血管使いヒト軟骨の効率的再生に成功

ヒトの耳介の裏側よりほんのわずか採取した軟骨前駆細胞と、胎児のへその緒からとった血管内皮細胞を一緒に培養して、ヒト軟骨を効率よく再生する手法を、横浜市立大大学大学院医学研究科の武部貴則准教授と谷口英樹教授、神奈川県立こども医療センター形成外科の小林眞司部長らが開発した。従来全く着目されていなかったアイデアで軟骨の再生医療に新しい可能性を開いた。9月9日付の米科学誌The Journal of Clinical Investigationオンライン版に発表した。

ヒトの耳介の裏側よりほんのわずか採取した軟骨前駆細胞と、胎児のへその緒からとった血管内皮細胞を一緒に培養して、ヒト軟骨を効率よく再生する手法を、横浜市立大大学大学院医学研究科の武部貴則准教授と谷口英樹教授、神奈川県立こども医療センター形成外科の小林眞司部長らが開発した。従来全く着目されていなかったアイデアで軟骨の再生医療に新しい可能性を開いた。9月9日付の米科学誌The Journal of Clinical Investigationオンライン版に発表した。

研究グループはまず、成体では血管や神経のない単純な組織の軟骨も、発生や再生の初期段階では血管が一時的に存在することを見いだした。この発見をヒントに、軟骨前駆細胞は血管の存在によって、増殖や分化が促進されると推定した。実際に、ヒト軟骨前駆細胞と、へその緒から分離した血管内皮細胞を混ぜて培養する方法を試みて、2日間で血管様構造を有する直径3ミリの立体組織を自律的に誘導するのに成功した。これで、革新的な三次元共培養法を確立した。

この共培養法で生み出された立体組織を、免疫不全マウスの皮下に移植したところ、一時的な血管化が再現され、効率よくヒト軟骨へと成熟した。同じ実験で、軟骨前駆細胞の培養だけで作りだされた軟骨がヒト軟骨に成熟した割合は10~20%前後にとどまり、形成された組織もごく小さく、効率が低かった。これに対して、血管との共培養による立体組織からは、40~50%が軟骨になり、大きさも5ミリほどに達した。

この研究で、軟骨のように単純な組織の再生でも、血管をはじめとする複数種の細胞間相互作用が重要であるという意外な知見がわかった。また、この共培養で作った立体組織は凍結保存して移植に使える可能性もあるという。今後、「全世界で100万人以上存在すると考えられている頭蓋・顎・顔面領域の先天奇形や、外傷やがんによる組織の変形などの患者の治療、修復に役立つ軟骨再生医療につながる」と研究グループは期待している。

武部貴則准教授は「軟骨の形成に血管が重要だという概念がこれまで抜け落ちていた。血管は栄養分を運ぶだけでなく、血管細胞との相互作用がこの三次元共培養法のポイントだ。将来は、患者本人の耳から軟骨前駆細胞を採取し、iPS細胞から作りだした血管内皮細胞と一緒に培養して、軟骨の再生医療に応用したい」と話している。

関連リンク

横浜市立大学 プレスリリース

科学技術振興機構(JST) プレスリリース

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