東京電力福島第一原発後の放射性セシウムの除染は長く続く課題である。人々が長時間暮らす家屋内の線量も重要となる。その推定に新しい手がかりが出た。避難指示区域の家屋内の調査で、木造家屋の低減率(住家内/外空間線量率比)の中央値が0.43であることを、東北大学大学院薬学研究科の吉田浩子(よしだ ひろこ)講師らが確かめた。国際原子力機関(IAEA)が示す数値0.4とほぼ同じだが、低減率の頻度分布は大きい方に広がっていた。
その原因として、山や丘の斜面に近いという福島県の家屋の立地条件と、セメント瓦の影響を見いだした。一時帰還や、避難指示解除後の帰還の際に、家屋内の線量がどれくらいか、を判断する指針として役立ちそうだ。12月18日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
住民の被ばく線量を推定する場合、空間線量率で外部被ばく線量を見るが、滞在時間が長い屋内の空間線量は家屋の外の空間線量に低減率を掛けて求める。このため、適切な低減率を用いることが特に重要になる。事故後の年間被ばく線量の推定にはこれまで、IAEAが示している、1階と2階建ての木造の家での低減率0.4(代表的な範囲0.2-0.5)が使われてきたが、これらの値が日本の木造家屋に適切かどうかの検証はされていなかった。
研究グループは、福島県飯舘村や南相馬市小高などの避難指示区域で木造家屋の低減率について、実態調査を2012年から継続している。2013年まで調査した69軒で得られた522個のデータから低減率の頻度分布を取得した。その中央値は0.43で、IAEAが示す基準の数値0.4とほぼ同じだったが、低減率の頻度分布は異なり、大きい方に広がっていた。IAEAが示す代表的範囲の0.2-0.5では全体の66.5%しかカバーしていなかった。吉田浩子講師は、福島県の木造家屋の代表的範囲を0.2-0.7(87.7%)と広くとるよう、提案している。
データを解析して低減率が上がる原因を探った。原発事故の被災地は、家屋の背面や側面は山や丘の斜面であることが多く、斜面に面している部屋では、放射性物質が付着した落ち葉や表土が流れ落ちてきた影響を受け、表側の部屋より室内の空間線量率が高くなり、低減率が大きくなった。また、調査を行った家の屋根は陶器瓦、トタン屋根、セメント瓦の3種類だったが、セメント瓦の家の7軒のうち4軒で屋根の下のどの部屋でも低減率は0.7~1.0と大きな値を示した。セメント瓦をサンプリングして測定したところ、屋根の下の部屋の空間線量率に影響を与えるレベルの放射性セシウムを含んでいることがわかった。
吉田浩子講師は「大学のヒト研究倫理審査委員会の承認を受け、地元自治体や家屋の所有者の協力を得て地道に調査を続けた。住民の方にはそれぞれのデータを知らせている。大熊町と富岡町を加え、調査した家屋は現在、100軒を超えているが、傾向は同じだ。ただ、住宅の周りを除染した後の家屋内の低減率は上昇する傾向にあり、さらなる調査が必要だ。IAEAの値と分布は米国のテネシー州の平地で行った実験を基にしており、平地の家と山や森林が多い日本との違いが出たと思う。今後も調査を続けて、避難している人々に調査結果を報告していきたい」と話している。
関連リンク
・東北大学 プレスリリース