丸い体に吸盤を持つかわいらしい姿とカラフルな色彩で人気があるダンゴウオ科のコンペイトウとコブフウセンウオ、ナメフウセンウオの2属3種が実は同じ種だったことを、北海道大学水産学部の阿部拓三(あべ たくぞう)助教らが突き止めた。兵庫県沖の日本海のカニ底引き網で採集した貝殻の中に見つかった卵をふ化させて飼育し、雌はコンペイトウに、雄はコブフウセンウオを経てナメフウセンウオに成長することを確かめた。
脊椎動物の魚で、1つの種が3つの別種として記載されていたのは珍しい。種の分類の混乱を正す研究といえる。東京都小笠原水産センターの羽田野桃子(はたの ももこ)研究員、兵庫県立大学の和田年史(わだ としふみ)准教授、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの宗原弘幸(むねはら ひろゆき)准教授との共同研究で、2月12日付の英科学誌Journal of Fish Biologyオンライン版に発表した。
ダンゴウオ科魚類は、北半球の冷水域の海底に生息する海産魚。ユーモラスな形態と色彩で、水族館やスキューバダイバーの間で人気者になっている。これまで同科には28種がいるとされてきた。種の分類には、主に体表のコブの数や大きさの違いが使われてきた。生物は成長に伴い雄と雌で形態が異なる場合がある。深海に生息する生物は、標本が少なく、成長段階の観察も難しいため、形態が大きく違うと、別の種として分類されてしまう恐れがある。
研究グループは、兵庫県沖の日本海のカニ底引き網で採集される標本調査から、コンペイトウが雌ばかりで、コブフウセンウオ、ナメフウセンウオは雄のみであることを見いだし、「これらの3種が同種ではないか」と仮説を立てた。この仮説を検証するため、カニ底引き網で採集されたダンゴウオ科魚類の卵塊を入手し、北海道大学の臼尻水産実験所(函館市)でふ化させた稚魚を約2年間飼育した。この卵塊は、巻貝類 (エゾボラ科)の空殻内で卵の世話をする親魚らしいコブフウセンウオの雄とともに採集された。深海と同じ低温(4~10℃)の海水中で飼育し、蛍光タグで個体識別して形態変化を詳しく追跡した。
ふ化後4~7カ月目にコブの発達が認められた。10カ月ごろから、2つのタイプへの成長が認められた。1つ目のタイプは、コブの数やサイズが成長とともに増加し、体のサイズも大きくなり、24カ月で体長約12 cmの丸いソフトボール大に成長した。また、第1背鰭(びれ)が低くなり、コブの間に徐々に埋もれていった。2つ目の タイプは、発達を続けていたコブがふ化後13カ月を過ぎたころから徐々に皮膚に覆われ始め、コブがほとんど見られなくなる個体も現れた。このタイプの体サイズは小さく、体長7cmぐらいで成長が止まった。1つ目のタイプは雌、2つ目のタイプは雄だった。
コブが発達した雌はコンペイトウ、頭部のコブが消えて体の側面にコブが残っている雄はコブフウセンウオ、さらに成長してコブが見られなくなった個体はナメフウセンウオの特徴にそれぞれ一致した。別種として分類されていた3種は、同じ種類の雌と成長段階の異なる雄だったことを実証した。DNA分析でも3種すべてが同種であることを確かめた。
これら 3種に学名が与えられた順番は、コンペイトウが1912年、コブフウセンウオが1929 年、ナメフウセンウオが1930年の順。80年以上の年月を経て、これらの3種が同種だったという新事実が浮かび上がった。また、この研究で、ダンゴウオ科に特徴的なこぶは、性や成長段階の違いで変化し、消失する場合があることも初めて示した。
ダンゴウオの生態を研究する阿部拓三助教は「別種とみていたのが同種とは、最初まさかと思った。博物館などの収蔵標本を精査し、学名の変更手続きを進めたい。分類形質として使われてきたコブが成長過程で大きく変化することがわかったので、ダンゴウオ科魚類を分類する確たる指標が必要になる。調査のメスが入りづらい深海や寒冷域の海にはまだ謎がある。飼育実験などを重ねれば、多くの発見がもたらされるだろう」と話している。
関連リンク
・北海道大学 プレスリリース