築地市場の豊洲移転問題

移転に反対する理由は、様々なものがありますが、大きく2つに分けると豊洲市場の土壌汚染と物流関係の問題があります。

1 移転延期を求める仲卸の声

現在、小池百合子東京都知事が、築地市場の豊洲移転に関して移転予定日(11月7日)を延期するかどうかが注目されています。

築地市場で仲卸業を営む人たちの中には11月7日に豊洲市場へ移転することに強い危機感があり、移転予定日の変更を求める声があがっています(※1)。

仲卸の人たちが11月7日の移転に反対する理由は、様々なものがありますが、大きく2つに分けると豊洲市場の土壌汚染と物流関係の問題があります。

2 土壌汚染の問題

豊洲市場予定地は東京ガスの工場跡地であり、昭和31年から昭和63年まで都市ガスの製造・供給が行われていた場所です。土壌からは、これまで環境基準を大きく超える汚染物質が見つかっています(※2)。

東京都は土壌汚染対策を行ったとしますが、豊洲市場予定地は、現在でも土壌汚染対策法の汚染が存在する区域(形質変更時要届出区域)に指定されており、まだ指定解除されていません。

土壌汚染対策法は、土壌の特定有害物質による汚染の除去できた場合には、形質変更時要届出区域の指定を解除すると定めています(同法11条2項)。「汚染の除去」が完了するためには、「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続することを確認すること」が必要とされています(同法施行規則40条別表6)。これが2年間の地下水モニタリング調査の問題です。

2014年11月18日から地下水を採取調査していますので、2016年11月7日の移転予定日時点では、「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続することを確認すること」ができません。そのため、11月7日時点では、汚染が存在する区域(形質変更時要届出区域)の指定解除ができないのです。

汚染の摂取経路がない「形質変更時要届出区域」(同法11条)については、汚染除去の措置を行わずに指定を解除しないまま盛土等を行って土地利用することも土壌汚染対策法上は可能です。しかし、農林水産省の資料では、汚染が存在する区域である「形質変更時要届出区域」について「生鮮食料品を取り扱う卸売市場用地の場合には想定し得ない」と明記しています(※3)。

汚染が存在する区域である「形質変更時要届出区域」

⇒「生鮮食料品を取り扱う卸売市場用地の場合には想定し得ない」

(農林水産省作成資料「改正土壌汚染対策法の概要」より)

3 物流の問題

築地市場では、買い出しに来た業者がトラックを停めているスペースへ、水産卸業者や青果卸業者がターレーという構内用の運搬車で商品を配達しています。

しかし、豊洲新市場では、水産物市場、青果市場の間には環状二号線があるなど、各街区に分断されていますので、街区をまたいで運搬するときにはいちいちトラックなどに積み替えなければならないという不安の声があります。豊洲新市場までのアクセスも不便になり、時間帯によっては豊洲新市場までの道路が渋滞する可能性も指摘されております。

これでは、配達にかかる時間も人件費も今までよりも増え、鮮度が重要な生鮮食品の流通が滞ったり、価格が上がるなど、私たち消費者の日常生活にも影響を及ばすような問題が生じる可能性もあります。

4 築地市場の豊洲移転には農林水産大臣の認可が必要

市場の移転は、開設者である東京都が申請して、農林水産大臣が認可するという仕組みになっています(卸売市場法8条、11条1項)。

農林水産省が2016年1月14日に策定した『卸売市場整備基本方針』では、卸売市場の基本的指標が示されており、その中の「立地に関する事項」では、次の条件が掲げられています(※4)。土壌汚染の問題も物流の問題も、豊洲新市場が中央卸売市場として適切かどうか農林水産大臣が判断する際に考慮する事項となります。

・道路など生鮮食料品等流通に関連する公共インフラの整備計画との整合性が確保され、かつ、災害時等も考慮して交通事情が良好な場所であること。

・各種施設が適切に配置され、施設利用の効率性が確保され得る地形であること。

・生鮮食料品等の安全・衛生上適切な環境にある地域であること。

現在、東京都は、農林水産大臣に対して、まだ正式な申請をしていない状態です。築地市場は、世界に誇る築地ブランドであり、日本の食文化を育んできた場所です。豊洲移転に関して多くの問題があることが明らかになったのですから、移転を強行するのではなく、築地で働く仲卸の人たちの声に耳を傾け、私たち消費者、都民にも問題の所在と解決の方向がわかるように、情報公開を徹底して、透明性を大切にして検討してほしいと期待しています。

※1 2016年5月20日には、122の仲卸業者の署名を携え、豊洲新市場への移転予定日を変更し、仲卸の声を聴くよう、農林水産大臣、東京都知事宛てに要望書を提出しました。また、仲卸の方々を対象としたアンケートでは、過半数を超える320の仲卸業者が11月7日の開場に反対すると答えています。8月26日に行われた水産仲卸の東京魚市場卸協同組合(東卸)の組合員を代表する総代選挙で、「移転延期」派が8割を占めたと報じられています(http://bylines.news.yahoo.co.jp/masakiikegami/20160827-00061568/)。

※2 東京都の専門家会議による調査の結果、ベンゼン(発がん性物質)が環境基準の4万3000倍、シアン化合物(青酸カリもシアン化合物の一種)が検出基準の860倍、ヒ素(和歌山毒カレー事件で検出された物質)が環境基準の7倍、鉛(汚染された食品を摂取しつづけると、体内に蓄積され健康へ影響)が環境基準の9倍、水銀(水俣病の原因となった物質)が環境基準の25倍などの有害物質が検出されています。

※3 農林水産省 食品産業部会(平成23年3月25日)配布資料(参考4別添7)http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokusan/bukai_08/index.html

※4 農林水産省『卸売市場整備基本方針』 http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sijyo/info/pdf/10zi_housin.pdf

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