「噂を聞いたか。来年の1月から、部長が代わるらしい。しかも、どうやらTさんが後任のようだ。」赤提灯で暗い顔して、会社員の太郎が低い声で話しました。「ええ〜、あのTさん?弱ったなぁ。横柄で、仕事のことも全然わからないくせに人に怒鳴り散らしてばかり。パワハラとかセクハラとかもあって、会社中で嫌われている人だね。1月から我々もしばらく大変だ...」一緒に飲んでいる課の人たちが一気にしんみりします。
ところが、それを聞いて「しめた」と思った人がいました。皆に少し煙たがられているゴマスリ君が店の隅で聞き耳を立てていたのです。「いい情報を掴んだ。これで僕もついに出世への道が拓けるぞ。」そして翌日の朝一番、ゴマスリ君は早速活動を開始します。Tさんに電話をかけて、「以前から尊敬しています。是非とも酒の席でもご一緒して、夢を語り合うことをお許しください!」Tさんは強烈なラブコールをかけて何度もTさんを誘い出して、酒をご馳走した上に高価な手土産などもあげます。
当然のことながら、ゴマスリ君の行動はすぐに課の他の人たちにばれ、いよいよ本格的に嫌われ者になります。恥も外聞もなくT氏にへつらうゴマスリ君を皆は顰蹙に思い、誰も口をきかなくなります。しかし、それでもゴマスリ君はめげません。「ふん、そんな連中など関係ないさ。Tさんにさえ気に入られたら、1月に彼が部長に就任したらバラ色人生が待ち受けている。今に見ていればいい。」
ところが、そうは問屋が卸しません。T氏はとても嫌な人なのですが、もちろんバカではないのです。へつらいの態度ばかりとるゴマスリ君の本性をすぐに見抜き、足元を見ます。そして部長として就任した後はゴマスリ君に昇進をチラつかせて馬車馬のように働かせながら、いざという時は重用どころか、むしろ冷遇するのです。
「えっ、こんなはずでなかったのに...」と期待が裏切られたゴマスリ君はしぼむのですが、自業自得であるのは言うまでもありません。ゴマスリ君は社内のどこに行っても皆に背を向けられ、後ろ指を指されます。
「外交の場」と言えばとても華やかに聞こえ、極めて洗練されているものだと思い込んでいる方は多いように思います。無論皆高価な洋服を着て、豪華な場所で高級なシャンパンなど飲むのでそのように見られるのは仕方がありませんが、その仕事をしているのは当然皆人間で、本質的なところは変わりません。
すなわちゴマスリ君のように一般社会でバカにされ、嫌われるような人というのは、外交の場、国際政治の場であっても、やはり同じように皆にバカにされて、嫌わられるのです。
おまけに、少しわかりやすくするために「会社の上司と部下」という例えを使いましたが、それは実は完全に不適切で、日米には上下関係はなく、国際法および国際関係では対等な国家同士なのです。まだ大統領にもなっていない相手のところに慌てて飛んで行って、尻尾を振ってへつらうようでは、到底国家の首脳の器とは言えません。
「信頼関係の構築」どころか、足元を見られるのは子供でもわかることです。そして、曲がりなりにも外交の場に長く関わってきた者として断言しますが、ゴマスリ君が同僚にますます嫌われたのと同じように、日本が欧州など他の先進国にますます「情けない国」と思われるのが関の山です。悲しいかな、それがゴマスリ君の「お貢外交」の末路です。