毎冬流行して多くの犠牲者を出すインフルエンザの研究に新しい突破口が開けた。インフルエンザウイルスの増殖に関わるヒトの約300個の宿主タンパク質を突き止め、各タンパク質のウイルス増殖への作用を決定することに、東京大学医科学研究所の河岡義裕(かわおか よしひろ)教授と渡邉登喜子(わたなべ ときこ)特任准教授らが初めて成功した。
数種類の宿主たんぱく質の機能阻害剤が抗ウイルス効果を示すことも示し、インフルエンザ新薬の開発に道を開いた。米ウィスコンシン大学、宮崎大学との共同研究で、11月20日付の米科学誌Cell Host and Microbeオンライン速報版で発表した。
現在のインフルエンザ薬は、特定のウイルスタンパク質の働きを抑えるため、ウイルス遺伝子の変異で薬剤耐性ウイルスができる弱点がある。ウイルスのタンパク質に作用せずに増殖を抑える薬の開発が待望されている。ウイルスは細菌のように自力では増殖できず、感染するヒトなどの宿主細胞のタンパク質を利用して増える。しかし、インフルエンザウイルスの増殖でヒト側の宿主タンパク質はこれまで、ほとんど明らかになっていなかった。
研究グループは免疫沈降法と質量分析法を組み合わせて、11個のインフルエンザウイルスのタンパク質と結合するヒトのタンパク質を網羅的に探索し、1292個の宿主因子の候補を見いだした。これらの遺伝子の発現を抑えた細胞にインフルエンザウイルスを感染させて増え方を調べ、ウイルス増殖に関わる323個まで絞り込んだ。そのうち91個の宿主因子を調べ、ウイルスが増殖する仕組みのどの段階に作用しているかを解明した。詳細な解析で、ウイルス増殖に深く関わるとはっきりわかったのはヒトの69個のタンパク質だった。
さらに、宿主因子の機能阻害剤が抗ウイルス薬として有効であるかどうかを調べたところ、数種類の既存の薬がウイルス増殖を顕著に抑制することを確かめた。河岡義裕教授は「インフルエンザの基礎研究で非常に有用なヒト宿主因子の情報を提供できた。今後、長年にわたって利用されるだろう。この情報を基に、革新的なインフルエンザ治療薬の開発なども期待できる」と意義を指摘している。
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・科学技術振興機構 プレスリリース