることは否定はできないが)、これは大統領選や、デモのように海外にまで直接伝わるほど目立たないかもしれないが、日常の消費活動に関わる変革であり、一つ一つは小さくても、。

■現在の構造を覆す可能性

大企業主導の『大量生産・大量消費・低コストの海外生産』という仕組みは、一方で低価格という恩恵を消費者に施すことで、窮乏しつつある中間層を含めて『99%』層を取り込んでいる。だから、いかに、市場には遺伝子操作された食物とか、薬漬けで残酷な育てられ方をした家畜だとか、安全性の確認が十分とは言えない海外からの輸入品とかで溢れているといわれても、いかにそんなものは食べたくなくても、低収入で他に食べるものがない状態では、どうにもならない。自分の口に入れるものを選ぶことは、現時点では高コストを意味し、結局、意識が高く、収入もある程度高い一部の層だけしか実行できないことになる。

だが、もし、『99%』層の消費者と生産者が『1%』層が構築した仕組みから大規模に離脱できれば、革命が起きる。これは、食料品以外の生産物資全般についていえる。例えば皆が、自転車に乗って、自動車は購入せず、原則公共交通機関を利用し、どうしても必要な時にはレンタルしたりシェアするような行動に完全に移行すれば、自動車会社の販売・生産は激減が避けられない。消費者が現状の大量生産・大量消費から離反して、別の仕組みを作れば、何であれ、現在の構造がひっくり返ることは十分にありえる。

■3つの理由

では、その可能性はあるのか。『かなり可能性はある』、というのが現時点での私の見解だ。その理由は3つある。

1. テクノロジーの進化の後押しが期待できること

2. ミレニアム世代の感性・傾向

3. 著名人の支持

出来るだけ簡潔に、それぞれについて述べてみる。

■テクノロジーの進化の後押しが期待できること

佐久間氏のいう、新しい文化の担い手である『ヒップ』の中心層について書かれた箇所から、その特徴について書き出してみる。

電話はiPhone、コンピュータは必ずMacで、テクノロジーの恩恵は享受しながらも、アウトドアやガーデニングが好きで、週末になると郊外のセカンドハウスやキャンプに出かけて、あえて原始的な環境に身を置いたりするタイプ。外で音楽を聴くときもiPhoneで、家にはターンテーブルがある確率が高く、ハリウッド映画よりインディーズ映画を好みます。(中略)

パンクやヒッピーの価値観の一部を受け継ぎながら、テクノロジー革命の恩恵はしっかり受けつつ、手を動かして作られるものを評価する、そんな層です。

『ヒップな生活革命』より

重要なことは、中核にいる層がテクノロジーに強いことだ。そして、手作りを重視する。一方、今世界中で進行しているのは、テクノロジーの進化によるDIY( Do It Yourself )だ。すなわち、大企業の資本や生産設備をあてにすることなく、個人のガレージやリビングで何でもできるようになりつつある。例えば、米国テキサス州に本社を置く、システム・アンド・マテリアル・リサーチ社が開発する、3Dフードプリンターなど、原料をカートリッジに入れておけば、どんな料理でも製造することができるという。

食材・原料は、農家等から調達する必要があるが、その農家の方も、情報武装してスマート化すると同時に、需要者と直接繋がることが今後益々容易になる。佐久間氏の著書でも紹介される、ポートランドの農家等、まさにそんな『サード・ウエーブ』の萌芽を感じさせてくれる。

■米国のミレニアム世代の感性/傾向

歴史化のウィリアム・ストラウスとニール・ハウによれば、大恐慌期に育った人『沈黙の世代』(1925年〜1942年生まれ)は、見栄より実用性を重視する傾向が強く、お金やモノに恵まれていようといまいと、幸せを手にいれるために創意工夫の才を発揮したというが、新しい文化の中核的な担い手である、ミレニアム世代(1982年〜2005年生まれ)は、先行するベビーブーマー(1943年〜 1960年生まれ)やジェネレーションX(1961年〜1981年生まれ)とも違って、『沈黙の世代』に近い性向を持つという。

ジョン・ガーズマ(消費者行動研究家)とマイケル・ダントニオ(フリーランス・ライター)の共著、『スペンド・シフト』*2や『女神的リーダーシップ〜世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である』*3には、現代の若者像(ほぼミレニアム世代が対象といってよさそう)の傾向について述べてあるが、調査を通じて、やはりこの若者達は『沈黙の世代』の順応性に尊敬の念を抱いているように感じたという。

さらには、従来男性的と思われて来た発想や行動の流儀、すなわち、『管理や統制、競争、侵略、戦争、収入格差、無謀にリスクを取る行い』を嫌い、女性的とも言える傾向が価値観の中核にあると見られ、『収入や地位への執着が弱く、人とのつながりやコミュニティへの関心が強く、臨機応変で順応性が高く、友人との関係、倫理的な行い、多様性を重んじる』という。しかもこれは米国の若者に限らず、全世界的な傾向であるという。

このミレニアム世代が今後社会の中心となり実権を担うようになれば、ここでいう『女性的』な価値観、流儀が社会の支配的な価値観となることが期待できる。そして、先行世代のヒッピーイズム、パンク、オルタナティブといった価値観とも呼応して、よりバランスの取れた社会を構築する大きな潮流になると考えられる。

■著名人の支持

今の米国の政治状況、すなわち、『1%』層ばかりがあまりに強大になり過ぎている状況について、はっきり反対の立場を取る著名人は案外多い。『1%』層の中にもいる。

•スーザン・サランドン : 女優でアカデミー賞受賞者

•マイケル・ムーア :映画監督

•ジョージ・ソロス :投機家

•オノ・ヨーコ :芸術家

•ポール・クルーグマン:経済学者

•ロバート・ライシュ:経済学者、クリントン政権時の労働長官

•イヴォン・シュイナード:パタゴニア創始者

まだ沢山名前をあげられそうだし、今後ともその数は増えていくことが予想される。彼らの声や行動は、現在のところ思ったほど政治的なパワーになっていないと言えなくもないが、1や2で見たように、『99%』層が変貌を遂げていくようになれば、著名人の『言葉』『リーダーシップ』『影響力』と噛合って大きな力を発揮する時が来る可能性は十分にある。

■深く静かに進行する革命

先週も記事でも書いたとおり、現在の米国では、『1%』層があまりに強大になり過ぎている。だが、その力が強くなればなるほど、『99%』の側も、相応の『反発のパワー』を貯めていくことになると考えられる。どうやら、ミレニアム世代は、政治闘争やデモのような示威行動はあまり似合わないが、。米国という国の懐の深さはやはり侮れない。革命は深く静かに進行しているのかもしれない。今後ともこの動向を見逃さないよう注視していきたい。

*1:ヒップな生活革命 ideaink 〈アイデアインク〉

作者: 佐久間裕美子

出版社/メーカー: 朝日出版社

発売日: 2014/09/18

*2:スペンド・シフト ― <希望>をもたらす消費 ―

作者: ジョン・ガーズマ,マイケル・ダントニオ,有賀裕子(あるがゆうこ)

出版社/メーカー: プレジデント社

発売日: 2011/07/20

*3:女神的リーダーシップ 世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である

作者: ジョンガーズマ,マイケルダントニオ

出版社/メーカー: プレジデント社

発売日: 2013/11/29

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