ノーベル物理学賞に輝いた青色発光ダイオード(LED)の普及が目覚しい。何と、その光を当てると虫たちが死ぬことを、東北大学大学院農学研究科の堀雅敏(ほり まさとし)准教授らが初めて確かめた。波長が短い紫外線は生物に有害であることが知られているが、可視光の中の青色光に、紫外線より強い殺虫効果があったのだ。常識を覆す発見といえる。新しい害虫駆除技術につながるだけでなく、光の生体への影響を研究するのに役立ちそうだ。12月9日の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
波長が100~315nm(ナノメートル)と短い紫外線は生物に対して強い毒性があり、昆虫や微生物にこれらの紫外線を当てると死亡する。しかし、これより長い波長の紫外線(315~400nm)に関しては、昆虫に対する致死効果は報告されていない。光は波長が短いほど、エネルギーが高くて、生物に対する毒性が大きいことから、可視光を当てるだけで昆虫が死ぬとは考えられていなかった。
この研究は、害虫のハモグリバエに光を当て続けると、サナギから羽化してこないという実験をきっかけに偶然始めた。この実験はその後、再現できず、今から見ると、間違いだった可能性が強いが、さまざまな波長のLED光をさまざまな虫に当てて、殺虫効果を調べた。5年間、実験を重ねた。この間、LEDが発展し、いろいろな波長の強い光が使えるようになって、詳細な実験が実現した。
まず、378~732nm(長波長紫外線~近赤外光)にわたるさまざまな波長のLED光の下にショウジョウバエのサナギを置き、羽化できない割合を調べた。LED光の強さは直射日光に含まれる青色光の3分の1程度とした。その結果、青色光を当てたサナギは死んだ。青色光の中でも、波長によって効果が異なり、特に 467nm は100%近い殺虫力だった。卵、幼虫、成虫にも467nmの光を照射したら、いずれも死亡した。紫外線より青色光のほうが殺虫力は高く、光の致死効果は波長が短いほど大きいという従来の考えに当てはまらない動物種の存在が明らかになった。
次に、ありふれた蚊のチカイエカのサナギへの致死効果を探った。チカイエカも青色光で死んだが、効果の高い波長は 417nmだけで、ショウジョウバエと異なっていた。また、ショウジョウバエよりも青色光に耐え、みな殺しにするには直射日光に含まれる青色光の1.5倍程度の光の強さを必要とした。417nmの殺虫効果は卵でも認められた。小麦粉などの大害虫のヒラタコクヌストモドキのサナギでも調べたところ、非常に高い殺虫効果が認められた。この虫は暗い場所で生息するためか、直射日光の5分の1から4分の1程度の光の強さで、すべてのサナギが死んだ。
可視光のうち、400~500nmの青色光がヒトの目に傷害を与えることが最近、報告されている。青色光の殺虫効果もやや似ている。その仕組みとして、研究グループは「種によって、光感受性物質で吸収しやすい光の波長が異なり、その波長の光が虫の体内に吸収されて、活性酸素が生じ、細胞や組織が傷害を受けて死亡する」との仮説を提唱している。
堀雅敏准教授は「偶然の失敗から生まれた発見で、結果を見て驚いた。青色光で昆虫が死ぬというのはこれまで考えられなかった新現象だ。その基礎的な仕組みを昆虫の実験で解明したい。害虫駆除装置に青色LEDの活用できる可能性も高い。青色網膜障害などヒトの健康面の研究のモデルにもなるだろう」と話している。
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(いずれも提供:東北大学)
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・東北大学 プレスリリース