アリの集団が長い期間存続するためには常に働いているアリだけでなく働かないアリもいる必要がある―。こうした興味深い研究を北海道大学大学院農学研究院の長谷川英祐(はせがわ えいすけ)准教授らがこのほどまとめた。アリの世界では、働き者のアリが疲れて働けなくなると怠け者のアリが「交代要員」として働き始めるという。論文は英科学誌に掲載された。
長谷川准教授ら研究グループによると、アリやハチなどの「社会性昆虫」の集団には、ほとんど働かない個体が常に2∼3割存在する。こうした「怠け者」は短期的な生産効率を下げるため、短期効率を求める自然界になぜ存在するのかが大きな謎だった。
長谷川准教授らによると、アリには「反応閾(いき)値」と呼ばれる「仕事への腰の軽さ」に個体差がある。閾値が低いアリはすぐ働き始めるのでいつでも働いているが、閾値が高いアリはなかなか働かない。
しかし働き者のアリが疲れて休んでいると、例えば「卵が放置されている」など、処理されずにたまった仕事がある種の刺激を出す。この刺激が、閾値が高いアリに働き掛けて当初の怠け者だったアリも働き始めるという。この傾向について研究グループは、今回8集団(1集団は150匹)のアリの行動を1カ月以上観察する実験で確かめた。
研究グループは、コンピューターシミュレーションで、すべてのアリの反応閾値が「5」で平均的に働いて疲れがたまるペースも同じ75匹の集団と、反応閾値が「0∼10」でよく働くアリからなかなか働かないアリまで混在する75匹の集団を設定し、仕事が出す刺激や疲労度もコンピューターモデル化してさまざまなデータを入力してシミュレーションを繰り返し行った。
その結果、働くアリだけの集団は一斉に疲労がたまって集団が維持できなくなったのに対し、働かないアリもいる集団は、反応閾値が高い怠け者アリも働き者アリが疲れると最後は「交代要員」として働き始めるため、より長く維持できることがはっきりした、という。
社会性昆虫の世界と異なり人間の世界では、怠け者は周囲の環境変化にも最後まで無関心な場合も多いが、人間組織に関して長谷川准教授は「人間の世界でも組織の短期的効率を求めすぎると組織は大きなダメージを受ける。(今回の研究は)このため組織運営に当たり、長期的存続の観点を含めて考えることが重要であることが示された」としている。
関連リンク
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