「投票しない」行為は、安倍総理に「もりかけ問題」に対する免罪符を与えること

安倍首相は、「森友・加計学園問題ぐらいでは揺るがない」ことを証明したい。

10日に衆院選の公示がされましたが、今回の選挙はこれまでになく重要だと考えています。私たち日本人の一人一人が、今回の選挙の本当の争点は何であるかをちゃんと理解した上で選挙に参加しない限りは、政治家はどんどん自分たちの権力を強め、ますます自分達だけに都合の良い方向に国を持って行ってしまうと思います。

今回の選挙の争点は、原発でも、安保法制でも、消費税引き上げでもありません。日本国憲法によって定められた、「立憲主義」の是非が問われているのです。分かりやすく言えば、「国の主権者は国民である。政治家に必要以上の力を与えると、ろくなことはしないので、その力を制限すべき」という考え方を今後も維持すべきかどうか、が選挙の争点なのです。

世界の民主主義国家の多くは、「民主革命」や「独立戦争」によって、「自由」を勝ち取って来ました。フランス革命やアメリカの独立戦争が良い例です。

その中で、日本は民主革命なしに民主主義国家となった特異な例なのです。

明治維新は、人民主導の革命ではなく、薩長による徳川幕府の転覆(クーデター)であり、そこで作られたのは、天皇を元首とした国家主義の国でした。

その形は、第二次世界大戦まで続き、敗戦後に米国の占領下で作られた今の日本国憲法により、日本国民は初めて「国の主権者」となることが出来たのです。つまり、現在、私たち日本国民が持つ自由と人権は、日本が戦争に負けることによって得ることが出来たという、少し変わった素性を持つものなのです。

しかし、この「米国の占領下で作られた日本国憲法」に不満を持つ人たちが、日本には少なからずいるのです。「国民に主権など与えるべきではない」、「天皇を元首とした国家主義が日本人には向いている」、「日本は戦争に負けたから、悪者にされただけだ」と本気で考える人たちです。

安倍首相やそのバックにある日本会議の人たちは、「日本国憲法は米国から押し付けられた恥ずべき憲法」と主張しますが、果たしてそうなのでしょうか。本当に恥ずべきなのは、負けると分かっている無謀な戦争を始め、数多くのアジアの人々の命や財産を奪っただけでなく、数多くの日本国民を無駄死にさせた軍部であり、政治家であり、国家主義ではないのでしょうか。

日本国憲法の策定に関わった人たち(日本国憲法は占領軍が一方的に定めたものではなく、日米両方の人たちが関わっています)は、日本国憲法を国家主義に苦しんで来た日本国民に対する、「最高のギフト」だと考えていましたが、そのギフトを素直に受け取れない人たちが未だに大勢いるのです。

自民党の憲法改正案を見れば分かりますが、安倍首相は、国民の権利を制限し、政府により多くの力を与えることにより、日本を戦前の国家主義的な国に戻そうとしているのです。安倍政権は、これまで、秘密保持法や共謀罪で国家権力を強化し、(軍国化を招きやすい)武器輸出を解禁し、安保法で日本を「他の国に行って戦争できる国」にしてしまいました。安倍政権の望むままに憲法を改正してしまっては、政府の権力が強くなりすぎ、立憲主義がないがしろにされてしまうのです。

私たちが決して忘れてならないのは、立憲主義の根底の考えにある「政治家に力を与えすぎるとろくなことはない」 の良い例が、森友・加計学園問題だ、という点です。権力を持つ人たちは、この手の誘惑に毎日のように晒(さら)されるのです。よほどの聖人君子でない限りは、友達や家族を優遇してしまう誘惑に逆らえないのです。だからこそ彼らの力を制限しなければならないし、そのために憲法はあるのです。

安倍首相は、今回の解散総選挙に勝つことにより、「森友・加計学園問題ぐらいでは安倍政権は揺るがない」ことを証明したいのです。野党はバラバラだし、投票率は相変わらず低いので、今なら勝てると勝負に出たのです。

つまり、今回の選挙で「投票しない」ということは、「国民に主権など必要ない、政治家が家族や友達に国有地を安く払い下げたり、彼らのビジネスを税金で補助しても構わない」という免罪符を安倍総理に与えるのと同等なのです。

それぞれの人がどの党に投票するかは、その人の自由です。各党が何を目指すのかに耳を傾け、選んでいただければ良いと思います。最悪なのは「投票しない」ことにより、安倍首相に免罪符を与えることです。

参考までに、現状の日本国憲法の前文を下に貼り付けておきます。この文書を読んで、「恥ずべきもの」と感じるか、「誇るべきもの」と感じるかで、投票先を決めるのも悪くないと思います。

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

この文章は、もともとは(株)まぐまぐから発行されている有料メルマガ「週刊 Life is Beautiful」向けに書いたものですが、より多くの方々に読んでいただきたいので、一般公開することにしました。

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