ハイブリッド自動車の駆動モーターとして使われているネオジム磁石よりも少ないレアアースで、同等以上の優れた磁気特性を持つ新規磁石化合物NdFeNxの合成に、物質・材料研究機構の宝野和博(ほうの かずひろ)フェローのグループが成功した。佐川眞人(さがわ まさと)博士が1982年に発明した世界最強のネオジム磁石の主成分の化合物に匹敵する新規化合物が32年ぶりに見つかったことで、さらなる新規磁石開発が夢物語でないことを示した。10月20日付の金属系材料の国際速報誌Scripta Materialiaオンライン版に発表した。
ネオジム磁石に含まれるネオジムやジスプロシウムはレアアース(希土類元素)で、その産出が特定国に集中しているため、レアアースに頼らない磁石の開発が求められている。ネオジム磁石はネオジム2:鉄14:ホウ素1という磁石化合物(ネオ鉄ボロン)が主成分で、高い異方性磁界と高い磁化のために、それを主成分として作られる磁石は世界最強の磁石としての評価が確立しており、「これ以上の強度の磁石は開発できない」とさえいわれていた。
これまでの研究で、NdFeTiNは安定に合成できる磁石化合物として知られていた。しかし、磁性を持たないチタン(Ti)が添加されているため、磁石としての性能はネオジム磁石より劣り、ほとんど注目されなかった。今回の研究では非磁性元素のチタンを使わずにNdFeの結晶を安定化して成長させ、それを窒素ガスの中で加熱することにより、厚さ350nmのNdFeNx化合物の膜を合成した。その物性値を測定して、異方性磁界が室温で約8テスラ、磁化もすべての温度の領域でネオジム磁石以上の磁気特性を持つことを見いだした。
この化合物の磁気特性は高温で現在のネオ鉄ボロンをしのぐため、この化合物で磁石を作ることができれば、ハイブリッド自動車用磁石で大量に使われているジスプロシウムを使わなくても、優れた磁石特性が得られると期待される。また、NdFeBではNdの質量比が27%であるのに対し、NdFeNxではNdの質量比がわずか17%で済むために(x=1として算出)、レアアースの使用を大幅に削減できる。さらに高価なホウ素を必要としないため、資源的・価格的に有利な化合物といえる。
宝野和博フェローは「現在は、薄膜で合成した新規磁石化合物の物性が既存のネオジム鉄ホウ素化合物よりも優れていることを示した段階で、この化合物を用いて実際に使える磁石にする研究はこれから始まる。まずは、安定なNdFeNxの粉末を大量に作り、磁石の形に固めていく方法を開発する必要がある。今回の発見を突破口に、レアアースが少なくて、ネオジム磁石を超える新規な強力磁石の可能性を探求したい」と意欲を見せている。
関連リンク
・物質・材料研究機構 プレスリリース
・科学技術振興機構 プレスリリース