SDGsボトムアップアクションプランとは~市民社会から見たSDGsアクションプランへの提言

2018年12月、日本政府は「SDGsアクションプラン2018」を発表した。

2018年12月、日本政府は「SDGsアクションプラン2018」を発表した。同プランは、2016年5月に総理大臣を本部長,官房長官,外務大臣を副本部長とし,全閣僚を構成員として設置された「SDGs推進本部」から発表されたもので、国内におけるSDGs実施と国際協力の両面で取り組む課題を取り上げたものだ。さらに2018年6月には推進本部会合で、同アクションプランを更に具体化・拡大した「拡大版SDGsアクションプラン2018」決定している。

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こうした日本政府の取り組みに対し、その姿勢の在り方を問い、市民社会として「ボトムアップアクション」を提出する動きが進んでいる。推進本部により設置された、各界の有識者で構成される「SDGs推進円卓会議」の第5回会合が2018年5月30日に開催されたが、そこで、市民社会の代表の一人である、稲場雅紀・SDGs市民社会ネットワーク業務執行理事(当時は専務理事)より、「同アクションプランを補完し、ともにSDGsを達成する」ための提案として「ボトムアップアクションプラン」が提起された。

ボトムアップアクションプランをなぜ作成しようと思ったのか、市民社会としてどのような意図を持っているのか、稲場雅紀氏に聞いた。(インタビュアー:長島美紀・SDGs市民社会ネットワーク)

―最初に、「ボトムアップアクションプラン」作成へ至った経緯を教えてください。

「昨年末に政府のSDGs推進本部は『SDGsアクションプラン2018』を発表しました。現状では2018年末には2019年版の「SDGsアクションプラン」の発表が予想されます。この予想されるアクションプランに、市民社会の意見をビジョンも含めて包括的に届け、反映を促すために、作成を開始しました。」

「このプランは決して政府のアクションプランに対抗するようなものではなく、推進本部から出された政府のSDGs達成に向けた方針を市民社会として補完し、共に持続可能な社会つくりを目指すものです。推進本部から出されたアクションプランの課題を指摘するにとどまらず、アクションプランに描かれたビジョンを補完するものとして、ともに取り組む可能性を示しているものです。」

―推進本部によるアクションプランの補完ということですが。

「このアクションプランがドラフト段階で円卓会議に提出されず、完成後に報告の形で提示されたように、政府のSDGs推進の根幹をなすプランを作るのに、マルチステークホルダーと協議するプロセスが欠如していたことは残念です。円卓会議の公式会合にはもちろん、円卓会議のメンバーへの個別の相談といった形でも、事前の相談はありませんでした。これでは、円卓会議の存在意義が相当消えてしまいます。せっかく多様なメンバーが円卓委員として参加しているにも関わらず、SDGsの『日本型モデル』づくりを意図したアクションプランに対して、委員としてインプットができないとなると、委員としても国の政策作りのお役に立てないということで、残念です。」

「政府がアクションプランをトップダウンで作り、単独で決める。そのこと自体、『誰ひとりとり残さない』というSDGsの理念をアクションプランに反映させることを難しくしているといえるでしょう」

―稲場さんから見て、推進本部から出されたアクションプランの課題はほかに何があると思いますか?

「アクションプランでは3本の柱*が掲げられています。しかし問題は、この3本の柱の枠組み自体が、『誰ひとりとり残さない(Leave No One Behind)』のデザインになっていないということです。例えば柱のひとつとして、『ソサエティ5.0の実現を通じたSDGs達成』が掲げられ、『破壊的イノベーション』の推進が挙げられています。しかし、『ソサエティ5.0』は、その考え方からして、社会を『4.0』の地点から全面的に変化させることを目指すものであり、その手段としての『破壊的イノベーション』は、特定の社会問題の解決などとは水準の違うものです。」

「もちろん例えばドローンで遠隔地に医薬品を運ぶ取り組みのように、個別の『破壊的イノベーション』の導入によって、これまでとり残されていた個人が助かることはあります。ただ、こうした個別の技術導入と、社会を『ソサエティ4.0』から『5.0』に全的に『進化』させるようなレベルの『破壊的イノベーション』とは、次元が異なります。そのような『破壊的イノベーション』の連鎖は当然、社会に少数の勝者と、大多数の敗者を生み、少なくとも一時的には格差や貧困が拡大し、SDGsの目指す方向とは逆になります。」

「科学技術イノベーションの推進でSDGsを達成するというのであれば、少なくとも、新規の科学技術をただ導入するだけでなく、それで生じうる様々な課題を見据えた法的・倫理的・社会的な対応の在り方を少なくとも並行して検討・導入すべきです。それがなければ、SDGsの達成、人間中心の社会の実現はかえって遠のくではないでしょうか。」

―「ボトムアップアクションプラン」が完成するスケジュールはいつになりますか?

「10月末に最終案を作成、11月には公開形式で関係者からインプットをいただき、最終的に完成させたいと考えています。」

―今後、アクションプランをめぐりどのような点に注目する必要がありますか?

「今年の年末には、政府が『SDGsアクションプラン2019』が発表され、来年2019年9月には国連ハイレベル政治フォーラム首脳会議で総理がこれをベースにSDGsの『日本型モデル』を打ち出すと思われます。そこでは『科学技術イノベーション』のみならず、SDGs本来の『貧困・格差のない持続可能な社会』を実現するためのビジョンや施策が盛り込まれなければなりません。『ボトムアップアクションプラン』は、そのための市民側からの提起として作っているものです。市民社会の声がどこまで反映され、本当に『人間中心の社会』を実現するための政策がどこまで入るのかがポイントです。」

「最近では地方自治体でのSDGs導入のケースが増えています。各自治体でも独自のSDGs戦略が生れているので、そこでも多くのセクターの視点がきちんと入っているのか、SDGs達成のためのトレンドを国と地方それぞれのレベルで見ることが必要です。」

『誰ひとりとり残さない』というSDGsの理念を実現するために、市民社会を含む多くのセクターの意見を幅広く受け入れることと、近年の科学技術イノベーションに対しても、その先の社会を『人間中心の社会』にするための社会イノベーションの実現を提起する稲場氏。今後のアクションプランをめぐる動きに注目したい。

*アクションプラン2018の3本の柱は①SDGsと連動する 「Society 5.0」の推進、②SDGsを原動力とした 地方創生,強靱で環境に 優しい魅力的なまちづくり、③SDGsの担い手として 次世代・女性の エンパワーメント。

稲場 雅紀 一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 業務執行理事 略歴

1969年生。90年代に横浜・寿町の日雇労働組合の医療班の事務局責任者を務め、医療・生活相談などを担当。また、同時期に自身ゲイであることからLGBTの人権運動やエイズの問題などに取り組む。2002年より(特活)アフリカ日本協議会の国際保健ディレクターとして、途上国の感染症・保健問題に政策面から関わり、同分野の日本のNGOの連携と政策提言を主導。2009年より「ミレニアム開発目標」(MDGs)の実現を目指すNGOネットワークの責任者を務めた後、2017年より「(一社)SDGs市民社会ネットワーク」の専務理事として、SDGs達成のためのNGOの連携や政策提言に従事。共著書に「『対テロ戦争 』 と現代世界」(木戸衛一編、お茶の水書房)などがある。

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